第36話「年末格闘イベントFUTURE」
年末に向けて活動していたのは、アゲハだけではない。
砂川真也もまた大晦日のための準備をしていた、12月31日と言えばそう、格闘技イベントである。
――12月31日 さいたまスーパーアリーナ
総合格闘イベント「FURURE」 メインイベントーー
『すぅうううううなああああかわぁあああああわぁああああああ、しぃいいんんんんやぁあああああ』
という外人のおばさんの巻き舌過ぎるコールによって、砂川真也の名前が呼ばれると、なんと入場テーマはいつもの砂川の曲ではなく、アゲハがYSK36のために作った「NEVER」が流された。
その瞬間観衆は、歓声をあげながらも大きくどよめいていた。
「いや解説の小佐野さん、来ましたねYSKの曲ですよ」
「そうですね、宣言通りみこちゃんのための戦いなんですね、いやあ今日アリーナに来たお客さんは大正解ですよ。まさに世紀の一戦です」
解説が言う通り、大晦日で行われる戦いは砂川自らがみこのための聖戦と題したものであり、信じられないマッチメイクが組まれた。
大注目のこの試合のチケットの最前列は何とプレミアで100万をこえたといわれている。
□ □ □
砂川真也にはかねてから、神野みことの交際疑惑が上がっており、たびたび一般人から二人でいるところを目撃されていた、これはもちろん二人で酒を飲んだ時の帰りなどで目撃されていたものだが、マスコミは圧力によってこのことを報じてこなかった。
しかしこのたび砂川は、みこが倒れたことを受け、「親友であるみこ」のために戦うと宣言し、大晦日の格闘技特番に出場することを表明していた。
マスコミは一斉に食いついて二人の関係を問いただしたが、そこはあくまで古くからの友達であると答えただけで、それ以上は一切答えなかった。
そして、皆が注目される中、砂川は一番強い相手と戦いたいと要望し、対戦相手となったのが、なんと当時のボクシングスーパーウェイト級チャンピオン、マネー・ビックルである。
世界で一番金を稼ぐ男として有名なマネー・ビックルは、なんと6階級制覇を成し遂げた男であり、フィリピンの英雄として、2010年にはフィリピンの下院議員としても活動を始めた。
誰もがビックルが参戦するなどとは思っていなかったが、議員つながりの外交ルートで大泉が段取りをし、さらには、相当な資金が天晴会から出ることによって実現したものであった。しかし事情を知らないマスコミは、成立するはずのな奇跡のマッチメイクを実現させたとして、主催する「FUTURE」という組織のプロデューサー山下を大いにたたえた。
年末のマスコミは尖閣諸島から始まり、11月には新政民政党政権が発足し、神野みこ関連のニュースや20歳被選挙権への関心からそちらへとシフトしつつあったが、AGEHAの活躍と砂川真也VSマネー・ビッケルの注目度の高さのおかげで、再び神野みこの話題が中心へと戻ってきた。
「ALL FOR MIKO」を合言葉に、砂川とAGEHA、そして学生運動家に出央がテレビ番組で共演することも度々あり、そのたびにみこの提唱する20歳被選挙権が取り上げられ、国民に認知させるのに大きく影響した。
様々な思惑の中、砂川は年末のビッグマッチに挑むことになった。
□ □ □
『青コーナー 初代FUTUREミドル級チャンピオン、並びにWKFウェルター級チャンピオン すなかわぁーーしんやーーー!』
『赤コーナー、WBA6階級チャンピオン、マネーーーッ・ビッケルー!』
ビックルの入場が終わって二人の名前がコールされる。
『なおこの戦いは、ビッケル氏の方からキックボクシングルールでの申し出がありましたが、砂川がボクシングルールを希望しましたので、両者合意の元、ボクシングルールで行われることになります』
事前に発表はされていたが、このアナウンスを受けて場内はより一層のざわめきを見せる。パンチにも定評がある砂川であったが、相手は最強のボクサーである、そのキックなしのルールは完全に無謀と言え、「勝ちを捨てた」あるいは「ビッケルの機嫌を取りに来た」とか言われて誰も砂川の勝利を予想するものはいなかった。
68㎏で契約された体重は、ビックルが66kg、砂川が68kgで砂川が有利であったが、下馬評を覆すような要因にはなりえない。なにせ、ビックルは6階級制覇王者であり、自分の体重よりも8Kg重い相手を倒したこともあるのだ。
レフェリーのボディチェックが終わって、軽く二人はお互いのグローブを当て合う、そして二人はそれぞれのコーナーに下がった。
リング下のカメラマンたちが、一斉にフラッシュをたき注目の瞬間を見守る。
―カーン!
運命のゴングが打ち鳴らされた!
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