第43話 トップシークレット

休みが明け月曜日がやって来た。

俺は追試が行われた土曜日よりも、多くの生徒が歩く通学路をまるで蛇のように突破し、そのまま上履きに履き替え階段を上っていく。


「……やっぱソファで寝るもんじゃないな。体の節々が超痛え……」


起床してからそこまでの時間は経っていないため、一段一段足をかける度小さな痛みが体を襲ってくる。

すると踊り場に着いたところで、床を叩く軽快なステップ音が後方から徐々に近づいてきた。


「おはよ、篠宮」


「……お前、隠す気薄くなってきてない?」


「ちゃんと周り見たもん。それに篠宮が反応したってことは大丈夫って状況でしょ?」


「俺は最後の砦か……」


いくら周りを確認したとはいえ、いつどこで誰が見聞きしているのかわからない朝の登校時間。

そしてそれを抜きにしたとしても単純に邪魔になることから、ここに残って話す訳にはいかない。

先行する形で踊り場から二階に向かう。


しかし突如鳴った携帯のメール受信音に足を止めたことで、立場は逆転。

すれ違いざまにしたり顔が見えたと思えば、またもや軽快なステップで教室を目指す神崎の背中がどんどん離れていく。

もしかして競争──もとい競走だと勘違いしてらっしゃる?


たまに見せる幼子のような一面に呆れながら、携帯の液晶画面に視線を落とす。


『美玖ちゃんから聞いたけど、体大丈夫? 無理はしないでね。この歳で介護はしたくないから』


ラインの画面に映る文面に手で熱くなった頬を覆う。

──してやられた。

電子状の文字の羅列からでも滲み出ている健気さが俺にそう思わせた。


「……介護は言い過ぎだろ」


視界の端を過ぎていく生徒達の存在を認め、冷静さを取り戻す。

階段を上がってすぐの所で携帯をいじる俺に、奇異なものを見るかのような視線が集まるのも時間の問題。

そう判断した俺は逃げ込むように教室のドアを開けた。


その瞬間教室内の空気が変わる。

それはまるで肌を刺す冬場の風のように、冷たく受け入れ難い。

立ち尽くす俺を前に、教室をひそひそ話が包んでいく。


実際こんなことは珍しくない。

話が盛り上がっている時に、ドアが開いたりすれば注意はそっちに向く。

ホームルーム前に担任の先生が訪れた際などはしょっちゅうだ。

そしてその後、決まってすぐに元の空気に戻る……はずなのだ。


いつもとは何かが違うことを、向けられるのを嫌ったような視線が節々に伝えてくる。

別にそこに留まれと命令された訳でもないのに、普段と違う状況に置かれたことによりどんな行動をとればいいのかわからなくなっていた。


「ねえ、篠宮。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


凛……じゃなかった、舞浜がこちらに神崎を伴い歩み寄ってくる。

舞浜の隣に佇む神崎は厄介なことになったと言わんばかりに、若干深刻そうな表情を浮かべている。

……もしや、バレたのか? 俺たちの関係が。


どうやら話は舞浜に一任してあるらしく、神崎が口を開く気配がない。

それがさらに俺の中に焦りを生み出す。

何か、何か言い訳を考えないと……!


「──あんた、一年の姫島と付き合ってんの?」


「人はよく勘違いする生き物って言われてる…………っては?」


俺の前に携帯の画面を見せつける舞浜。

そこには姫島が俺の腕を組んで歩いている姿がバッチリと写っていた。

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