第7話「田町華火珠」

「そうか、坂本殿が帰ってきますか」

 龍太が卑弥呼こと神野みこに墓場で出会ったその日、龍馬転生のニュースはすぐさま6人の天晴会メンバーに伝わった。

 何よりそのことを喜んだのが、前世では陸奥宗光であった田町カオスである。


 陸奥宗光と言えば、治外法権の撤廃という条約改正を達成した外務大臣として知られる一方で、幕末には坂本龍馬が立ち上げた海援隊に参加するなど、大変、坂本にシンパシーを感じた人物ということでも有名だ。明治政府の立ち上げにも大きく貢献した人物ではあるが、あまりに薩摩長州が政権の中心いることに腹を立てて、政府をやめてしまった。そのうえ、西郷隆盛が起こした西南戦争の際に、その関与を疑われ5年間投獄されてしまう。

 そんな感じなので、決して藩閥政治の中心にいた大久保と仲はよくないと思われている。


 そしてつい先ほど、神野みこから坂本が会いたがっているという知らせを受けた。

 陸奥にとってこれほどうれしい知らせはなかった、まさかまた再び会えるなどとは思っていなかったからだ。そもそも、陸奥は近江屋事件で暗殺された坂本龍馬の敵を討つため、犯人を決めつけてそれに復讐するというほど坂本に崇拝していた。坂本はまた転生するとわかっていたにもかかわらずである。


 さてそんな陸奥ではあるが、現在は10歳の小学生である。しかも何を間違ったか、親は彼にキラキラネームをつけてしまった。自分が陸奥宗光であることを思い出したときに真っ先に衝撃を受けたのはその名前であった。なぜ、こんな名前をと思ったらしいが、すぐにこれもまあ時代の流れ、むしろ目立っていいということで納得したらしい。

 そしてカオスは天晴会の力をもってすれば、無償で特別な学校に入ることもできたのだが、あえて普通の小学生として過ごす判断をした。前世の大半を学問に費やした陸奥は普通の小学生として遊んでみたかったらしく、実際今はとても楽しかった。

 さて困ったのは、坂本龍馬改め九段龍太とどうやって出会うかである。もちろんカオスの両親は子どもに前世があることなど知らない。いままでも基本的には、電話やメールでのみ天晴会と連絡を取っていた。

 もちろん龍太との連絡もそれでいいのだが、陸奥としてはどうしても会いたかった。

 みこから連絡があった時、カオスはあるお願いをすることにした。

「みこさん今大丈夫ですか」

「オッケー」

「なんか、みこさんの方で小学生とかと触れ合えるYSK36のイベントとかやってくれないですか」

「えぇ、なにそれめんどくさい。なんのために?」

「そのイベントに当選したっていう口実あれば、私も龍馬さんも自然に会えるじゃないですか。親がいるといろいろめんどくさいんですよ」

「……なに、そうやってまた私をダシに使うわけ?たまには純粋に私のパフォーマンスを見に来たいとかないの?」

「あ、いや、ひみこさんは前世の時からほんと素敵ですよ」

「みえすいたおべっかいらないわよ。もうまじめんどくさいわ、仕事今凄い忙しいのわかってる?」

「あぁ、なんか最近よく地上波で見ますよ。この間のCDオリコン7位でしたっけ?」

「そうなの、そうなの!すごいでしょ、この間ジャニーズの人とかとも共演できたのよすごくない?やっぱかっこいいわよあの人たち。今世ではジャニーズの人と結婚しようかしら」

「ちょっとちょっと、龍馬さんはいいんですか?」

「だって、まだガキじゃない彼。待てないわよ彼が使い物になるまでなんて、まあカオスもだけど、なんなら私ジャニーズのカキタレでもいいわ」

「な、なんですか?カキタレって?」

「そんなことも知らないの、ググりなさいよ。女の子に言わせるような言葉じゃないわ」

「いや、自分でいったんじゃないですか……」

「あ、こんなくだらない話してる暇ないのよ、切るわよー」

「待ってください、お願いの方は……」

 プッ……。

 一方的に電話は切られてしまった。カオスとみこが電話で会話をするといつもこんな感じになってしまう。もっとも前世の天晴会においても、陸奥とおりょうの関係はこんな感じであった。お互い坂本龍馬を好きだという点で気が合うのだろう、二人は仲の良い友達であった。


 みこは口では、ああいう風に言っていたが後日、カオスと龍太の元には、「YSK36のみこちゃんと一緒に歴史を勉強しよう」という小学生向け教育番組のスタジオ観覧券が送られてきたのだった。


「相変わらず、やることが一枚上手ですね、卑弥呼さん」




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