第19話「朝まで生本音①」

 2010年3月、龍太たちは順調に天晴会への引き込みを進めていた。特に大塩平八郎あらため荒木出央あらきでおの人と出会う数は想像以上のものであり、彼が持つ大学生のネットワークから多くの、転生と思わしき人を探すことができた。


 その中には転生の記憶を持つ自分を病気や呪いなどと思い、宗教などにはまってしまったような人物も多数いて、結果、転生ではないものの、あやしい宗教から救い出すことができたケースもあった。


 そんなわけで荒木出央は、ネットの中ではすでに救世主としての呼び声高く、彼とともに行動をしたいという若者は日々増えつつあった。


 また、行動を共にするアゲハの元にも彼の音楽にも心酔する人たちが、彼の政治思想にも興味を持つようになっていった。

 もともと彼が持つカリスマ性が若者をひきつけ、また、それだけではなく、紅白の曲で彼に興味を持ったミドル層も、それをきっかけに彼の政治思想に耳を傾けるようになった。

 彼らからアゲハは若いのに信じられないくらいしっかりしてると評価を得ていた。また、時折彼が出演するネットの政治系討論番組では、神野みこも出演をしており、そのアイドルとは思えない鋭い意見や、指摘は視聴者をはっとさせ続けた。

 

 気が付けば、ネット界ではアイドルであると同時にご意見番のような地位につくようになった。

 そして、そんな、アゲハ、荒木、みこの元が一堂に地上波に露出する機会がやってくる。金曜の夜にやる政治系の生討論番組である。

 白髪の老キャスターが、強権をもって仕切るその番組は、長らく政治番組の王道として君臨し続けてきた。

 今回のテーマは『若者の政治離れについて各政党はどう考えるか』だった。そしてこの3人がオファーをもらったというか、大泉の力でキャスティングされたのである。


「さて、始まるぜよ」

「そうですね、どういう展開になるか楽しみです」

 龍太とカオスは電話で会話をしている、お互いに深夜こっそりとテレビを見ながらである。

 テレビには恒例のテーマに乗って、朝まで生本音!のタイトルが映し出された。

 

             ※   ※   ※


『さあでは今日のパネラーを紹介します、まずは与党から民政党、橋置雄太郎さん』

 いつもの朝なまのテーマに乗って、スタジオの奥から政界一甘いマスクと呼ばれる男が出てくる。

『そして、同じく民政党、川口かずあきさん」

 野党時代は鋭い突込みで厚生労働大臣を追い詰めたことがある川口が続いて出てくる。

『共産会の五位芳郎さん、社平党の清本和美さん』

 社平党の清本はテレビの露出が多く、関西弁が特徴的な主婦に人気のある議員だ。


『そして民自党から大泉純さん』

 大泉はいつものさわやかな笑顔をスタジオ中に振りまく。

『社会学者で大学教授の山崎幸二さん』

 政治、つづいて若者文化を語らせたら右に出るものはないといわれる山崎幸二が続いて出てくる。

『そして起業家の入江孝明さん』

 数年前、IT起業家として一世を風靡した男だが、今は裁判中の身であり間もなく結審される予定である、場合によっては最後のテレビ出演かもしれないが、あえてこの番組に今回出演することになった。


『学生団体 SWORD のリーダー荒木出央さん』

 ソードとは、Social Warning Organization ResistanceD ( 抵抗を喚起するための社会組織)の略称である。SWORDありきの名前なので文法とは適当らしい。


『話題の作曲家 忠常鳳さん、そしてあのYSK36から神野みこさんです』

二人は続いて出てくる。アゲハは控えめに、みこはアイドルらしく手を観客に振りながら、笑顔全開で。さすがに観客の声援がここだけ違った。ちなみにアゲハは今回ぽこにゃんの芸名ではなく本名で出演することにした


『そして最後に、総合司会の谷原総です。よろしくお願いします』


 全員の名前がコールされ席に着く、もちろん最初に言葉を発するは、白髪の老司会者である。

「さぁね、今日は若者のの政治参加っていうまあかつて何度もやったテーマなんだけどね、今日はねいつもよりメンバーが若いんだよ、私はね全然知らないんだけど、神野みこちゃんっていうんだっけ、君アイドルなんでしょう、正直なところ政治なんて興味ないでしょう」

 まず谷原が初めに話を振る相手は、神野みこであった。失礼な物言いにしか聞こえないが、これがこの老司会の売りであった。


「ええと、その前に……。谷原さん私のこと知らないっておっしゃりましたけど、そんな話あるでしょうか。もちろん若輩でポッとでのアイドルグループのことなんて知らなくて当然ですけど、共演者ですよ。私はもちろんご出演のみなさんのことを存じています。それが礼儀と思うんですがいかがでしょう、知らないことは決してえらいことではないと思います」

 みこがそう返すと、谷原は何も言わず、顔をむっとさせるだけであった。


             ※  ※  ※


「しょっぱからかましてきたなあ、みこは……」

「見てください、2ちゃんでは、みこさんを絶賛する声で早くもあふれかえってますよ」

 龍太とカオスの二人はテレビの前で行く末を見守ってる、カオスは2ちゃんを見ながらテレビを見守っていたが、テレビの実況版は早くも神野みこ祭の様相を呈していた。


             ※  ※  ※


 さて画面の中の谷原はみこのことは無視して違う人物に話を振る。

「じゃあ、どうなのSWORDだっけその代表の荒木君は、その活動に何か意味があると思ってやってるの? 本当はただのファッションなんじゃないの?」

「ははは、仲間の中にはそういう人もいるかもしれないですけどね、僕は至ってまじめですよ。デモを通して、世論を動かして、そして政治を動かそうと思ってます」

 荒木は大人の対応を見せる、谷原の失礼な物言いに真正面からぶつかったりはしない。

「って彼は言うんだけどね、どうなの民政党は、いま彼らがやってる運動とか見て、何か変えるとかそういうつもりはあるの」

 その質問には民政党の川口が答える


「もちろん、国民の意見として厳粛に受け止めています。ただもちろんね、少数意見が声をあげたからと言って、政権がそれに左右されたら、民主主義ではないわけです。ですので学生運動で伝えようとしてることが反映されないからと言って、政府を批判するのは筋違いだというのはわかってほしいんです」

「じゃあ、彼の運動は無駄ってこと?」

いじわるそうに谷原が聞く。

「いやいや、そうじゃないですよ、谷原さん。わかってるでしょ。もちろん大切なことです、若者には彼らソードのように積極的に政治にかかわってほしいんです」


「で、忠常君はどうなの、ネットで政治をテーマに話すことが盛り上がてるんでしょ」

「……そうですね、今日もたぶんこの番組を見ながらコメントが盛り上がってると思いますよ。最初からみこちゃんが、谷原さんにかみつきましたからね。谷原さん本当は知ってますよねYKSのこと?」

「……いいんだよそういうのは、じゃあ改めて、神野さん。神野さんはソードの活動とかをどう思ってるの? あれは意味ある?」


するとみこは民政党の川口の方を向いて話し出す。

「さっき、川口さんがソードのように、政治にかかわってほしいっておっしゃってましたけど、それって違いますよね? 学生運動とかデモ行進ってべつに政治行動じゃないと思うんですよ、ただそうすることでしか若者が意見を言う場がないから仕方なくやってるだけで、本来はもっとダイレクトに政治参加できなきゃいけないと思うんです」


「あれあれ、なかなかすごいことを言うねぇ、神野さん。でもねちょっと待って、僕はまずね共産会の人にも聞きたい。結構ね共産会の人が主導してるって聞くけど本当はどうなの」

 みこの話は途中で切られ、谷原は共産会に話を振った。

 『もっと、みこちゃんにしゃべらせろ』

 『相変わらずこのじじいうぜえ』

 『みこ様、同い年とはおもえない、その辺の馬鹿女大生より絶対に知的』

 このとき2ちゃんにはあまたのみこ賛美の声が上がっていた。


              ※  ※  ※


「みこさんはやっぱ役者だなあ、ぐっと知的イメージがつきますね」

「そりゃあの、あのじじいより年上じゃけ、わらっちょるが、はらんなかぁ煮えくりがえっちょるが」

 二人は共産会の話などろくに聞かず感想を言い合っていた。この間も2ちゃんのコメントはみこへの言及で埋め尽くされていた。

 同時にツイッターのハッシュタグの上位ランキングにも#YKSみこが急浮上するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る