第15話「進撃の川上徹哉 参」
川上の記者会見がはじまった。記者の声を受けて、川上は再びマイクを握る。
『はは、すいませんすいません。もちろん質問には答えますよ。私の方から伝えることは新党結成のことだけだったものでね』
それを見た大泉は龍太につぶやく。
「あいかわらずのパフォーマンスですね」
「人気があるわけぜよ」
『なぜ、急に国政に出ることにしたのですか?大阪が第一とおっしゃってましたが』
若い女性の記者が川上に尋ねる。
『……気が付きました、大阪を変えるには日本が腐りすぎている。先日ようやく政権が変わって民政党になったけれどもただの無能の集団、結局何もできていない。それどころか党内の意思すら統一できていない。こんなことでは日本を守れない』
女性記者の質問をきっかけに、先ほどのテンションとはうって変わり、記者、テレビすべてに向かって熱くアジるようなものへと変わる
『ならば民自党はどうか、ここが一番ひどい。やつらは確かに政治能力にたけている。しかし彼らは自分たちしか見ていない、国民すべてをみていない、一部の特権をもつ人間だけを守れればいいというそういう政党に成り下がっている。そのために、嘘をつき、真実を隠し、巧妙に国民を騙しながら自らの政権を維持し続けてきた』
「こいつ、まさか天晴会をばらすつもりですかね……」
「さあな、まあ見守るしかないぜよ」
電話越しの二人はハラハラと会見を見守る。
『先日、民政党と民自党、二つを代表とする政治家と会談しました。名前は明かしませんがね、その時に確信しましたよ。民政党は問題外、あいつらは売国奴だ、日本をという国を消滅させる気だ』
それを聞いた大泉は大きくショックを受けた。自分と会う前におそらく川上は民政党と接していた。そしておそらく民政党も転生の話をしたのだろう。ならば、川上は自分が転生の話をしたときには、それが事実だということを認識していたのだ。
大泉は川上の手のひらで転がされていたのだ。
『民自党、奴らは今までの実績がある。しかしもはや奴らはよどみ切っている、日本にあふれる弱者は見殺しにし、いまや日本という国体が維持できれば、大半は犠牲になっても構わないと考えている。若者は気が付かなければならない、このままでは民自党の老人たちの君たちは養分になるだけだ。なぜ気が付かない? なぜ君たちは動かないのだ』
この話を聞いて龍太は大きくうなずいていた。確かに今の民自党はそういう組織に成り下がっていると感じていた。自分が天晴会を作り、成し遂げようとしていた日本は、現在の民自党が維持してるそれとはまるで別物である。
『まだ民政党の方がましだ、彼らは日本を売ることで国民すべてを守ろうとしている。だが、彼らはあまい、幼稚過ぎる。海外と戦えるほど大人ではなく、このままでは日本は蛮国に蹂躙されるだけだ』
そもそも中枢いるはずの義満は、そんなことも考えずただ中国のために動いてるのだから当然だと龍太は思っていた、そう考えると織田信長こと川上はその辺の事情までは知らないのだろう。
『だから、私がやることにした。大阪を何とかしてからと考えていたが、事態は急を要している。是非に及ばず、私が日本を導くことにした』
そういって、川上はマイクを再びスタンドに戻した。
『川上さん、そうはおっしゃいますが、わずか3年しかありません。そんな自信があるのですか』
今度はベテラン記者からの質問が飛んだ。
『もちろんです、いまの国会議員なんてみんな無能ですよ見てれば分かるでしょう。見てくださいよいろんな政治家を、決断できる男なんて僕しかいないでしょう?』
笑顔でそう答える川上であったが、その笑いにつられる記者はいなかった。
『党名は同盟とありますが、ということはすでにどこかの党と組む予定があるということですか』
テレビでよく見る若い男ニュースキャスターから鋭い質問がとんだ。
『……それはどうでしょうね。マスコミの方でぜひ頑張って調べてくださいよ。まあしいて言えば、あらゆる可能性と僕は同盟を組みますよ。特に若い人たちだ、学生の団体でも何でもいい、既存の政党じゃない、新しい力を僕は作りたいんです』
川上は一人称を巧みに使い分けていた、自分を大きく見せるときは「私」、目線を周囲に近づける時には「僕」を使っている。
『川上知事、続けていいですか。知事職の方はどうなさるんですか』
『もちろん任期中は知事職も続けますよ、国政のせいでおろそかになることは心配しないでください。有能な人事が国政は担当しますから』
『それは誰ですか』
『そのうちご紹介しますよ、今はまだお待ちください』
『川上さん、では――』
こうして会見は1時間ほど続いた、さすがのわかりやすい演説力で記者はもちろん、隆太も大泉も圧倒されていた。
「……これは手ごわいぜよ。さすがは天下の名称、織田信長。このわしでさえ引き込まれそうになったっちや」
「同感です、言葉の畳みかけ方がうまいですね。あと迫力がすごい」
「……あのまま勢いで『人間50年~』と始めそうだったぜよ」
「ふふっ、敦盛ですか。確かにやりそうでしたね」
「……それにしても、狙いまでこっちと同じぜよ、次の選挙に勝つためには若者に訴えかけるしかないとおもっちょったが、先手を打たれた感じっちゃ。しかもわしの今の考え方と通づることが多すぎる……大久保、麻野さんはどうするつもりじゃかのう」
「大久保さんはどちらかと言えば、保守ですね。従来の民自党の支持層を手放す真似はしないでしょう。若者重視の政策へのシフトとかはしないと思います、西郷さんがやってきたこと、そしてそれを引き継いだ伊藤さんがやったことを引き継ぐことが天晴会を守ることだと思ってますから」
ここで不意に伊藤という言葉が出てきたことに龍太は引っかかった。
「ん、伊藤さんは博文さんか? 彼も関わっちょが?現世の天晴会に……」
「あれご存じないですか、政治家ではないですがね。商社の社長を経て日銀の総裁などをしばらく務めていました。2004年に亡くなってしまいましたが」
「麻野さんはなんもいっちょらんかったなあ」
「そうですね、まああんま仲良くなかったですし、あえて言う必要もなかったんですかね。とくに大久保さんが伊藤さんを避けてた感じですよ」
「大久保さんが伊藤を避ける? そりゃあ話が逆やが、伊藤なんてわしから見たらなぜ総理になったんかわからん人物ぜよ、なぜ、大久保がさけるんか?」
大久保利通は間違いなく自分の明治政府を切り開いた人間であるが、伊藤博文はみなから押されて、なすがままに総理に持ち上げられたようだと、歴史を見て龍太には映っていた。そんな、大久保が伊藤を避ける理由はわからなかった。
「伊藤さんがいた時は、天晴会の中心は伊藤さんでしたしね、ほとんど大久保さんが何かを言ったことはないです。なんか置物のようだった印象がありますねえ」
「そげんかぁ……なんやか、天晴会もまとまりがないぜよ、こげんことだから民政党に足元をすくわれるんじゃか!」
龍太は、現在の天晴会の情けなさに少しかっとなった、思わず語気が強まってしまった。
「……すいませぬ」
「……いや西園寺君の問題でなかことは知っとるぜよ、すまない。――ともあれ、わしらで動かねばならんことはますます増えるな、幸いネットを駆使すればこげん幼き身体でもできることは多そうちや」
「すいません坂本さん、転生して早々に」
「人員のこととか、政策のことについてはわしにまかせい。肝心の国会と官僚への根回しに大泉君は専念してほしいぜよ。話を聞く限り、どうも麻野さんは頼りないからのう」
「助かります、私も少しは楽になる……国会は任せてください」
その後も会話は続き、初めて明治の時のお互いなどを龍馬と公望は語り合った。二人は、幕末時にはほとんど接点はなかったが、今日、公望の昭和初期までの話を聞いて、坂本はいたく感動していた。
自分に似た視点を持つ男が天晴会に入ってくれたことを感謝するとともに、現世においても頼れる仲間になるだろうと感じたのである。
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