第9話「スカウト」
「いかんぜよ、数が多すぎるちゃ」
テレビ局で出会った次の日から、龍太は早速ツイッターを使って転生を匂わせてる人物を探すことにした。
検索で「転生」「生まれ変わり」「前世」などをうって、探すのではあるが、アニメの感想とか、「私の前世は猫でした」的な、本気で自分に前世があるということをほのめかす書き込みは見当たらなかった。
見当たらないのならいいのだが、検索でヒットする数が普通に10万を超えてくるために、一人では手に負えないなあと龍太は感じていた。
(陸奥はうまくやってるかのう)
一方の陸奥は2ちゃんとかいうインターネット掲示板を使って探すことにしたらしい。ツイッターより圧倒的に多く、自分は生まれ変わりだと信じてる妄言癖の人が多いだろうという判断からだ。
しかし、まさに99%は妄言でありその中から真の転生者を探すことは、砂浜で亡くした指輪を探すような作業であることは想像に難くない。
朝からスマホとにらめっこしながらツイッターをサーチしていた。もし親が見たら、5歳にしてスマホ中毒になってしまったと大変心配しただろうが、幸い両親とも仕事に出ている。
これはそれっぽいのは見つからんかと思っていた時、龍太はあるツイートの応酬に目を向けた。
『生まれ変わりは本当にあると思う、私は以前キリスト教徒のために戦った記憶がある』
返信
『ぽこにゃんさんは、よくその発言しますけど何の宗教ですかwww』
『私もぽこにゃんさん好きですけど、宗教的なのはやめてほしい』
『ぽこにゃんさんが生まれ変わりがあるっていうんだからあるにきまってるでしょ』
……その他多数
『信じてもらえないのは知ってる、でも私はあの時の、徳川に追い詰められていった彼らの悲鳴やうめき声をおもいだして、いまだに胸を焼き付ける』
『ぽこにゃんさんが作る音楽にはでもそういったものを感じますよ』
『僕もぽこにゃんさんの前世は天草四郎だとおもいます』
龍太はぽこにゃんという変な名前のアカウントのツイッターのやり取りをしばらく追いかけた。どうも音楽系の関係者のようである。可能性は低いが今までの中では一番それっぽいと龍太は考えた。
すると、他サイトへのリンクが張られていたので、それをたどってみると、スマイル動画というサイトに飛ばされた。
「僕は絶対マリア様を踏んだりはしない/初音ミクver」
というタイトルの動画であった。
作詞作曲ぽこにゃんとなっているので、どうやら、このアカウントの主が作った曲なのであろう。さっそく、龍太はそれを聞いてみることにした。
ものすごい甲高い声の激しい曲調で、ひたすら徳川への恨みが叫ばれる曲である。
龍太には聞き覚えのない曲調であったが、これがヘビメタであることと、歌い主がボーカロイドであることを、後からみこに聞いた。
「この徳川への恨みは、ただ現世を生きているだけでは、書けなそうな気がするぜよ。もしかすると、ほんとうに、天草四郎の転生かもしれん」
龍太はすぐにカオスに電話をかけ、このことについて相談する。
「私も前から、ツイッターで転生関係調べてるんですが、ぽこにゃんっていうのは見た記憶がないですね。ええと……スマイル動画ですか、私もちょっと見てみますね」
「なかなか理解しがたい音楽だったぜよ」
「……うあわっ、ハードロックですねぇ、初音ミクにこんな事させるんですか。うわっ何気に視聴回数10万以上あるじゃないですか。結構有名なのかも」
カオスはその曲を数分聞いたのち、
「あり得るんじゃないですか、なんか歌詞の情念が、常人のそれではないですよ。コンタクトしてみる価値はあると思います」
と提案した。
「わしもあると思う、ましてや前世が天草四郎ならば、間違いなく討幕派ぜよ、わしらと敵対することはないがや。それにあの民衆を動かすカリスマと統率力、ぜひ欲しい人材ぜよ」
「……あぁ、でも問題が……。いや全然問題はないんですけど、少し怖いなあと思うのは、坂本さんどうやってこのぽこにゃんと接点を持つつもりですか?」
歯切れの悪い感じで、カオスは言った。
どうも何かをおそれてるらしい。
「そりゃあ、芸能関係なんだから、みこのバックにいる芸能事務所から、このぽこみゃんとやらにオファーを出せばいいじゃろう。割と簡単な話ぜよ」
「やっぱりぃ、また卑弥呼さんに頼ることになるじゃないですかぁ。絶対不機嫌になりますよ、卑弥呼さん。交渉は絶対坂本さんがやってくださいね」
「……なるほど、たしかに機嫌悪くなりそうじゃか。まあ大丈夫ぜよ、わしがやるっちゃ、おまんさんは待っとれや」
「頼みましたよ」
そういって、カオスは通話を切った。不安になりながらもさっそく、龍太はみこに電話をかける。
「もしもし、おりょうか」
「はい、神野みこです、おりょうって言わないでよ、どうしたの?」
「いや、実はだな……」
龍太はさっきまでのカオスとのやり取りを、みこに伝えた。
「ふーん、それでわらわにどうしてほしいわけじゃ」
「みこの事務所の方から、このぽこにゃんにオファーかけてほしいぜよ」
「はあっ……そんなこったろうと思った。まぁいいけどさぁ、私の要望は全部通るようになってるから、全然いいんだけどさぁ。他のメンバーってもちろん私が天晴会ってしらないのよ、っていうか天晴会を知らないのよ。また、みこちゃんのいうことばっかり、この事務所は通すんだとか思われない? ただでさえ最近私、グループでひいきされてるとか、ブスのくせに一人で目立ってムカつくとか言われてるのよ」
「言われてるのか、全然うつくしいぞ、おりょうは」
「ありがと……2ちゃんに書かれてるのよ!絶対性格悪いとか、実はヤリマンとか、社長の女とかさ。もう絶対グループのだれかだと思うんだけど」
「2ちゃんはよくわからないが、そげんはただの嫉妬ぜよ」
「わかってるわよそんなの、でもむかつくじゃない。だから私は天晴会の力使って、そういう書き込みは片っ端から消してるし、IPアドレス探って書いた本人に焼き入れてるけどね、天晴会なめんなって話よ」
「……そんなことに使ってるのか、天晴会」
「そんなことのために使うのよ、裏工作のためにあるようなものなんだから」
ずいぶん自分が作った時の理念とはずれてしまってるなと思ったが、まあ理念というのは時代とともに変わっていくものだし、というか卑弥呼のいうことに逆らえないなと龍太は思った。
「何よ、いいじゃない。そのくらいなきゃストレス多くてアイドルなんてやってられないのよ」
あれ、たしか好き好んでやってたんじゃなかっただろうかと思ったが、もちろん龍太はそれを言わない。
「まぁ、なんか龍馬に言ったらすっきりしたわ。じゃあ今からまた仕事だから頑張るね!また電話してね、またね」
そういうと一方的にみこは電話を切ってしまった。
「あっ、おい!ぽこにゃんの件は……!」
後日、ぽこにゃんにはYSKの曲を作ってほしいというオファーが入ったらしく、ぽこにゃんはツイッターで盛大に喜んでいた。
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