第47話 危険人物来襲

放課後を迎えた部室内。

何もすることのない俺は、一足先に自分の定位置に腰を下ろしいつもの要領で読書をしていた。

しかし、文字列をいくら追っても内容が頭に入ることはない。

室内の環境が普段と同じため、問題の要因は俺自身にある。


「……恋人のフリって、どうすればいいんだ……」


本を手にしたまま机に項垂れる。

姫島のためになればと勢いで了承したはいいが、実際行うとなると疑問が次から次へと湧いてくる。

……頼りのグーグル先生も今回は黙りだし。


隣の席に置いたカバンを責めるように軽く睨んでいると、不規則な足音が廊下から聞こえて来た。

その音だけで騒がしさが伝わって来ることに苦笑いを浮かべつつ、姿勢を不自然にならない程度に整えた。

……まあ、舵は姫島に任せるか。


「──こんにちは。……待ちました?」


「いや、さっき来たとこ──」


「へー、文芸部の部室ってこんな広いんだ」


「机も大きいー。エアホッケーとか出来そうー」


「……」


姫島のあとに続いて、三人の女子生徒がズカズカと入室してきた。

最初に入ってきた二人は、まるで初めて博物館にやってきた子供のようにキョロキョロと室内を見回している。

……エアホッケーはゲーセンでやってね。


呆れの表情を隠しきれないでいると、不意に最後の一人──玉枝ほうきと目が合った。

彼女とは一度だけ軽く言葉を交わしたことがあるが、その時と同様の落ち着いた様子でこちらに頭を下げた。

こんな大人しい子でも、彼氏がいる時代なんだな……なんかジジくさいな、俺。


「えーっと……私の彼氏の篠宮先輩、です」


「……どうも」


「ふーん……あ、私は藤本美桜です」


「橋見亜紀ですー」


「……玉枝ほうきです」


一人ずつ、まるでドミノの如く頭を下げていく。

流石は全員彼氏持ちというべきか。

軽さというか……ソフトさというか……口調だけでそれらが伝わってくる。

場所自体はホームなのに、雰囲気がアウェイ……。


「ね、かぐや。いつから付き合ってるの?」


「それ私も聞きたいー」


「え、えっと……」


藤本と橋見に迫られ、姫島が助けてくれと言わんばかりに、視線をこちらに送ってくる。

いや、俺を頼るなよ。

グーグル先生が無理なんだから、俺も無理。

ていうかいきなりボロ出そうなんだけど……。


「し、四月の終わり頃かな……」


何とか立て直した姫島。

だが二人の勢いはまだ衰えていない。

むしろその目は一層輝きを増した。


「え、じゃあゴールデンウィークとかもデートしたの?」


「気になるー」


「あはは……それは──」


「あれ、いつもより人が多い。こんにちは、篠宮……と姫島さん」


扉が開いた。

たったそれだけなのに、室内の空気は一新。

全員の視線もに注がれる。

……ちょっと待って欲しい。あなた、今日部活動するんですか?

突然現れ、笑顔を浮かべる神崎琴音に疑念を込めた視線を精一杯送った。

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