第14話「進撃の川上徹哉 弐」

 大泉と川上が対談を行った翌日、龍太とみこはたわいもない会話を電話でしていた。なんだかんだ言ってもこの二人は現世においても仲が良かった。

「でね、なんと紅白歌合戦の出場順が何とトップバッターなのよ、すごいでしょ!それのセンターなのよ。やはり、わらわはいつの時代も女の頂上であり続ける運命なのね」

「……紅白の出場はそんなすごいんやか? まあでも少なくてもわしの妻だったときは女の頂点じゃなかろうぞ」


「それは龍馬がさっさと死んじゃうから悪いんじゃない、あのまま行けば日本の頂点はあなただったはずなの」

「……それはないぜよ、わしは裏方やき、もし生きてたとしてもやはり大久保さんか、あるいは西郷どんにやってもろうたと思う」

「変なところで謙虚なのね」

「まあ、紅白はちゃんと見るから、頑張ってな」


「もちろんよ、こうなったら毎年紅白に出続けて、最終的には紅白のトリを飾る歌手になるわ。目指せ和田アキ子よ!」

「おまさんの最終目標はそこでいいのか?」

「過去と今のすべての芸能と政治の裏側を知ってるわらわが、日曜の昼間のご意見番やってたら絶対に面白いじゃない」

「サービス精神が旺盛やかぁ……」

「そしたら、アゲハくんもそこで使い続けようかな。峰竜太ポジションね」

「……いやいや彼には若者のカリスマになってほしいんだから、峰竜太ポジションじゃ困るぜよ」

「なにいってんの? 竜太を馬鹿にしたら怒るわよ。同じ名前なんだから、ちゃんと敬いなさいよね」

 峰竜太に謎のこだわりを見せるみこに、龍太は返す言葉がなかった。


「おぉぉ、分かったぜよ、峰さんはすごいぜよ。……それにしても、天草殿はアゲハなんていうずいぶん女の子みたいな名前やったなあ」

 なんだか話がめんどくさそうなので龍太は会話を切り替えることにした。昨日会った忠常アゲハだったが、名前だけがどうも気になっていたが、結局本人にはそのことについて何も聞けなかった。


「えっ、ひょっとして、龍太は全然気づかなかったの? 多分ね、アゲハくんはねぇ……」

 と何かをみこが言おうとしたとき、龍太が見ていたテレビにピッピピッピというニュース速報が流れた。

 『大阪府知事の川上徹哉氏が、日本革新同盟を結成することを表明。次選挙で政権を狙うと公言』

 という文字が、隆太がちょうど見ていた日曜昼間の和田アキ子の番組の上部に流れる。もちろんこのニュースに龍太は動揺を隠せない。


「みこ、テレビ見てるか? えらいことになったみたいぜよ」

「見てるわ、川上知事って確か、昨日大泉さんが会いに行ったのよね。何も言ってなかったけど、何か動きがあったということかしら」

「動きがあったということならいいが、もしかすると大泉さんはなにかやらかしたのかもしれんぜよ」

「まさか、大泉さんが何かミスをするとか考えられないわ」

「と、とにかくわしは公望君に聞いてみるぜよ、またの」

 そういって、みことの通話をきると、急ぎアドレスから大泉の電話番号を見つけ、そこに電話をかけようとする。

 しかし自らかけるまでもなく、その番号から隆太に向かって着信が来た。


「……もしもし、大泉さんか、どういうことぜよ」

 開口一番、龍太は尋ねた。二人はかつて一度、電話であいさつ程度の会話をしていたが、なんだかんだでタイミングが合わず、本格的に何かを話したことは今までなかった。


「やはりもう、ニュースを見ましたか?――坂本さん、私のミスだ……。川上を天晴会に引き込むことに失敗した。それどころか、敵対勢力に回してしまったようだ」

「わからんぜよ、川上は読み通り転生した人間だったじゃないやか? 天晴会に入らないとは、まさかすでに義満側の人間じゃか?」

 転生の人間を仲間に引き込むことはそこまで難しいことではない、前世をもつ人間は同様の仲間を探している。それは龍馬もそうであったし、おそらく皆そうである。そしてこの与えられた運命を何かのために使おうと、多くの人間はそう思うのである。


「いや、義満の息はかかってないです……だが、前世が厄介すぎる男でした。川上徹哉はあの織田信長です」

 義満が口にするは、あの歴史上もっとも有名であるといっても過言ではない男の名だった。幕末時の龍馬も知っていたし、

『人を用ふるの者は、能否を択ぶべし、何ぞ新故を論ぜん』

という言葉は、船中八策にも通じていて、当時の龍馬の心にも残っていた。


「それはまあ、まっことに厄介な人物が、川上の前世じゃったな。ならば、すべての行動に納得がいくぜよ、むしろ今までがおとなしすぎたくらいちや」

「まあ、川上一人の力でそこまで大きなことができるとは思いませんが、味方にできなかったこと、そして天晴会の存在を教えてしまったことは痛の紺の極みです、誠も申し訳ないです」

「川上が相手ではおいそれと口封じもできん」

 天晴会はそこまできれいな組織ではない、日本の歴史を裏から支えるということはそれなりに闇を抱えるということである。当然、期せずして天晴会の存在などを知ってしまったものや、こちらの意にそぐわない転生者に対する口封じは行われてきた。それは金銭的なこともあったし、やむを得ず暗殺されたものもいる。


「ええ……、ただ天晴会を公言してどうのこうのというつもりではないと思います。現段階では世迷言を言ってるようにしか思われないでしょう」

「そうやが、ただあの男をなめない方がいい、おそらく一人でも何とかする男じゃ。もしかすると単独で義満一派よりも手ごわいかもしれんぜよ。少なくとも3年後の選挙はより厳しいものになるのだけは確実ぜよ」


「場合によっては、以蔵ひときりを放つかもしれません」

「……やめてやれや、現世においては殺しはしてないじゃか?」

「えぇ、ボディガードだけです」

「もう殺しが横行する幕末のような戦いはごめんぜよ」

「でも、相手が織田信長と分かった以上、どんな手を使うかわかったものじゃありません。あちらこそ、命を狙うような真似は簡単にするのではないですか?」


「……まあ、否定はせんぜよ。とりあえず記者会見を見よう、はじまりそうぜよ、川上が何を言うのか楽しみちや」


 隆太の言う通り、テレビ画面にはお税の記者達を前にした川上が立っていた。通話状態のまま龍太はテレビ画面を注視することにした。

 ふかぶかと頭を下げると、川上には無数のフラッシュが浴びせられる。


『えぇ、皆さんわざわざ僕のためにね、お集まりいただいてありがとうございます』

「はじまりましたね……」

「ああ……」


『新党を結成することにしました。党名は日本改新同盟、目標は3年後に政権をとることです。以上』

 とそういうと、川上はマイクをスタンドに戻し、その場を立ち去ろうとする。すかさず記者から怒声のような声が飛ぶ。「それじゃ、困りますよ!」「集めた以上ちゃんと会見をしてください!」」

 その言葉を待っていたかのように、川上は記者達に微笑むと、マイクを再び手にした。


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