第34話「動き出した日本革新同盟」

 テレビ画面には、川上徹哉と民政党の橋置が連座して座っている様子が映し出されている。そして彼らの後ろには日本革新同盟の垂れ幕が吊るしてあった。

 

「えええ、この度わたくし橋置雄太郎は民政党を離党し日本革新同盟に合流することになりますことをご報告させていただきます」

 そう橋置は言いながら頭を下げた。

 無数のフラッシュが玉置に向けられる。


「橋置さんには、同盟の共同代表をやっていただきます、同盟の国政の部分の大半は橋置氏にやってもらう形になりますね」

 川上がそういうと、早速記者から質問がとぶ。


「以前おっしゃってた実務を担当する頼れる人物というのが橋置氏という理解でよろしいでしょうか」

「……そうですね、実際に合流するのはもっと後の予定でしたが、彼で間違いないです」

 川上がそういうと、玉置は深くうなずいた。記者の質問は続く。

「朝焼けテレビの三宅です。玉置さんに質問です、民政党を裏切ったという形になると思うのですが、有権者の支持を得られると思いますか、また、今回の離党はやはり橋置氏がポストを与えられなかったことが原因なのでしょうか」

  


「裏切ったと言われればそうなるのかもしれませんが、やはり沖縄の基地の件とか、なにより今回の中国船の問題で、政府の対応を見て、民政党はダメだなっていう思いから今回の行動に出ました。あの映像を知って中国に対して強気に出れない政府は、自分の目指す政治とは全く別もんなのでね、僕を支持してくれる有権者はむしろ今回の離党を支持してくれると思います」


「僕もあの映像を見てね、ほんとうに衝撃を受けましたよ。ひどいでしょあれは、あの情報を見ながら日本政府は船長釈放しちゃうんだもん、あれじゃあ海上保安庁の職員とかやってられないですよ。彼らは命はって仕事してるのに、まったく政治がアシストしてないどころか足ひっぱちゃってるもん。いったい民政党はその国の政治家なんだって思うわけですよ」

 橋置の発言のあとに、川上がいつものあきれ口調で話しを続けた。橋置は川上の話を受けてうなづきを繰り返す。


「もともとお二人はお友達ということですけど、それが合流の一番の理由ではないですか」

 記者は失礼な質問をぶしつけに繰り返す。

 川上が若干眉をしかめながら、答えたところを右手でまぁまあと川上をなだめるようにして制しながら答えた。


「友達ではありますけどね、もともと政治理念が近いですし、ただもちろんそれはあんま関係ないですよ。やはり今回の尖閣の件がなければね、私は民政党のために動くことが義だと思ってましたから、でも今回の件を受けて川上と話して、じゃあ国民のために一番何がいいかと考えた時に、民自党も民政党も倒してあたらしい政党で新しい日本を作るというのが一番だと、今回の行動に至ったというだけです」


「マスコミのみなさんもまっすぐ、事実を見てほしいんですよ。今回の尖閣の件を受けてね果たして、民政党はどこを見て政治をしてるんだってことをね。国民、国民て言うのは公務員も入りますよ、全然そっちに向いてないでしょう。あんな弱腰だったら、また中国はおんなじこと繰り返しますよ、今回はきっかけに過ぎないですよ、こんなんね。じゃあ誰が、今の厳しい国際情勢に対応できる政治家ですか、僕と橋置くんしかいないでしょう?」

 橋置はいつものように大きく話を展開した、もちろん実際にここまで傲慢な考えを持っているわけではないが、マスコミに注目してもらうための盛大なリップサービスというところである。


「えっ、ええ、ですが川上さん。倒すといっても実際に、いま国政に参加できる同盟の人間は橋置さん一人ですよね。実際の影響力はほとんどないと思うのですが、それとも次の選挙で相当自信があるということですか」

 今度は違う記者が疑問を示した、言う通り今の日本革新同盟は川上知事と橋置衆議院議員、そして地方の大阪革命党の面々だけであって、国会議員は橋置だけなのであった。

 川上はにやりと笑う

「……もちろん、次の選挙の自信はあります。すでに候補者も結構集まってますしね、しかし、今回の合流、もちろん橋置だけじゃないんです。まだいえないけれど、ええと何名が君についてきたんだっけ?」

 橋置が続いてマイクを取る。


「ええと、人数は言ってもいいのかな。今日彼らも離党届を提出しました。15名です、自分を入れて16人の人間が民政党を離れ私についてきてくれました」

 ――ざわざわざわざわっ。

 橋置の発言を聞いて、部屋の中は一斉にざわつき始めた、野党から離反するならまだしも、与党からこんな多くの人間が一人の政治家についてくるなどという例は聞いたことがない。

 これは1993年に、民自党の大澤が離党して、新たな政党を作り、その後次々と

民自党を離党し新党ブームを作った時に似ている。

 マスコミの記者たちはそれを思い出し、早くも民政党の政治基盤が揺らぎ始めていることを感じていた。

 

「彼らは非常に志のある政治家です、与党である民政党に甘んじずに厳しい環境にある私が作った同盟についてきてくれるのです。みんなそれが国民のためだといってくれました、自分のためとかじゃない、本当に国士ですよね。マスコミのみなさんぜひ、彼らのことをちゃんとした目で見て放送してあげてくださいね。裏切りとか書いちゃだめですよ、国民を裏切ったのは民政党です」

 川上は、民政党を離党した人間を絶賛した、これもオーバーな言い方である。川上が何を言おうとも、マスコミは離党組を批判するであろう。しかし少なくとも川上だけは彼らを最大に賛辞することで、指揮官としての信頼を得なければいけないのであった。

 終始、川上はマスコミと民政党をあおり続け、逆に離党した橋置およびほかの元民政党議員をほめ続けた。

 まもなく記者会見が打ち切られると、後日、残りの合流議員の紹介をするとアナウンスされた。


 さて川上は離党議員を、信念に基づいた国士だと褒めたたえていたが、もちろん真実はそんなに簡単ではない。もちろん、彼らがもともと橋置派だったということもあるし、今の民政党に不満があったのが根底にはあるが、裏では相当金が動いていた。

 

 川上には豊富な資金があった。それは、彼がテレビタレントとして活動してた時に財テクで稼いだものもあったのだが、大半は彼が織田信長の時に残した、金と茶器によるものである。

 信長は本能寺の変の前で、すでに自分の命が狙われるだろうことは予感していた。必ず部下の誰かが自分の寝首をかいてくる、そういう危惧をしながらも結局は、未然に防ぐことはできずに明智光秀に殺されてしまった。


 一方で殺されたときのために、資産を隠しておくことには成功していた。

 決して誰も足を踏み入れないような、山の地中に穴を掘り金銀を埋めさせ、そしてそれにかかわった人間はすべて始末した。


 信長はそれを一切誰にも言わず、紙にも残さず、いつか転生して生まれかわった自分のために使おうと考えた。

 まさか、それを使うことになるのが500年も先の日本であるとは考えもしなかったが、運よく現在においてもその埋蔵金は残されており、現代の価値にしておよそ500億にも上った。

 川上は現代に転生して過去を思い出すとすぐに、埋めてある山を購入するための資金を稼ぐためにタレントになった。周りの人間はなぜそんな山を購入するのか大変疑問であったが、裏には埋蔵金という資金があったのだ。


 川上は徳川の埋蔵金を発掘する番組を見るたびに、織田埋蔵金ならあったのになとほくそ笑んだ。

 そして、その織田埋蔵金が、現在の川上の求心力のの一つとなっていた。

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