第48話「医師・高杉勝昭」
前座を含めると6時間にわたる熱狂のライブであった。YSK36から始まり、DRIFT、そして主催者であるAGEHAと続き、レディGUGU、トリはKURENAIジャパンが務めた。
最後は主催者のAGEHAが務めるべきだろうとKURENAIのリーダーの白鳥はトリを拒んでいたが、最後は全員でKURENAIの代表曲で終わらせて、出演者全員でKURENAIジャンプをしたいということになったのだった。
そして大盛況のうちに最後の曲を迎え、観衆全員のジャンプによって、周辺では震度2程度の揺れが起きたという。
「最高の余震だぜー!!」というすれすれの発言を、ボーカルが言っていたが、みんな笑って受け取った。
□ □ □
「復活ライブお疲れぜよ、みこ」
龍太をはじめ、大泉、アゲハ、出央、カオス、砂川真也の天晴会メンバーそして、そこに勝海舟改め春川十色が加わって、LIVE終わりで汗だくのみこを迎えた。
「疲れたっていうか、罪悪感本当半端ないわよ。YSKのメンバーにもそうだし、会場のみんな、マジで泣いてるじゃない。びっくりしたわよもう」
流れる汗をぬぐいながら、みこはいう。衣装は着替え済みで、ラフな格好をしているが、流れる汗はまだひかない。YSKの出番は最初だったが、みこは最後KURENAを一緒に歌い、そして踊っていたので、終わったのはつい先ほどなのだ。
「まあ、おかげで最高の復活が演出できたぜよ。国民をだましてたのは悪いけどな」
「……ほんとうっに、もう結局1年もなんもできなかったじゃない。国民みんなが私を心配してくれて、マスコミなんか私がもう死んじゃったみたいな表現してたけど、生きてるっつーのこっちは」
「俺なんか、みこのためにとかって言って、最強の男と戦わされた。飛んだ茶番だ」
砂川信也は缶コーヒーを片手に、ぼそりとつぶやく
「真也、おまさんは共犯じゃ、そのくらいのことはしてもらわんと」
「真相を聞かされたときは本当驚きましたよ、俺なんかみこちゃんのために曲を書き上げて、ぶっちゃけ目が覚めないだろうなと思ってたから、亡き人への思いみたいな感じだったのに。でも、それが国民の心を打って結局売れたわけですよ。みんなを騙したみたいになっちゃって……もう……、俺にくらい言ってくれてもよかったじゃないですか」
AGEHAがシンガーとして売れたのはみこのために作った「美心」が爆発的ヒットを起こしたからだ。そしてこれを作るときに、アゲハは本当にみこが襲撃されて意識不明だと思っていた。
「まあ、真実を知る人間は少ない方がよかったんぜよ。そしてアゲハはきっと何も知らなければいい曲を書くかなあとおもっちょった。もし、ぴんぴんしてると知っていたら、あの曲は生まれなかっただろ?」
「それにしても、私にまで真相を伏せるとは……ひどいですよ」
本当に直前まで神野みこが、今日復活することを知らされてなかった大泉が嘆いた。
「おまさんが一番、麻野に近かったからな。そこだけは情報を伏せざるを得なかったんぜよ、今ならわかってもらえるじゃろ」
「ごめんね、ほんとう、私はだますつもりじゃなかったんだよ……全部龍太が悪い。私はすぐにだって、YSKにもどりたかったのにさ」
みこは、龍太を睨みつけながら語る。
果たしてみこに起こったことは何だったのか。
場面は、みこが銃で撃たれて意識不明の重体との一報が入り龍太と
カオスが二人で大阪の病院に向かった時までさかのぼる。
□ □ □
「龍太さん、これはいったい」
カオスが、みこが緊急手術したという大阪の病院の手術室に踏み込んだ時、その手術室には誰もいなかった。
手術ベッドの上にはみこがいるはずだったが、みこどころか手術がされた後すらなかったのである。
「……見ての通りちゃ。みこは手術などされていない」
「で、でも、民政党の連中に襲撃されたはずでは?」
事態を呑み込めないカオスは、きょろきょろとあたりを見回した。
「全部狂言ぜよ、みこが襲われたと演出しただけのことじゃ、実際には人目のつかないところに避難させとる」
「……なぜ、そんなことを、えっじゃあ、真也も嘘をついたってことですか」
「あまりに、芝居が下手すぎて心配になったけどな。真也に一芝居打ってもらったんぜよ」
普段から抑揚のないしゃべり方をする砂川信也だったが、その砂川は妙に大げさに反応し、自分の状況を説明していた。いかにも普段の砂川ではなかった。
「で、なぜそんなことを」
カオスが聞きたいのは砂川のことではない、この茶番の意図を聞かなければ、みこを死ぬほど心配した時間は何だったのか?
「……裏切りものがいるぜよ」
「裏切者……?」
「みこのホテルの部屋を知ってるのはそんなに多くない。天晴会のメンバーか、それともYSKのプロデューサーの仲本さん位ぜよ」
「……だからって裏切者って、ここに呼んでないってことは麻野さんか大泉さんを疑ってるんですか?話がぶっ飛びすぎてわからないですよ。あの二人がそんなことをするわけないじゃないですか」
「……もちろん、そう思う。だから念のためぜよ。おまさんだって、わしが来るまで麻野を嫌って、天晴会に近づいてなかっちゃろう。おまさんと違う理由でわしにも麻野を近づけない理由ができたんじゃ」
そして、龍太は大泉に語ったのと同じようなことをカオスにも話した。角野が残したメッセージのことである。
なぜ角野の日記には麻野の名前がなかったのか、そして今回のみこ襲撃事件、もしかすると疑いが真実かもしれないと思うには十分すぎると言えた。
「そんな龍太さんの勘だけで、こんな芝居を打つなんて」
全く納得いっていないカオスは、冷たい視線を龍太に送った。
「だから、あくまでこれは保険ぜよ。命が狙われたのは事実、ならばこれ以上疑われないためには、みこが死んだことにするしかない。犯人がだれであれ、死んだ人間をまた襲ったりはせんちゃ。犯人が明らかになるまで、みこには海外で羽でも伸ばしてもらう」
「じゃあ、大泉さんにもこの件は内緒ですか」
「ないとは思うが、大泉が麻野と通じてる可能性もある。それから、出央とアゲハにも伏せてくれ、真実を知るのはわしと真也とカオスだけでいい」
苦渋な表情をしながらも、カオスはうなずいた。
「あっ、でも病院は、ここはどうするんですか。さすがに病院側がこの事実を麻野さんと大泉さんに伏せたままっていうのは無理ですよ」
みこが本当は無事であることをマスコミに伏せることは難しくない。天晴会が手をまわしている病院ならこちらの都合のいい情報を発表してくれるであろう。ところが、麻野相手にそれを隠すことは難しい。
天晴会の病院ならば必ず、麻野に情報が伝わるであろう、それでは意味がない。
「その心配ならば不要、神野みこさんの件は私が管理する、スタッフも信用する人間で固めてある」
そういって、手術室にいるカオスの背後から、一人の男の声がした。カオスが振り返ると、そこにいたのは先ほど手術室の前で出会った中年の男性医師である。
「あ、あなたはいったい?」
カオスが疑問を口にすると、
「わしが見つけ出した、まだ誰も知らない転生者ぜよ」
と龍太が答えた。
「はじめ、そこの龍太さん、つまり坂本さんから話を聞いたときは驚いたよ。まさか前世の記憶を持つのが自分以外にもいるなんてな、どおりで私は子どもの時から医学への理解が早いわけだよ」
男はかけているメガネの位置を直しながら、自分もまた転生者であることを明かす。
「あなたはいったい?」
カオスは同じ疑問をもう一度その医師に向けた。
「俺は
その医師の前世は江戸時代に、医師として活躍し、オランダの医学書「ターヘルアナトミア」を前野良沢らとともに翻訳した男として歴史に残っている杉田玄白であった。
そして高杉勝昭は現世では大阪で開業し、高杉総合病院の院長としてその名を知られている。ツイッターなどを活用し、政治に対しての発言も多く、右翼系医師としてネットなどでは人気を博していた。
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