第4話「おりょう」

「久しぶりね、龍馬。また同じ時代で出会えてうれしいわ」

「140年ぶりぜよ、まさかおまんとまた同じ時代を生きれるとはおもわんちゃ」

「140年ぶりに私の墓参りに来てくれるとか、ほんとうに美心まごころを持ってたのね」

「そういう約束だったじゃか、そっちこそ、毎日わしを待っとととか?」

「……うーんそれは、嘘。組織であの場所を監視してたの、天晴会メンバーならあの場所を訪れるはず、子供がわざわざおりょうの墓に来て騒いだりするはずがないから、それだけであなただって確信したわ」

「……相変わらず食えん女ぜよ」


 あの墓の前で出会った時に、龍太の手に握られていたのは、010から始まる携帯電話番号であった。010から始まる時点で相当特殊さがうかがえる。

 龍太はさっそく公衆電話を使って、その電話に掛けると、先ほど出会ったYSKの神野みことつながった。家の電話は使うわけにいかなかったし、もちろん龍太は携帯を持っていなかった。


「ふふ、わたしを誰だと思ってるの」

「……そうじゃな。さすが日本の女帝卑弥呼ひみこさんぜよ。あの頃はよくわしの嫁んなってくれたっちゃね」


「何言ってるの?もちろん好きだからに決まってるじゃない。いろんな人を好きになったけど、今でもあなたが一番よ。現世に帰ってきてくれて心からうれしくおもうわ」

「よせい、照れるぜよ。……それにしても、まさか芸能活動しとるとはな」


「別に意外でもないでしょ?転生しても女は女にしかなれないし、いつの時代も女が目立つには芸能をするか強い男の女になるのかなのよ、芸能はこれで3回目かしらね、幸い私は生まれ変わるたびに美人に生まれるのよね。やはり内面が外見を美しくするのかしら」

「……そうじゃな」

「なによ、その気のない返事はもう。女としての私はもうどうでもいいわけ?」

「肉体としては5歳やか、女も男もないぜよ」


「……まあそうよね。それにしてもずいぶん今回は転生に気づくの早かったわね。大体、思春期ぐらいに思い出すのが普通なのだと思うけど」

 転生したケースで、もちろん赤ちゃんの頃からどの記憶があるなどということはない。成長し、言葉をおぼえ知識を得ていくことで、徐々に自らが何者かであることに気づく。それでも龍太の5歳というのは、みこにはだいぶ早く思われた。


「……わしなりに考察したんだが、現代の情報量の多さがなせることじゃか。以前までは書物の中で、かつての自分の名前を見るなんてこたなかったがぁ、気づくきっかけがなかっただけで、今回は不意に自分の名前を見つけてしまったがぁ、こげんすぐに気づけたぜよ」


「……そうかもしれないわね。私は勉強とかするタイプじゃないから、13歳まで卑弥呼って言葉に出会わなかったのよ。学校で初めて気づいて、おもわず、叫んだら変な人に思われて。13歳までずーっともやもやしてたんだけど、ようやく理由がわかってすっきりしたの。そこからは、じゃあせっかくだし、アイドルになってみようかなあって思って、オーディション受けたら、まぁ余裕よね。だって私は正真正銘の偶像アイドルなんだもん……ま、もちろん組織の力は使ったけどね」


「組織……あぁそうだ今の天晴会のリーダーは誰なんだ?」


「……大久保さんよ、利通さん。あの人はずいぶん早く転生したらしくて、気づいてからはすぐに政治家を志して、ついこの間まで総理をやってたわ」


「総理大臣をやってたって?……あぁ、麻野元総理か、ひょっとして。そげんか、大久保さんとはほとんどというか、まったく接した覚えがないんじゃが、後の歴史を見る限り、かなり、大久保さんの力で明治は進んでっちゃみたいじゃが、ぜひ会いたいぜよ」

 大久保利通は西郷隆盛、木戸孝允と並んで維新の三傑とよばれ、私財をなげうって明治政府のために働いたことで有名である。

 明治政府の礎を気づいたのは彼といっても過言ではない。藩閥政治の元凶と言われることもあるが基本的に無私の人であり、藩閥政治も能力主義の結果に過ぎないとみるのが大勢の意見であろう。


「珍しいのよ、大久保さんは。大体、転生って全く関係ない家柄で起きるのだけど、血筋的に麻野元総理は、大久保さんの直接的な血縁のある家系なのよ。なんていうかもう彼は政治の中枢にかかわるべくしてかかわってるって感じよね」


「……あ、でも、うーむ、麻野元総理ははついこの間、下野してしまったじゃないか。権力を手放すなんて大久保さんらしくないな。民政党とかいうわけのわからない政党に政権を渡して、自分は控えるなんてわけがわからんぜよ。察するに、民自党は天晴会が作った組織だろう。なぜ、組織の力を使って負けてしまってるが?」


 2009年日本では、圧倒的な与党であったはずの民自党は衆議院総選挙において、民政党に破れてしまっていた。このときはじめて完全に権力というものを民自党は手放したのである。


「そうね、そこが問題ね。あの人らしいといえばあの人らしいのだけれども、リーマンショックっていう大きな経済危機があって、麻野総理は自らの地位より国の経済を優先したの。その結果国民は、麻野総理に冷たい対応をしたけど、結果日本はまだ救われたのよ。昔からそう……龍馬は知らないかもしれないけど、大久保さんは国のためにみずからを犠牲にできる人なのよ」

 龍馬改め龍太にはそういった自分の死後の大久保の行動など知る由もないが、おりょうが言うのならば間違いないのであろう。おりょう改め卑弥呼は、龍馬の死後の日本の行く末を知っているのだ。


「そういえば解せないことがある、なぜ大久保は西郷と戦うことになったのだ。お互い、天晴会の同士であったはずで、維新の仲間だったじゃないか。歴史の本をたどるだけではどうにも解せぬ」

 西南戦争…‥、政府中枢にいた西郷隆盛は、政策論争の違いによって明治政府を去ると、最終的には薩摩藩の自分を慕う士族のために西南戦争という内紛を起こした。

 西郷たちは破れ、その責任を取って最終的には自決した。

 

 なぜ大久保と西郷がこんな形で終わってしまったのか、龍太には理解できなかった。


「うん私にも二人が仲互いをした理由はわからなかったけど、でも大丈夫、二人はちゃんと、現代で仲直りしてるから。実は、日中平和友好条約を結んだが、西郷さんらしいのよ。そこで、前世での話をちゃんとつけてお互い支えあったらしいわよ、もう角野元首相はなくなってしまったけど、またすぐに転生しそうじゃない?あの人は本当に生命力がありそうだから」

 角野首相は1970年代に総理として活躍した政治家である。日本列島改造を打ち上げ、その強権で日本中のインフラ整備を積極的に行った。日中平和友好条約を結んだのも彼である。だが、アメリカからの不正兵器輸入の関与を疑われ、首相として初めて逮捕されることになった。みこの話ではその角野こそが、西郷隆盛であるらしかった。


「……そうか西郷どんもきっちりまた日本のために働いていたのか。西郷どんにはぜひ会ってみたかったちゃ。わしもこうしちゃいられないぜよ。一刻も早く天晴会に戻らねばの」


「そうよ、龍馬。いや今は龍太ね。あなたには義務があるわ。天晴会、いや日本を正しく導く義務があるの。このままいけば、日本は必ず憂き目にあうわ、このタイミングであなたが現代に転生してるのは偶然とは思えない。あなたが日本を救うのよ」


「そんなに日本は今危ういやか?」


「危ういわ、いま日本の政治は売国奴の手によって運営されてる、おそらく長年私たちが戦ってきた相手よ」


「……まさかまたあいつが転生してきてるのか」


「そう、売国奴であり、中国の手先……」


「義満か……」


「売国の王、足利義満」


「一刻も早く大久保さん、改め麻野元総理に会わなければぜよ」





※西南戦争の話がカクヨムにありました。

 参考にどうぞ

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884476893

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