第20話「朝まで生本音②」

 朝生は白熱しながらトークが進んでいった。


「そもそもね、大学生に覇気がないんです。昔と違って政治になんて興味がない、みんな自分の就職のことしか考えてないって実感は僕が一番感じてます」

 社会学者で大学教授の山崎幸二がそういうと、

「そんなことないですよ、俺の周りでもそうですし、アンケートとると政治に目を向けてる人は多いです。特に民政党が政権を取ってから国を危惧してる人は若者の方が多くて、彼らはかなり政治に関心を持ってます。YOUTUBEとか、政治チャンネルの視聴者数伸びてるんですよ」

 若者のリスナーを多く抱える政治系生主であるアゲハがそう返した。


「ちょっとちょっと、民政党のせいにしないでよ、それはほんと一部のネット情報に躍らせた若い人たちだけでしょう」

 民政党の川口がけむたそうに、間に割り込んできた。

「いや、ネット情報に踊らされたって言いますけど、いま若い人は新聞の方こそ信じてないですよ。特に、まあここのテレビ局で言うのもあれですけど、朝焼新聞はもうねつ造しかしないと思ってますし」

 とアゲハがだいぶきわどい返しをする。


「ちょっと、ちょっとそれは聞き捨てならないよ。ねつ造なんて言葉をよくも知らないで簡単に使わないでよ、君にジャーナリズムの何がわかるの?」

 白髪の谷原はその白髪を逆立たせるんじゃないかというような剣幕で、アゲハに詰め寄る。彼は昔その朝焼新聞の記者だったこともあるのだ。

 しかしそこで口を挟んだのは実業家の入江だった。

「いや、ぼくはアゲハくんの言う通りだと思いますよ。ほんとすっげぇやられたもんマスコミに、ちょっとした発言を切り取って、すぐに悪意を込めるもんね。まだネットの方がいいよ、探せば、ちゃんと切り取らない一次情報が出てくるからさ、新聞とかもうつぶれちゃっていいと思うよー」


「君はテレビ局買収に失敗して逆恨みしてるだけだろう。黙ってなさいよ」

 谷原は、入江にもすごい形相ですごんだ。入江はかつて、テレビ局を買収しようとした際にマスコミから総バッシングを受けて失敗した過去を持っていた。

「は、なんだそれ!どうしようもないな、朝焼けテレビは」

 もちろん入江はむっとした表情になる。


「まあでもほんと最近、私はじめ周りの大学生もテレビでニュース仕入れないですね。ネットの方が早いし、情報量も多いし、そりゃ嘘も多いけれど、情報を取捨選択できるだけ、新聞、テレビよりましかなあと。僕、実際民政党が勝った選挙の時には相当、マスコミによる誘導があったと思ってます」

 今度はSWORDの荒木が、マスコミ批判に意見を重ねた。


「だから、イメージでそういうこと言うのやめてほしいんですよ。マスコミは公平だったと僕は信じてますよ。実際、そんな誘導されるほど国民は馬鹿じゃないですよ、そういうのは国民に失礼なんです」

 そういったのは民政党の原口だ。

「そうですか、割と誘導されるじゃないですか。うちのお母さんとかミノムシもんたさんが、納豆がいいとか言って、次の日にスーパー行ったら全部売り切れてたとか言ってましたよ」

 とみこが笑いながら、小話を入れる。


「それは話が違うでしょ、とにかくよくわかってもないのに若い人がマスコミを語るんじゃないよ!」

 とみこが茶々を入れたことにむっとしたのか、白髪の谷原は大きな声でみこたちに一喝した。

 これには、みこたちはもちろん、ネットの人々も騒然となった。

――だってこれ、若者に話を聞く回だろ。

――やべぇな谷原。

――やれー、いいかえせーみこ様ー。


 もちろんみこも黙ってるわけなかった。

「言わせておけば、ひどい言い草ですね、谷原さん。今回は若者と政治を語る会なんじゃないんですか、それを黙ってろとは何事ですか。別にわたしたちはあなた方のつまらないご高説を伺いに来たわけじゃないんですよ」

 みこはヒートアップして思わず立ち上がった、目線は谷原ではなく、その谷原の後ろにあるカメラだが。

「なんで若者は政治を知らないなんて語れるんですか? 唯一政治とか社会を進行形で勉強してるのが大学生でしょう? それに何も言うなとはどういうことですか」


「――まあ、みこちゃん大学にいってないからわかんないと思うけど、大学で学んでる政治なっていうのは理想論で、中身なんてないから」

 あきれ顔で民政党の橋置がそういった。

 

 この明らかな失言を荒木は見逃さない。

「あなた今大学の教育をすべて否定しましたね。じゃあなんのために大学があるんですか? 就職のためですか、大学で政治なんて学ぶなと言いたいんですか? そもそも、理想で政治を語ってはいけないのですか、理想を目指して国を作るのが政治と違いますか?」

 荒木出央も演説が得意で、学生運動をしている人間である。討論での追い詰め方には自信がある。


「……いやいや、そういうことじゃなくて、社会に出てからじゃないとわからないことのほうがいいから、大学で政治の基本とか学んで、それで社会に出てからじゃないと実際の政治とか理解できないってだけで、意味ないなんて言ってないのよ」

 社平党の清本がなぜか優しい口調でフォローを入れてるが実質なんのフォローにモナってない。

「まあ、大学の勉強が何の役にも立ってないのは事実だけどね。若者はかわいそうだと思うよ」

 入江はボソッとそんなことを言った。

「違いますよ入江さん、役に立ってないのは役に立たせる場がないからです」

 入り江に返したのはアゲハだ。


「……そりゃないよ、そもそも政治を勉強してる政治家なんて使えないしね。政治家は人気あってなんぼだもん」

「そんなことないですよ、入江さ……」

 手を振りながら民政党原口が否定した。

 しかし、みこはそこにかぶせる

「そうですよ入江さんの言う通り、政治を勉強して理念を持ってる人は政治家になれないんですよ!もっと大学生とか理念を持ってる人が、政治家になるべきだと思うのです!」

「そんあことない、私たちは理念でやってる」

 ほとんど話していなかった五位が発言。


「共産主義の理念なんていまさらどうでもいいんですよ! 昔から理想と理念を持つ人は若い人たちなんです、明治維新とか中心はみんな若いですよ! いまも若い力こそが台頭すべきだと思います。表に立つべきです、私ずっと思ってるんです、政治家のみなさん。なんで25歳からしか立候補できないんですか?」

 みこは唐突に政治家に質問をした。

 谷原は意外にも笑顔でこの質問を受け取り、話を振る。


「だって、面白い意見がでたよ、どうなの民生等の橋置さん」

 橋置は話を振られ、少し考えてから、答えた。

「やはり、社会に出てからじゃないとわからないから世の中のことは。25歳でも低いと思いますよ。実際その年齢で立候補する人はいないですしね」

「清本さんは、どうなの?」

「そうですねぇ、それにみこちゃん、実際25歳以下で立候補するって言ったって大変じゃない。知名度もない、お金もないで受かるほど、選挙は簡単じゃないのよ」

 すぐさま清本は答えた。

「そうだね、実際厳しいよねえ、僕なんかも立候補は30歳からでいいと思うよ」

 谷原は清本に同調した。

 

ここでアゲハが、みこの代わりに意見を出した。

「……そうでしょうか、例えば、大学生が立候補するとして、その大学の票を全部まとめることができたら、皆さんは脅威じゃありませんか? さらに、無償で選挙活動に協力してくれる仲間が大学にはたくさんいます。それは社会人になってからよりも多いはずです」

 そういった瞬間、会場中がざわついた。

 確かに、今までは大学内での票などを主軸に選挙活動を考えてはいなかったが、もし同大学内のちかいところで、立候補するという人がいたらどうだろうか、興味本位で投票しようとするのではないか。


「だから、もし立候補の年齢が引き下がったら、選挙の様相は大きく変化すると思います。どうですか、大泉さん」

 そして、みこは年齢引き下げを口にした。

 そして大泉が答える前に、谷原はみこに質問する。


「ちょっと待ってちょっと待って……なんだい神野さんは、急に立候補の年齢引き下げの話を押してきたけど、ひょっとして?」

 そう聞かれて、みこは一点の曇りのない眼で、はっきりとカメラに向かって告げた。

「はい……もし引き下げがあった時、わたし、YSKの神野みこは次の衆議院選挙に立候補します」

 会場、そしてネットが騒然となった瞬間だった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る