第73話「マスコミは踊る」
「ニュースです、YSKの神野みこさんが公職選挙法違反の疑いで現行犯逮捕されました」
夜十時のニュースで、神野みこ逮捕のニュースは一斉に報じられた。と同時に、みこが選挙カーから飛び降りて、日連の元へと歩いていく姿も、その場にいた人達のスマホでとった動画から引用されて、大変注目されることとなった。
もしこの映像がなければ、ただ神野みこが何か悪いことを行ったように報じられて、印象の悪いものになっただろうが、映像のおかげで、経緯や前後関係まで報じられたので、逮捕のニュースにもかかわらず、各マスコミはどちらかと言えばこのニュースを面白おかしく取り上げるのだった。
「なんというか、アクロバティックですね神野さん、スピード出てなかったとはいえ、普通は知ってる車の上から飛び降りれませんよ」
若い女のコメンテーターが好意的な感想を残すと、
「私は感心しませんねぇ、仮にも法律を作る立場を目指す人が、堂々と犯罪行為をしちゃいかんでしょう。パフォーマンスにしか思えませんしね」と、老齢の常に政権に批判的なコメンテーターはくぎを刺す。
「……えっ、犯罪なんですか、飛び降りるの?」
「そりゃあ、道路交通法違反だし、何より、公職選挙法違反はダメだよ」
「ちょっと私不勉強なんで、何が公職選挙法違反だったのかわからないんですけど」
「いやあ、あんたねぇ」
とまあ、このようなやり取りはテレビの中だけでなく、ネット上でも繰り広げられ意見が分かれた。どちらかと言えば批判よりも、神野みこを英雄視する声の方が大きかったといえる。
『政治に命かける、神野みこマジかっけー』
『正直ファッション政治だと思ってたのに』
『あの動画だと官房長官何もいえてないよね』
『岩手県知事みこのたんじょうだぁ、ヒャッハー』
まあ、大概はたいがいだったが。
そのおかげで、警察も強くは出れなかったので、弁護士の力もあって、神野みこは即日釈放となった。
「まさかね、アイドルやってて逮捕されるとは思わなかったわ」
みこは出てきてすぐに龍太にそう言った。
「わしも驚いたぜよ、そりゃああんな大立ち回りすりゃあ警察も民政党も黙ってなかろうよ、危うく選挙計画全部だいなしになるところだったちゃあ」
龍太はまさかのみこの行動にあきれていた、もちろんこんな行動を予想してはいなかった。
「……でもまあ注目は集められたんじゃないの? 意識したわけじゃないけどさ、たまにマスコミどもには刺激を与えてあげないとすぐ飽きちゃうんだから」
「悪目立ちぜよ、ここからは年寄どもの票を取っていかなきゃいけないのに」
龍太は心配していた、今回の騒動で、確かに若者の支持は集まるだろうが、肝心の選挙に行く年齢層の支持は下がるんじゃないかと思っていた。
あまりにも行動が過激すぎる。
ところが時に時勢というのはわからない動きをするものである。そのあまりにも奇抜だったみこのパフォーマンスのおかげで、連日マスコミは、岩手県知事選を取り上げざるを得なくなった。そのくらい国民の注目度がたかい、いやマスコミ関係者がこのネタはおいしいと思ったのであろう。
必然的に、年配層もみこの発言や、日本革新同盟の動きを注目するようになり、この日を境に革新同盟の新人である「
現職の知事が圧勝だと思われていたために県民の関心も低く、マスコミもほとんど取り上げるつもりのなかったこの選挙の様相が変わろうとしていた。
選挙まで1週間に迫った10月末には待ちゆく人の声も変わっていた。
「えぇ、次の選挙、行かないつもりだったけどねぇ、あのみこちゃんって子は若くてかわいいのにしっかりしてるねえ、すっかりファンになっちゃったよ……えっ、みこちゃんが知事になるわけじゃないの?」
駅前のおばちゃんは街頭インタビューでそう答える。
「まあ、民政党の現職は大澤の不祥事のせいでイメージわりぃからね、今回はどうかねぇ?」
ゴリゴリの現職の知事側のおっさんも少し意見が変わりつつあった。そもそもこのように岩手県知事選が全国区で頻繁に取り上げられることさえ、まれではある。そして、例年40パーセントも行かないようなこの選挙は、事前の調べでは投票率が60%を超えるんじゃないかと予想されるほどになっていた。
さらには、1週間前の段階で、通常であるならば事前調査で勝敗が決しそうなものであったが今回ばかりはマスコミ各社も予想できずにいた。
民政党側の地盤である票も怪しく、浮動票はふえる見込みの一方。
もしかするともしかするのか、そんな空気が、マスコミ内、そして革新同盟、民政党の中にさえ広がりつつある、そして10月が終わった。
シン・日本列島改造計画(仮題) ハイロック @hirock47
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