第8話「三者会談」
2009年11月某日、龍太は母親とテレビのスタジオに来ていた。
「へぇ、お母さんテレビ局とか初めて。でもなんで龍ちゃんのところに連絡が来たのかしらね」
「……僕が、応募してみたんだけど、なんか当選しちゃったみたいだね」
「ふーん、よほど、みこちゃんと縁があるのねぇ、でも龍ちゃんへ家では、全然YSKの曲とかきいたりしてないけど、そんな好きなの? なんだかよくわからない子ね」
むしろ、自分の方がみこちゃんを好きなのではないかと龍太の母は常々思っていた。
二人はスタッフに促されて、スタジオに案内される。高い天井の上には無数のライトが吊るされていてとてもまぶしい。
二人は舞台セットからそう遠くない場所で、きれいに整列されたイスに座るよう促される。すでに椅子には10組くらいの親子連れが座って待っていた。
「あ、隣すいません」
母はそういうと、唯一空いている席に座ろうとした、しかし母が座ろうとした瞬間にその席に龍太は割り込むのだった。
「何よもう、龍ちゃん」
母は隣の親子連れの子どもの隣に座ろうとしたのだけど、どうしてもそこには龍太が座らなければならなかったのである。
龍太が座るとすぐ隣の少年から非常に小さな音で声をかけられた。
「お久しぶりです、陸奥です」
スタジオ中がガヤガヤしてるので、隣の大人には声が届かないようだ。
「久しいの陸奥、元気にしとったか」
龍太も可能な限りの小声で応じる。
「坂本さんの死後、私なりに頑張ってつもりだったのですが、いかがでしょう」
スタジオのうるささのせいで一部聞き取れなかったが、龍太には言いたいことは伝わった。
「現世で知ったぜよ、忠義な奴だなおまんさんは、何もわしの復讐せんでもよかったやが」
「悔しかったのです」
「まあよかぜよ……あまりこそこそ話していてもな。おそらくおりょうが機会を作るだろう。それを待とう」
「承知です」
スタジオのざわついた空気が落ち着くと、間もなくいかにもテレビ番組の冒頭らしい曲とともにセット奥から司会と思わしき人間と神野みこが出てきた。観客はスタッフに促されて、拍手で二人を迎えた。
「さて、今日から始まります。新番組『YSK36の恋する歴史』司会のオニギリズの上杉と」
「YSK36の神野みこです!よろしくお願いします」
「いやあ、今話題のYSKのみこちゃんじゃないですか、やっぱかわいいですねぇ。それでこれはどんな番組なんですか?」
「こう見えてもとっても歴史に強い私、神野みこがみんなと一緒に日本と世界の歴史を学んでいく番組ですよぉ」
「ちょっとちょっと大丈夫、ありきたりすぎるけど」
「大丈夫です、歴史っていっても恋愛が中心ですからね。なんといってもみこは歴史の中の恋愛事情がとっても大好きなんです。きゅんとしちゃう物語たっぷり紹介しちゃいますよ」
「なんか明らかに歴女を狙った番組だなあ。さてそんなみこちゃんは誰が一番好きなの?」
「それはもちろん卑弥呼です!」
「ほう、そりゃまたなんで?」
「名前私に似てるじゃないですか?」
「おいおい、大丈夫かいみこちゃん本当に?」
「まかせてくださぁい」
となんだかよくわからないオープニングトークが始まっていた。観客たちはおおむね笑ってそれを見ているようだ。
これを見ながら二人はこそこそと話し合う。
「卑弥呼は場慣れしてるちゃ……さすがというかなんというか」
「その辺のアイドルとは生きてる年齢が違いますからね」
「年齢のこというとまた不機嫌になるぜよ」
「それにしてもなんですかねこの番組、歴史恋愛ものですか」
「絶対、わしとおりょうの話が美化されそうじゃな」
「私も妻が美人ですからね、取り上げられそうですね」
「おまんさんは無理じゃ」
「なぜです?亮子は社交界の華でしたよ」
「おまんさんの吉原通いが行かんぜよ。純愛からはほど遠いぜよ」
「そんなら坂本さんだって」
「なんじゃ?」
と言ったところで、両隣の母親から注意を受けた。
「ちょっとカオス、さっきから何をこそこそ話してるの静かにしなさい。すいませんうちの子が……」
「いえいえこちらこそごめんなさい、ちょっと龍ちゃん静かにしててね」
仕方なく二人は静かに番組の推移を見守ることにするのだった。
番組はつつがなく進行し続け30分後。
『それではいったん、次の企画があるんでカメラ止めて休憩入れまーす。すいません誰かお子様に参加していただきたいので、みこちゃんの指名でそちらの二人のお子様お借りしてよろしいですか』
番組ADがやってきて、カオスと龍太の二人を指名した。
龍太は自分を指さしながら首をかしげ、そして母の顔を見る。
「やったね龍君いっておいで」
龍太の母は喜んで、龍太を送りだした。カオスも同様であった。
二人は席を離れADについてく。
「じゃあ二人はみこちゃんとの打ち合わせがあるから、みこちゃんの方についていってね」
そういって、案内されたのはみこの楽屋であった。ADは去り、みこと龍太とカオスだけの空間がようやく出来上がった。
「あぁ、もう超めんどくさいわ。なんでこんな段取りしなきゃいけないのよ」
開口いきなりみこは愚痴を言い始める。さっきまでの、優等生アイドルの姿はそこにはなかった。
「確かにめんどくさいぜよ、他に何かなかったんか?」
「すいません坂本さん、僕がどうしても会いたかったので、みこさんに無理を言う感じになりました」
「ほんとたまたま、こんな番組があったからいいけど、ねじ込むの大変だったんだからあ。まぁ手をまわしたのは大泉さんだけどさぁ、あまりわらわにハードワークさせるでないぞ」
「おっ、久々に聞いたぜよ、卑弥呼さんの卑弥呼フレーズ、わらわってなんぞや」
「わらわっていうの、気に入っているんだからいいではないかのう。なあ、カオス」
「はははっ、やっぱ卑弥呼姉さんは面白いですね。それはそうと時間もないですし話せることを話しておきましょうか」
「あっ、そうやってすぐ男の会話にしようとするのよねあなたたち、いいわよぉ黙ってればいいんでしょう、わらわは傷ついたのじゃ」
そういって神野みこは膝を抱えてうずくまる。みこがすねた時によくやるポーズであった。もちろん本気ですねてるわけでもなく、場の空気を読んでそうしている。
「陸奥よ、今の天晴会が抱える問題とはなんかね?」
「……人手不足です、明治政府の最初のころと同じように人がいません」
明治政府の初期は人材の確保で、大久保利通は悩んでいた。維新の立て役者である西郷隆盛が征韓論で破れ去ってしまったことが大きい。そして、現在もまた、当時同様、西郷であった角野の空白を埋めることに苦労していた。
「あの時はおまさんが抜けたのも悪か」
陸奥もまた、明治政府をやめた人間の一人である。
「それは申し訳ないですが、あの時はしょうがなかったのです」
「民政党というか、義満の方には結構な転生者が集まってると考えてるか?」
「……最低で10人は見てます。前回の選挙では不可思議な負け方する民自党候補者が多く、おそらくは相当ケンカとか、根回しのうまい人間がついたんでしょう。あとマスコミにも間違いなく、敵対勢力がいます。売買新聞の会長とかは間違いなく民自党を敵視してますからね」
「一方のこちらは、大久保さんと西園寺さん位なものか、実質的に動いてる人間は」
「あのう、わらわも頑張ってるんですけどお?」
うずくまってるみこは、ここだけ顔をあげてアピールする。男たちはそこには何も突っ込まない。
「僕も表立った行動、もちろん選挙活動できないですしね。もちろん以蔵さんに政治力は期待できないですし」
「こりゃあ確かに、難儀じゃな。早急に人材が必要ぜよ」
「そうなんです」
「じゃあ、当面はスカウトじゃか。わしのやることは」
「と言ってもどうするかですよね」
「……まだ日本には自分が転生者だと気づいていないものも結構おろうが、むしろそれに気が付いたわしらの方が珍しいんじゃ。それを探り当てていくしかないぜよ」
「そうですね、潜在的な転生者は結構いるかと。でも、どうします、まさか道行く一人一人に聞いてくってわけにもいかないでしょう」
「そうじゃなあ」
と言ったところでうつむいたままのみこが再び顔をあげた。
「大丈夫、ツイッターを使えばいいのよ。あそこならば、きっと自分には前世の記憶があるっていうことを公言してる人がたくさんいるわ」
「ツイッター?」
2009年当時、ツイッターはそこまで認知されていたものではなかった。当然、それを知らなかった龍太は疑問の声をあげる。陸奥はツイッターについて知ってる範囲で龍太に説明をした。
「なるほど、それはおもしろきぜよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます