第11話「時空を超えた誓い」
「……思い出しました、いや、はっきり自覚しました。そうです俺は間違いなく天草四郎です。ずっと、そうじゃないかと思ってた。俺はおかしいやつなんだとずっと思ってました」
「信じていいわ、あなたはきっとまだ転生の経験がなかったのよ。それに昔と違って現代では、転生などないのが常識になってるから、あなたは常識に縛られていたのね」
現代社会で、心の底から生まれ変わりはあるなどと信じてる人間はどれほどいるであろうか。いくら宗教が、輪廻転生をうたってみても、これほど科学の進んだ世界でそれを心から信じれるものは少ないだろう。
大人になるにつれて、そんなものなどなく、死んだら終わりという固定概念は脳にこびりついていく、常識に支配され、そうでないものを受け入れられなくなっていく。
「俺、そうだ思い出しました、子供の時、小学生の時に僕は天草四郎だって親にアピールしまくってた時期あるんです。友達にも先生にも、親は最初冗談だと思って真に受けてなかったんですが、その後心配されて、カウンセリングに連れていかれて、でカウンセリングを受けているうちに俺は、もう自分が天草四郎だなんて思わなくなって、いつの間にか忘れていました」
「でもやはりおまさんは、天草四郎だったわけやが」
「はい、間違いないありません。今になっていろいろ実感がわきます。そして、少し申し訳なく思います。俺たちの行動のせいで日本のキリシタンはより一層肩身が狭くなってしまった……。でもざまあみろって思いもあります、あのにっくき徳川は時間はかかったけど滅びたんですよ。そして島原藩主の松倉も斬首されました、少しは無念がはらせました」
松倉とは島原藩主であり、島原の民衆にかなりきつい徴税を行っていた人物であり、そのせいで島原一揆が始まったといわれている。その後松原は乱を起こさせた責任を問われ斬首されている。
アゲハはこのことをどこかで知っていたのだろう。すべてを思い出した今でこそ、感慨が生まれていた。
「こんな少年の姿じゃが、わしの前は坂本龍馬だったぜよ。坂本龍馬、知っとうが?」
「もちろん、何度も勉強しましたよ……。薩長同盟の立役者、そして海援隊。龍馬がゆくとか読みましたしね、いやあ、ほんとうに龍馬さんですか?すごいなあ」
「ま、証明の方法はないから、信じてもらうしかないが……ちなみにそこのアイドルのみこはわしの妻のおりょうじゃった。しかもその前は卑弥呼だったりする」
アゲハはみこの方に顔を向けた、特に何も言わずみこは微笑みを浮かべた。
「おりょうさん……あぁなんか勝気な方だったんですよね。どおりで、みこちゃんは同世代のアイドルに比べて心が太いというか、なんか19歳とは思えない威厳があると思ってました。すごいメンバーがこのアパートに来たもんですね」
「そして、同じように前世をもつもの、転生をしたものが私たちの仲間にいるわ。その中にはあなたが知ってる人もたぶんいるわ」
今度はみこがアゲハに話を始める。
「転生の仲間ですか……」
「そう……私たちは天晴会とよんでるわ、そのままだけどね。転生をしたものは死んでもまた次の世でも転生するらしいの。その時に集まる場所が天晴会」
「そ、そんな組織が……」
「薩長同盟の裏で結成したぜよ、あの同盟は天晴会ありきのものじゃった。目的は一つ日本を守るため強い日本を作ること、そして、何回転生しても天晴会を維持して日本を支えようとそう決めたぜよ」
「……そして私たちは天草四郎さんにぜひこの天晴会に入ってほしいのです」
みこはじっとアゲハの顔を見つめてそういった。
アイドルの顔に見つめられて、純粋に大学生であるアゲハはドキドキしてしまう。
「……そ、その光栄ですけど、勉強したからわかりますけど、俺なんか二人に比べれば小物ですし、何か能力があるわけでもありませんし、日本の何かの役に立つとはとても思えないです」
アゲハは顔をうつむけてそういった。確かに前世では自分は民衆のカリスマであったが、現世ではさえない男であると痛感しているのだ。
「何をいう、たかが16歳の若造が3万人を従えて、幕府に戦いを挑むなぞ、並の人間ができることじゃないぜよ」
「とんでもない指導力とカリスマ性だと思うわ、私たちは今それを欲してるのよ」
二人の言葉に熱が入る、もちろんアゲハに悪い気はしない。
だが、まだ、アゲハは事態を呑み込めていなかった。
「……俺が指導したというよりは、ほんとう俺は持ち上げられて、指導者になっただけで、すごいのは周りの大人たちだったんです」
「それでもおまさんは、幕府軍を苦しめ続けた、何せ一度は城まで奪うことに成功したのだ。16歳にしてまっこと恐ろしい才能ぜよ、西郷にも勝るとも劣らんかもしれん」
「……確かに戦の指示をしたのは俺です、なんかわかってしまったんですよね、戦中の士気の上げ方とか、戦場での味方のコントロールの仕方とか……」
「ふむ、やもすれば、天草四郎の前にも名のある武人だったのかもしれん。とにかくそういった指導力は、現代の日本には一番求められてるぜよ。是非、天晴会に力を貸してほしい」
そういって、龍太は頭を下げた、少年の体躯では頭を下げてしまうと完全にこたつに隠れてしまい、アゲハからは見ることができなかったが。
「それに、音楽の才能もあるじゃない、あなたの音楽の才能とカリスマ性、指導力があればきっと将来は、日本を支える有望な政治家になれるわ」
「……あ、楽曲提供の話はどうなるんですか? この話がメインならあれは、嘘というか、釣り餌みたいなものだったんですか」
はっと気づいたように声を大きくしてアゲハは言聞いた。楽曲のことは今日のための口実だったとしか思えない、いくら何でも名もなきボカロPに作曲の話が舞い込む話があるわけがない。
「それは別件で真面目なお話よ。ちゃんと音楽を評価して、プロデューサーは作曲をお願いしたいといってるから安心して。わたしもぽこにゃんさんの曲で歌えるの楽しみにしています」
それを聞いて、アゲハはほっとした。確かに自分は天草四郎でであるが、ぽこにゃんとしての自分は自分で大切なのだ、むしろ今はそちらの方がアイデンティティーを感じる。
「……そうですか、素直にうれしいです」
そう言ってアゲハはみこの方を見ながら少し照れた様子を見せる。そこに龍太は質問する。
「天草殿、今の日本を素直にどう思う?平和で素敵か?」
「平和で素敵……、そうですけど。でも、いや、許せない部分が多い。みんな気づいていないだけで、構造は島原の時と変わらない。格差は広がる一方です、俺が経験して分かったけど、実際僕はこのまま生きていけば、ただ搾取されるだけの男だった。
程度の問題で、島原で圧政を受けた農民と今の日本国民は何も変わらない」
それを聞いて龍太は深くうなづいて自らも言葉を語る。
「わしもそう思う、特に上の世代が下の世代に、おこなっている搾取はひどいものぜよ。介護、健康、といった言葉を盾にして、今後さらに重税を課していくんやか?さらには、今の日本は結局、わしが目指した海外と渡り合える強い日本になっとらん。
なんじゃ、拉致被害者とは?あれは取り返さんといけんぜよ」
「……同感です坂本殿、やられっぱなしはあまりにも情けない」
「わしについてこい天草殿、わしが日本を変えるぜよ」
そういった龍太の顔はとても五歳児には見えない精悍な顔つきであった。まるで歴史の教科書で見る龍馬がそのまま乗り移ったかのようである。
それを見て天草四郎改め、
「分かりました……。では、何をしたらいいかいまいち分かりませんが、『天晴会』に喜んで入りたいと思います。よろしくお願いします」
アゲハがそういうと、すかさず龍太はその小さい手を差し出した。アゲハはその手を握り固く手を結んだ。
「よろしくぜよ、天草四郎殿」
「こちらこそ、坂本龍馬さん」
江戸時代の初期と幕末、二つの時期に江戸幕府に立ち向かった二人が時空を超えて
今、文字通り手を取り合ったのだった。
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