第17話「愛してるってなんぜよ」
「カオスさん、それでは早稲田大学の学生運動のリーダー『
「……そうだと思う、一回の大学生が行う運動にしてはあまりにも過激であるし、本人にも確認をとったけれど、どうも自分には幕末飢餓にで苦しむ民衆の声が離れなくて眠れない夜がたまに訪れるといっていた」
カオスは学生運動を行う荒木という人物に目をつけた。そもそも最近学生運動を行う人物も珍しかったが、非常にアクティブに活動しており、つい先日も就職活動をもっと学生有利に行うよう訴えるために、5千人の人を集めてデモ行進を行っていた。
これがただの21歳の学生の行動は思えなかった。
よしんば、転生の過去がなかったとしても民自党に是非ほしい人物である。
カオスはこの学生運動に共感する人物として彼のSNSに頻繁にアクセスし、いろいろ会話を重ねるようになったうえで、彼がどうやら大塩平八郎を敬愛してるようだという結論に至った。
「……大塩平八郎ですか……素敵な人です。幕府の役人でありながら民衆のために立ち上がる、しかも彼は俺と違って、自らの意思でこの戦いに挑んだんだ。早く会ってみたいですね」
「あとは任せました、アゲハさん。彼の持つ若者のパワーに、アゲハさんの持つカリスマ性が加われば、天晴会は必ずもう一度浮上できます」
「……任せてくださいとは言えませんが、うまくやりますよ。やるしかない」
そういって、アゲハは陸奥がとったアポを元に、荒木の元に向かった。
―――――――――――――――――――
「ますます、あの政策を実現するしかなくなってくるな」
「そうですね、龍太さん」
龍太の提案に、カオスが答える。
12月末日、龍太とみことカオスは今、久しぶりに一堂に会していた。例の歴史番組の視聴率が意外と好調で、龍太とカオスはたびたびゲストとして招かれていた。今日は年末特番の撮影ということで3人は集まる口実を設けられたのだった。
「若すぎるもんねぇ、私たちの陣営。それに、投票を訴える相手も若くなっちゃうし、今のままじゃせっかく集めたところで、何にもならないもんね」
みこはなぜか、龍太を自分の膝の上に乗せ、頭をなでながらそう言う。
「そう、若すぎるだから何としても……というか、もう膝から降りていいかあ?なんでこげんことしちょうぜよ?」
もちろん、龍太は今の体勢を断っていたのだが、久しぶりに会ったし、いちゃつきたいと、みこが泣きそうな声で頼むのでしぶしぶ言われるがままにしている。
「……だめ、言うこと聞かないと、私もう仕事しない!」
はっきり言って脅迫だった、みこが広告塔の役割をしてくれなければ今後の活動に支障がでる。龍太、いや坂本に拒否権はなかった、現世において二人の立場は完全に逆転していた。いや、そもそも、前世から立場はそんなには変わっていないのだが。
「まあ、龍太さん。本当はそこのポジションは今や全国の中高生のあこがれの場所ですから、嫌がる必要ないですよ」
カオスはそのようにフォローを入れるが、龍太にはなんの意味もなさない。
「……まあとにかく、衆議院の被選挙権を20歳に、すべての選挙権を18歳まで引き下げるという『選挙法の改正案』を通してもらわないと話にならないぜよ」
「立候補年齢を20歳まで持っていければ、3年後にはみこさんと以蔵さんも立候補できますし、逆にそれができなければ、ほとんど手詰まりです」
「……んんっ、ちょっとまってぇ? なんであたしが立候補することになってんの、いやだよ私政治家なんてなりたくない。かわいいアイドルみこちゃんがいい!」
そういうと、みこは膝に置いていた龍太を突き落とした。
「いたっ、なにするぜよ!」
「だって、カオスくんがおかしいこと言うから!」
「おかしくはないぜよ、当然みこには、選挙期間までの間に頭がいいところや国民のために何かしちょういうことを訴えてもらって、若者を誘導してもらわんといけん。次の選挙対策の柱ぜよ」
「そうです、あとは例のアゲハさんの曲も紅白で披露される予定で、そこから無理やりアゲハさんもフューチャーしていきますから、二人を筆頭にどんどん若者をリードしてもらいます」
不満そうなみこに、龍太とカオスは息の合った間で、次々と意見を重ねていく。
「ちょっと、そんな話聞いてない。別にテレビで政治に対して何かを言って、世論を誘導していくのはいいけど、別に私が、選挙に出る必要はなくない?」
いつになくみこは怒った口調であった。心底、政治家になるのは嫌らしい。
「……いやそこは、みこがどうしても立候補したいのに『何で被選挙権は25歳なんだ! こんなのは差別だおかしい』と訴えることで、世論を動かすつもりなので、立候補は絶対条件です」
カオスは、みここそが次選挙で勝つためのカギと思い計画を立てていた。年配の得票はかなり、民政党にとられるであろうから、いかに若年の普段選挙に行かない層を取り込むのが戦いのカギだと見ていた。
「ええと、じゃあ立候補だけしてわざと負けていいかな?」
ふざけた笑顔でみこはそういう。
「たぶん、おまさんは立候補すれば通るぜよ」
いつの間にか、みこから離れテーブルの対面の椅子に座っていた龍太が返した。
「ひどいわ、アイドルをやめて、国会なんてつまらなそうなとこに行かなきゃいけないなんて」
「……卑弥呼の時も、平安時代も政治の中心にいたじゃろうが、何をそんないまさら嫌がるが?」
「あの時は、みんながちやほやしただけなの? アイドルもちやほやされるけど、国会議員なんて叩かれるだけじゃん。小娘が選挙だなんてふざけるなって声がネットにあふれるの今から想像できるもん、絶対いやだぁ」
カオスはすっと身体を龍太の方に寄せて耳打ちする。
(龍太さん……なんとかしてください。みこさんは大切です。やらなきゃいけないのはわかってるはずですから、きっかけ待ちですよ)
(わしにはなんもできんぜよ)
(愛です、愛。愛を語ってください)
(な、何を……)
するとカオスは、緊張した様子でみこに語り掛ける。
「み、みこ、日本のため、わしのために、なんとかしてくれんか……。そ、その、あ、あいしちょうから」
みこはそれを聞いて、首を傾げ、
「うん、龍太、いまなんて言ったの?」
と聞き返した。龍太は絶対聞こえてるはずなのに、この女は!と心の底から思った。
「その日本のため、わしのために立候補してくれと」
「……そこは聞こえたそのあと」
「その、あ、あいしちょうと……」
「愛市長? わかんない」
「……愛してるから、頼む」
完全に言わされてしまった、前世においても言ったことのない言葉である。そもそも、愛してるなんて言葉は対人に使う言葉ではなく、龍太にはそれがこそばゆくてたまらなかった。
一方みこは、現世のドラマを見まくった結果、すっかり現代脳が出来上がっていた。愛してるという言葉は、ぜひとも龍太、龍馬から聞きたい言葉であった。
「ふーん、じゃ、龍太はいつからみこのこと愛してるのかなあ?」
みこはこれ以上まだ、龍太に恥をかかせるつもりのようであった。
「そりゃあ、ずっとぜよ」
「ずっとじゃ、わかんない」
「……前世からじゃ、前世からおまさんのことを愛しちょう」
もはや、龍太はやけくそである。はっきりとした口調でそう言い放った。
「ふふふ、前世から愛してるかあ、いい言葉だねぇ。ぜんぜんぜんせからぁーって歌がそのうち流行るかも、でも残念龍太、私は子どもには興味ないよーー」
龍太は言いたくもない言葉を必死に言ったのだが、どうやらみこにもてあそばれたようだった。
「おりょう!いい加減にするぜよ、おまさんはいつもそうじゃ」
思わず、龍太は怒りを声に出してしまった。
(ちょっと、坂本さん台無しですよ)
あわてて、カオスは龍太を諫めた。
「まあ、でも龍太がそこまで私を愛してるなら仕方ないなあ。選挙は一回だけ頑張ってあげるわ、仕方ないなあ」
にっこにこの笑顔でみこはそういった。
さすが現役ナンバーワンアイドルであった、その笑顔は奇跡の笑顔といって良かった。
(よ、よかったですね、坂本さん)
(おぉ、無駄じゃなかったぜよ)
「でも、龍太!」
みこは急に険しい表情を見せた。
「な、何ぜよ」
びくっとなって龍太は答えた。
「前世と違って、浮気したら殺すからね!」
びしっと指を、龍太にさしてその言葉を決めた。
「あ、はい……」
一方、アゲハによる
いよいよ、選挙法改正に向けて動き出す時が来ていると言えた。
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