第53話「信長と龍馬②」

「それで、素直にこの川上が協力すると思うのか」

 川上はえらい剣幕で龍太に迫った。


「……する、せざるを得ない。民政党がおまさんの敵である以上」


「さっきまでの情報をすべて大澤に売ることもできるが」

「……ない、そんなことをしてもおまさんにメリットがない」

「では逆に俺が君たちを助けることにメリットがあるのか?」


「ある……おまさんには先見の目があるからわかるはずぜよ」

「なんだ……天晴会の力は麻野に握られてるんだろ? それがないお前らになんの存在価値があるんだ」

「——みこだ。あれが復活したときに一大センセーショナルになる、その未来予想図がみえないのか?」

「ふん、ただの妄想だな」

「——着々とその下準備を進めてる、間違いなく世間は動く。そのとき、川上さんの党が彼女を支えてやりゃあ、主導権を握るのは民自党でも民政党でもない、川上さんだとわしはにらんどうよ、ただ少なくてもおまさんはこのままでは与党はとれん」


「べつに次の選挙でどうのこうの考えてない。みこの力を借りる必要などない」

「わからんのか、戦は機じゃ、機が大事なことをむしろわしは桶狭間のおまさんで知ったんじゃ、みこという起爆剤は必ず働く、火をつけるのはおまさんの仕事じゃ」

「……」

「2011年の夏が勝負だ、そこでみこを復活させる。その時の状況を想像できんか川上さん。たかが一介のアイドルに過ぎない存在が大きなうねりを起こすぞ、早く乗っかれば一気に世論はそこに傾く」

「——あの女は、みこっていう女の正体はなんだ?」

「……前世においては私の妻であるお龍。そして、藤原の娘だったこともあったかな、そしてスタート地点ではあの卑弥呼だったらしい。まさに日本史を裏からずっと支えてきた女だよ」

 それを聞くと川上はガハハと豪快に笑いだした。


「すごい女を、君、坂本さんは従えたものだな、ふふっ、そうかそうか。ならばそうかその潮流に乗るのも一興かもしれんな。そこまでの女をそばに起きながら坂本さんあんたは天下を取れんかったんか?」

 おちょくるような言い方で、川上は龍太に言う。


「わしは、そもそも天下を取る気はなかったんよ」

「ならばなぜ、現世においては、そのみこの力を使ってでも天下を取ろうとしている?」


「そりゃあ、現政権が許せんからよ、このままいけば俺が守ろうとした日本は売国奴の手に渡る。いや既にわたっている。北朝鮮からは国民を取り返せないし、川上さんが問題にしてるように、韓国は従軍慰安婦なんて言うわけのわからないことまで取り出して日本を貶めている。中国の日本企業に対する暴動とか尖閣の問題とか、対外関係はめちゃくちゃだ、このままでいいのか川上さん」


川上は黙っている、何も答えない。


「川上さんおまさんならやれる、おまさんならアメリカの圧力も中国の圧力にも屈せずに政治ができる。アメリカに押し付けられたあの憲法だって、天晴会とおまさんの力を合わせれば変えられるとは思わんか、わしを助けてくれ川上さん」

 

 龍太は懇願した。そして川上の目の前にいるのは7歳の少年であったが、鬼気迫った表情には坂本龍馬のそれが乗り移っていた。やがてゆっくり、川上が口を開いた。


「……俺はまず何をすればいい?」

「……18歳被選挙権だ、そこが一丁目の一番地、被選挙権が25歳以上であるという要件に合理的な理由はない。次の衆院選までに何とかそれをごり押してくれ、私たちで何とか世論は形成する。国会工作を任せたい」

「与党を崩せるか?」


「勝算はある、橋置の力も利用してくれればな。あとは世論だろう。そうするしかないという世論にもっていくことはできると思う、あとは……」

「金か……、おれに金を使えというんだな」

「そこもまあ、俺らには角野元総理……いや西郷どんの遺産があるからな。なんとかなるさ」

「……なんだ、おれの隠し財産に目をつけたのかと思ったぜ。じゃあなんだ?」


「おまさんの剛腕、さらに新たに仲間に加わった橋置の求心力を生かしてほしい。腐った民政党を中から崩せるのは、おまさん方の力と我々新天晴会の勢いじゃろう」

「ふふ、要はそっちで金を出すから、裏工作しろってことか」

「得意だろ?」


「——選挙権の方が首尾よくいったっとして。衆院選で勝った場合、首相は俺でいいんだな」

「……あぁ、他の天晴会メンバーは説得するぜよ。勝……春川さんも異存はないだろ」

ここで龍太は今まで口を閉ざしていた春川にも話を振る。


「言っただろう、俺は政治的にやりたいことはない。坂本さんの意思がそのまま俺の意思でいいよ」

「ということぜよ、川上さん」


「いいのか、俺が君らの思うような政治家とは限らんぞ、何せ俺は悪名高き信長だ。そんな奴に国のかじ取りを任せていいのか」

「是非もなしと答えるべきかな? 信長という毒をすっかり飲ませていただくぜよ。方法を問わずおまさんはきっと強い日本をとりもどしてくれると信じてるからな」


 そう言って、龍太は小さい自身の手を、川上に差し出した。

 少しの間のあとに、川上はそれに応じて、手を握り合う。


「これは何同盟と名付けるべきかのう、坂本殿?」

「さあ、後世の歴史家がうまい具合つけるんじゃなかろうか」

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