第18話「麻野と大泉②」

 激動の2009が終了して、2010を迎えた。

 2009の年末には紅白歌合戦のトップバッターには神野みこがYSK36のセンターとして出場し、なんと2曲を披露。そのうちの一曲が、アゲハが作曲した『NEVER~決して君をわすれはしない』だった。

 NEVERはキャッチーでありながら、壮大なメロディーでファンの間では発表と同時に神曲として、評価されていたが、紅白で流されるとたちまち、一般の間にも浸透するようになった。

 と同時に作曲者のぽこにゃんも多く認知されるようになり、彼のスマイル動画での視聴者数も爆発的に増えていった。

 それを見て、ぽこにゃんこと忠常アゲハは政治的発言をツイッターなどで多くするようになり、スマイル生放送での政治放送などに多くかかわるようになっていく。


 1月の通常国会が始まり、大泉と麻野首相は再び『料亭なだ万』にて会食を行っていた。


「川上は予想外でしたが、ひみこさんや坂本さんの動きは順調です。今のところ、こちらの狙い通りに世論が動いてます」

 大泉は麻野のグラスにビールを注ぎながらそう告げた。

 しかし麻野は不満そうに答えた。


「……予定通りと言ったって、若者ばかりを集めてるそうじゃないか。それにそれが誰かも俺は知らされてないぞ、そんなんが何の役に立つんだ?」

 そう麻野にはまだ、龍太達が誰が接触しているという情報は伝えられていなかった。

「確かに私の知る限りでは、転生者達は、ほぼ全員20代ですね。選挙で戦うのは厳しい、それもあって成果とはいいがたく、麻野さんに報告できないのです」

「……まあ、それはいいが、どうも坂本さんも的外れな行動をしてるように映るぜ。君も川上の件では大チョンボだしな」


 そういいながら、麻野は大泉のグラスにビールを注ぎ返す。

「本当に大失敗でした、あの後、精力的に川上は活動して、自分のシンパを集めてますからね。とくに知事会の中心は早くも川上ですよ。あの力是非、天晴会に欲しかった」

「どうすんだ、民自党はすっかり手詰まりじゃないか。若者集めたってしょうがない」

 麻野はかっと一気にビールを飲み干すと、カッと音を立ててテーブルにグラスをおいてそういった。

「……そこで麻野さんに相談です、坂本さんたちはすでに動いていますが、今期の法案で衆議院の被選挙年齢と選挙年齢を下げたいと思っています。それさえ通せれば、

民政党や川上に対して大きくアドバンテージが取れます」


「……被選挙権の年齢を下げるだって!?」

「そうです、それにより、天晴会の抱えてるメンバーが一気に国政に打って出れます。しかも全員がかなりの影響力を持っています、私の父の時のような旋風を起こせるチャンスです」

「……だめだだめだ、絶対にダメだ。うちの支持層をなんだと思ってる? 多くは高齢層であるし、それに民自党のほとんどの議員が賛成せんよ、ただでさえ危ないやつがたくさんいるんだ若手の台頭なんて許さんよ」


「若者の得票を伸ばしたいだけで、別に高齢者軽視をするつもりはありませんよ。高齢層には今まで通りの背策と安定の民自党を訴えます。そのうえで、いままで票にならなかった層を発掘するのです」

「……とにかくだめだ、それを表に出すことは、民自党の結束を緩めることになる。わざわざ冒険する必要はない」


「なぜです、何か手を打たなければ、民自党は次も大敗ですよ。今なら若者に対してアドバンテージがあるのはわが党です。麻野さん、法案を通しましょう」

「――分からんか!? その法案が我々を苦しめることになる理屈が。それにそもそもその法案を民政党が飲むとは思えんよ、まず可決はしない、無駄なことだと思うぜ」

 明らかに麻野の表情はむっとしていった。大泉を理解できない、何か飼い犬に手を噛まれたようなそんな表情である。


「それは、もう作戦通りです、いま坂本さんたちはインフルエンサーを発掘、そして創生しています。そして神野みこを筆頭に若者の政治に対する喚起を促していく作戦を決行中です。今のところですが、思ったより反応がいいですよ。若者は政治に無関心なわけではないのですよ、遠いところにありすぎただけなのです」

 インフルエンサーとは大多数に影響を与える人物のことである。2009年当時はブロガーと呼ばれる人たちなどがそれにあたった。後にインスタグラムへとその役割は移行していく。


「……。」


「大久保さん考えても見てください、そもそも倒幕はわれわれ若い力が起こしたものだったじゃないですか。民自党は年を取りすぎました。もう一度原点に返るべきですよ」

 大泉は熱く麻野に訴えかけた。しかしその思いは麻野には届かなかった。


「そうはいっても、俺ももうじじいだよ、じじい側に合わせて何が悪いかな?とにかく俺は反対だ、俺からは法案を出さないし、協力もしない。むしろ天晴会の力を使ってその法案はつぶすぞ」

 まさかの反応だった、まさか反目に回るとは、麻野がこんなに激しく拒否反応を見せるとは大泉は思っていなかった。そこに自分の知る敬愛する大久保利通の姿は見て取れない。


「それでも私は、法案を提出しますよ」

 強い意志を込めて大泉は言った。

「天晴会を裏切るのか? 大泉!」

 怒声のごとく声を発する麻野。

「いえ、この法案こそが天晴会の意思と信じます」


「――若造が何を……」

「そうは言うが、総理経験も閣僚経験も私の方が長い。麻野さんは今かつて日本があの愚かな戦争に向かった時の、府抜けた政治家のようになってしまっている。どうしてしまったんですか」

「……どうもこうもない、功を焦って無理をするなと言いたいんだ」

「それが、まさに昭和初期の政治家のようですよ」

「とにかくだめだ」

「そうはいってももはや若者の動きは止まらないでしょう。下手に反対しないほうがいい。もし一度流れに加速がついてしまえば、反対したほうが大きく叩かれる。たとえ麻野さんが強権を発動させても、与党、民政党が流れに乗るだけです」


「……なぜ、その動きの前に私に言わなかった。そうなる前に止めるべきだった。また負けるぞ民自党は……」

 今度は非常に弱弱しい表情を麻野は見せる。

「坂本さんは気づいたときには動くお人です、我々に止められるような方ではありませんよ。そして私は坂本さんを信じてます」

「……俺よりもか」


「……はい、少なくとも今のあなたよりは」

「そうか、その判断が間違ってないといいがな、まあいい今回の選挙私はただ見守らせていただくよ、君たちで勝手にやりたまえ」

 そういって、麻野は席を立って、部屋を出て行ってしまった。


(どうも最近私は相手を激昂させてばかりいるな……)

 大泉は自問し、そういえば、西園寺だったときの自分もこうやって少しずつ仲間を減らしていったなと思っていた。

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