第51話 「2010年の坂本龍馬」

 川上と大泉の接触は、この記者会見からさかのぼることの1か月前、麻野が民政党の内閣入りを発表した翌日に行われていた。

 そしてそこまでの段取りはすべて龍太が行った。


 その道程は決して平たんなものではなかった。2010年、龍太は実際にどう動いていたのだろうか。


 2010年の夏、みこが襲われる前から龍太は麻野を怪しんでいた。そして仮説を立てながら麻野が何者かを考えた。もし、麻野が龍太の考えた通り、大久保ではないとするのならば、麻野の狙いは何か?

 少なくとも、麻野は転生の存在を知ってる人物であることは確かである、ならば義満側の人間である可能性が極めて高かった。

 

 では麻野がどう動くか、何らかのきっかけ待ちで、民政党へと移るか、あるいは大泉を完全に排除して民自党を完全に掌握するかのどちらかではないか。現状であれば、民自党を掌握するのはたやすいはずである、大泉さえ何とかできればいいのだから。

 

 しかし、お龍の墓前に龍太が現れてから、麻野のプランは狂いだした。

 膠着していた天晴会の歯車が動き出し、徐々に麻野の知らないところで天晴会メンバーは集まりだす。

 議員こそ誕生していないものの、次の選挙で勝てるような陣容を作り出し始めた。


 さらに龍太は天晴会の新しい仲間と麻野の接触をなるべく避けていた。それを麻野も感じていた、そしてそのせいで麻野は龍太が何かを勘づいているかもしれないと感じ始めていたが、もちろん確証はない。確証がないのは龍太も同じ、お互いにお互いの既知情報を探り合うような状態だった。

 2010年春頃は、龍太も麻野もお互いの手の内をさらさないように静かな心理戦を行っていた時期と言える。


 さて麻野は思っていた、龍太が確保してる天晴会の若手は、次選挙の時には、確実に当選してくるであろうと。それが何より現れたのが、みこの動きである。今まではアイドル活動に専念し政治的な動きを見せなかった卑弥呼だったが、龍太が現れた瞬間に変わった。

 政治的なジェネレーションリーダーへと変わっていった。

 この動きが本格的になれば、多くの龍太派の政治家が天晴会に流れ込んでくると容易に想像できた。


 そうなると麻野は一気に天晴会における発言力を失い、掌握するどころではなくなる。

 よって麻野としては何としても20歳立候補案をつぶしたかったのだ。そして、麻野がとった行動が、2010年の夏のあの襲撃事件である。

 みこさえつぶしてしまえば、20歳立候補案はトーンダウンする。そこで、民政党の大澤の力を使い、みこを脅すつもり襲わせた。あるいは誘拐できればそれでよかった、行方不明になってもらえば、それが一番よかったのだが、何の手違いか大澤が依頼したもと新撰組の芹沢鴨は、みこを意識不明の重体に追い込んでしまった。


 もちろん実際には龍太が仕組んだ狂言だったが、麻野は疑うことなく、新撰組がやりすぎたのだと判断した。

 これは麻野にとって誤算である、いなくなるかビビるかすれば、自然に20歳立候補の話はトーンダウンするはずが、入院からの復活を遂げることにより、選挙熱はかえって熱を帯びる結果になった。


 また襲撃事件を受けて、龍太も麻野が裏切り者だと確信した。あのとき麻野は「グリュグの飲み過ぎで酔っぱらったか?」と大泉に語っていたが、ホテルでみこがグリュグというシャンパンを飲んでいたという情報は麻野が知るよしのないものであった。つまり麻野はあの時の状況を現場を知る何者かから聞いたはずなのである。



 さらに、事態の変化をねらった麻野が尖閣の事件をもひき起こすと、今まで動かなかった元勝海舟、春川十色が動き出すことになってしまった。

 2011年11月30日、春川十色と再会を果たした龍太は、そこでとうとう麻野が足利義満であることを確信した。麻野が義満、そして井伊直弼かもしれないと告げた海上保安庁の春川十色はかつて勝海舟であった、龍太にとって師であり、そして最も頼れる仲間ができたと言える。


 龍太は職を失った十色にみこの護衛を頼んだ、さすがに何か月も昏睡状態であるといい続け、存在を麻野に隠し続けることは難しく、またみこのストレスも限界である。そしてみこの要望もあり、春川とみこは春川の船で海外に出かけることになったのであった。


 さて、龍太と春川の出会いの直後に春川と接触した人物がいた、それが大阪府知事の川上徹哉であった。

 川上は映像を流出させた人物が春川だとわかると、すぐに彼をほめたたえ、ツイッターでも称賛する文を書き、ぜひ自らの党から立候補すべきだとし、すぐに春川と会うこととなった。


 もともと春川も川上の政治方針に大いに賛同するものであり、お互いにあった瞬間にすぐに打ち解けて、またお互いが転生者であることを明かしあった。

 その時に春川は、川上に現在の民自党が望むべき姿ではないことと、また坂本龍馬が転生していて、ぜひ川上さんも彼に会うべきだという旨を告げた。


 川上はこれを快諾し、2011年12月5日に春川の仲介による3人の密談が行われることが決まった。


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