第22話「クリスタルな夜」

(なるほど面白い、この神野みこという女もさては転生者だろう)

 大阪府知事こと、かつて織田信長だった男「川上徹哉」もまた朝生を見ていた。見事な立ち回りを見た川上はぜひ、神野みこを自陣営に引き込みたいと考えたが、同番組に大泉が出てるのを見てすべてを察した。


(天晴会……被選挙年齢引き下げは賛成だが、裏にやつらがいるのであれば、簡単に乗るわけにはいかん。まあ、それでも橋置はうまく立ち回ってくれたか……)

 朝生に出ていた橋置は実は、川上との古くからの友人であった。

 彼は転生者というわけではないのだが、川上が大学生の時からお互いに何かあれば酒を交わし将来の展望を語り合う仲であった。川上が一番信頼している相手は彼だといって良い。

 橋置は川上が転生者であることを知らないのだが、奇しくも、彼の行動や態度、言動を見て織田信長のようだと評することがあった。

 そして、それに乗った川上は「そうじゃ、わしは織田信長ぞ」ということも多々あったが、まさか橋置もそれがマジだったとは思わないだろう。


 さて、水面下ではあるが、橋置と川上にはすでに合流する意図があった。


 民政会の上層部、特に大澤とそりが合わない橋置はことごとくポジションを外されており、また民政党のする政策にも賛同できていなかった橋置は水面下で自分のシンパたちに離党を呼び掛けており、その後川上の革新同盟に参加する予定であった。


 いまはもはやタイミング待ちの状態である。

 きっかけさえあれば、10人ほどを連れて川上のところにはせ参じるつもりである。

 それゆえに今回の橋置の朝生で動きは大事であり、川上は注目していた。


――――――――――――――――――

 

 朝生の翌日、毎朝ぶら下がり会見を行う川上の元にも当然記者が、神野みこについての質問を求めてきた。

「ご覧になりましたか、神野みこさんの発言なんですけど、知事はどう思われますか?」

「……結構なことなんじゃないですか、彼女達が言う通り年齢なんてとっとと引き下げたほうがいいですよ。それにしても彼女は勉強してますね、朝焼け新聞の記者連中にも見習ってほしいもんですよ」

 いつもの川上節で朝焼け新聞に記者に答えた。

 もちろんむっとして、記者は質問を続ける。


「ですが世論の声ではろくに政治をわかってない若者が政治に参加すると混乱をきたすというのも多いですが」

「分かってないのは、大人でしょうむしろ。大人になればなるほど政治は利権とお金ばっかりですよ、こうやったら得するから投票する。そんなんばっかりでしょう、見てくださいよ民政党を、ばらまきばっかじゃないですか? 子ども手当とか財源も確保してない政策に結局国民は飛びついたんですよ。むしろ若い人の方が、そういうのに躍らせられなくていいじゃないですか」


「……知事の政党に神野みこさんは欲しいですか?」

「もちろん、彼女がうちから出たいというのであれば、全力でバックアップしますよ。主張的にも近いですしね」

「後ろで知事が手をひいてるのではないかという声もありますが」

「バカ言っちゃいけませんよ、僕も芸能界にいたんでプロデューサーの仲本さん知ってますからね。怒られちゃうでしょう、あんな仕掛けしたら。案外仲本さんの仕掛けかもしれないですしね、彼はサプライズ大好きだから」

 はっはと言って記者の質問を笑い飛ばした。

 その後もあまりにも同様の質問が続くので川上は強引に会見を終えて、庁舎に戻ることにした。こういった光景はいつものことである。


「さて、次は、ジャパンテレビの単独インタビューか」

 川上は珍しく、テレビ局の単独インタビューを受けることにしていた。もちろん革新同盟のアピールのためでもあったが、インタビュアーが今を時めく女子アナウンサー『山西・クリスタル・カミーユ』だったからである。フランスとのハーフである彼女は美貌もさることながら、知的なイメージで人気があり、川上もいいアナウンサーだと思っていた。

 どうせ受けるならお気に入りの子からインタビューされた方が、丁寧なインタビューになって好感度もいいだろうと判断したからである。

 と川上は自分に言い聞かせていたが、本音はただ一対一でお話がしたかっただけである。


 そして30分のインタビューの内容は多岐にわたり、もちろん中心は革新同盟の話であったり、神野みこについてだったりしたのだが、それ以外にも川上の好きな映画や本の話とか女性遍歴の話とかにも及んでたりした。

 言葉を選びながら話していたつもりだったがつい楽しくて、余計なこともいってしまったかもしれないと川上は反省していた。


「今日はありがとうございました」

 わずかに口角をあげる程度の派手ではない大人の笑顔を見せながら、山西は握手のための手を差し出した。

「いや、こちらこそ有意義な時間でした」

 そういって、その手を川上もつかむ。

 するとつかんだ山西の手の中には何かが握られていた。

 ノートの切れ端程度の大きさの神である。

 不信がった川上はいぶかしげに、山西の顔を見る。それに対して山西は再び口角を少し上げるだけの微笑を返すのだった。

 そうして何も言わずに、山西とテレビ局一行は知事室を出ていった。

 それを、怪訝な表情で川上は見送っていく。


「どうしましたか知事?」

「いや、クリスタルさんは現実の方がキレイだなと思ってな」

 秘書の問いに川上はそれだけ答えた。

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