第21話「朝まで生本音③」

―――マジか、みこちゃん。

―――俺たちが初めての選挙に出向く時が来た!


2ちゃんは盛大に盛り上がっていた。


「いやいや、みこちゃんよく考えて。あなたが考えてるほど政治って簡単なものじゃないのよ。そりゃファンの方々からの指示はあるでしょうけど、選挙ってそんな簡単なものじゃないの。そもそも、あなたの年齢では立候補できないのよ、分かってる?」

 社平党の清本が和らげな口調で、みこをおさえようとする。

 同じ女性としてのアドバイスなのだが、もちろんみこにそんな上っ面の言葉は届かない。


「だから年齢に関しては、きっと優しい政治家さんたちがクリアしてくれます。だってなぜ被選挙年齢が25歳なのか……理由なんてないじゃないですか。どうです大泉さん、民自党はどう考えてるんですか」

 ほとんど出来レースである、こういう展開で話が回ることは、重々大泉も承知してる、すべては天晴会、いや龍太のシナリオ通りであった。


「――手放しで応援しますよ、断る理由がない、われわれは少しでも多くの人に選挙に参加してほしいのです、私も25歳には意味がないと思う。被選挙年齢の引き下げは大いに結構。選挙権も18歳からでいいでしょう。彼らと同じ考えを持ってますよ、大学生こそ国政に打って出るべきだと思う。私は応援します」

 堂々とした態度で、大泉はカメラの前で宣言するが、谷原はそれにすぐさま質問をぶつける。


「大泉さん、それが民自党の意見としていいの? 僕の考えでは立候補年齢を引き下げたら一番困るのは民自党だと思うけど」

 谷原は大泉が答える前に、自らの意見をはさんだ、この辺の間の取り方はさすがにベテランだけはある。

「……私の信念としてね、若い人はもっと政治参加をすべきと思ってます。社会が脱・年功序列を目指してるのに、政治だけは圧倒的に年功序列だ。やはり我々がまず、そこからの脱却をすべきでしょう、民自党は私が説得します」

「大丈夫なの、そんなこと言って、民自党はそんな甘い党じゃないでしょ」


「まあ、言っても我々は今、野党です。彼らの意見が通るかどうかはさん次第でしょ。その気があるならば、私は超党派、民自党の意見に逆らってでも賛成する意図はありますよ」

  観客からもおぉっという声が聞こえてくる。大泉という男はいったことは守る男だ。それは十分観衆も知っている。

「おっとここで、いったんCM です」

 このタイミングで谷原が、話を中断させた。何らかの指示が局からあったのだろう。


 それをきっかけに民政党の川口と橋置二人がこそこそと会話を始めた。

(どうします川口さん、このタイミングで大きく反対するのは相当イメージ悪いですよ。実際に法案を通すかは別として……)

(考えがあります、大泉の意見はあれはスタンドプレーだろう……。民自党はこんな法案絶対飲めないはずだ、我々が法案を提出して、最終的には民自党の反対で否決してもらうのが一番いい)


(ですが、我々が提出すれば法案通ってしまうじゃないですか)

(いや、党内での意見の拘束をしなければいい。うちのじじいどもも絶対反対だ。この法案は賛成した人間のイメージがよくなるものなのは間違いない。まあ、万一法案が通っても構わないさ。むしろ民政党に有利だ)

(あ、大泉が、電話を受けてますね)

 橋置の目線の先には、スタジオの片隅でスマホをもつ大泉の姿があった。

(ほら、みろ、ありゃあきっと麻野あたりからの怒りの電話だろ……民自党が立候補年齢下げるわけがねぇ)


 そして、ADの声でCM開けのカウントダウンが始まる。

 白髪の司会谷原が口火を開く。

「さっきね、大泉君がね自分は立候補の年齢を20まで下げていいって言ったけど、じゃあ与党の民政党はどうするの?」

 この質問に川口が答えた。

「ええ、民政党としても、まああくまで我々二人の意見ですが、ぜひやるべきだと思います。神野さんの言う通り、25歳以上である理由がない。何より我々は若い力を欲していますからね、ぜひ大泉さん超党派でやりましょうよ」

 そういって、原口は微笑みながら大泉の方を見る。

 大泉もそれに笑顔で返す。もちろんこれでもかというくらいの二人とも作り笑顔である。

 一方で、共産会の五位、清本あたりの顔は暗い。


「だって神野さん、民政党もこういってるし、じゃあ本当に立候補するんだね」

谷原が改めてみこに尋ねた。

「もちろんです、アイドルがふざけて立候補しようといってるんじゃないんです。知名度を生かして、本気で国のために政治をしたいと思ってるんです」

 笑顔ではなく真剣な表情を、谷原ではなくカメラに向けながらみこは話した。セリフはすべてアドリブ、しかしすらすらと言葉が出てくる。みこは自分の目の前で国について熱く語る男を何人も見てきた。

 それに比べれば、ここにいる男たちなど皆小物に過ぎない。


「そう言ってるけど、具体的に何かある?」

「……ここにいるアゲハ君ともよく話すんですけど、やはり、教育の問題は重要です。基本無償化であるべきだと思うんです、大学まで。その代わり通って大卒の資格を取るためだけのものになってる私立大への補助金はすべて打ち切る。少子化問題で日本は必ず大量の外国からの移民を受け入れる時が来ます。その時に日本の教育レベルが低くなっていたら、必ず日本は乗っ取られますよ」

 みこから思ってもみないしっかりとした発言が出てきたので、会場中がざわついた。

 民政党の二人もお互いの目を見合わせている。

 ちなみに、発言については龍太とカオスが語っていた日本の問題点の一部をそのままみこが切り取ったのである。


「まあでもそれこそ理想論なのよ、みこちゃん。実際にやるとなったらすごい抵抗が起きるし、まず無償化のためにかかるお金はどこから出るのかしら」

 基本的に黙っていられない清本がみこに食って掛かる。かわいいだけの女だと思っていたアイドル風情の女が、まともに政治を語りだしたことに対する怒りのようなものがにじみ出ていた。

 しかし答えたのはみこではなく、SWORDの出央である。


「清本さん僕は、政治家が理想を言わなくなったら終わりだと思いますよ。政治家が現実的なことだけやっていいのなら、官僚だけでいいじゃないですか。政治なんかいらない。それから清本さんは渋い顔をしていたけど、僕らSWORDはすでに、被選挙年齢引き下げのための運動の準備を始めました。来週、そのためのデモ行進をやるとツイートしたら、すでに5000人以上が参加を表明してくれてます。どうするんですか清本さんの党は?」


それをきいた谷原が驚く。

「5000人とはすごいねぇ……どうするの清本さん」

「私どもも反対するなんて言ってないですよ、ただこういう勢いで物事が進むのはちょっと怖いな、みこちゃんもちゃんと考えてほしいなって思ってるだけで」

 慌て顔で、清本は弁解を始める。清本はみこや出央の謎の圧力になぜか、汗が止まらなかった。なぜこんな若造どもが私にプレッシャーを与えてるのだろうか。


「清本さん、私はよく考えてます。子供の時から政治家を目指して、その手段がアイドルってだけなんです。もちろんアイドル活動はたのしいですし、ファンの皆さんにも感謝してます。でも夢は国のために働くことなんです」

 もちろん大嘘である、本音は現状でアイドルとしてステージの上でみんなからの羨望を集めながら自分を見てもらえることが一番のエクスタシーだった。なので、現世ではそのまま芸能活動を続け、大女優がいいなあと思っていたのである。

 しかし龍馬が現れた以上、現世でこそ、彼を日本のトップに仕立てることがみこにとっての使命へと変わっていた。


「だから国民のみなさん、立候補は20歳からにしましょう、選挙権は18歳から与えましょう!みんなの声が国会に届けばきっとかわります!」

 そう熱く訴えかけた。


――その後もみこを中心に番組は進行した、この番組で若手が自分の意見を通すことは本当に難しいのだが、いつの間にかイニチアシブはみこのものとなっていた。


 そして翌日の朝のニュース番組から大きく神野みこのニュースは取り上げられた。

『YSK36 神野みこ政界進出宣言』

『神野みこが衝撃発言、自分は首相になるためにアイドルをやってる』

『立候補は20歳から!? 神野みこがとんでも提言』

『YSKとうとう、リアルに総選挙!』


 狙い通り世論は、選挙権の年齢引き下げを求める流れになっていった。

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