勇者と魔王と僕
緋緋色兼人
第1話 プロローグ
この星の名前はヨアトル。
女神ヨアトルはこの世界の唯一神だ。
悠久なる時を過ごしていた彼女は、あるとき暇を持て余して星を作ったという。
そして――
その星の朝と夜を知らせるために太陽と月を創造する。
命を育む土壌として、海と大地と森を創り上げた。
その星の命あるものとして動物や植物を、さらに住人として知的生命体を創る。
知的生命体の成長を促すために魔物を、そして試練のために幻獣を創造した。
星を創り終えた女神ヨアトルは、自身の名前をその星に名付けたのだ。
彼女が創った知的生命体は6種類である。
それらは人族、獣人族、エルフ族、龍人族、ドワーフ族、魔族といい、それぞれの特徴は――
【人族】優れた繁殖力と、全てにおいて平均的な適性を持つ。
【獣人族】平均以上の身体能力適正を持ち、その中でも特に素早さと腕力の適正は優れている。
【エルフ族】魔法の適正は平均以上であり、優れた風魔法の適正を持つ。
【龍人族】平均以上の身体能力適正を持っており、火魔法の適正は優れている。
【ドワーフ族】身体能力適正は平均的であり、火魔法の適性は平均以下。そして、頑強さと器用さには優れた適性を持つ。
【魔族】魔法の適性は平均以上であり、優れた土魔法と水魔法の適正を持っている。
知的生命体は魔物や幻獣の命を奪うと成長するように女神ヨアトルは設計した。
そのため、彼女はそれらの者のさらなる成長を促すべく、魔物の巣窟であるダンジョンを創り上げる。
そしてそこに彼らが来訪したくなるように、女神ヨアトルはダンジョンの奥にさまざまなお宝を配置した。
また、彼女は知的生命体の成長の度合いを表す指標としての役割を持つ位階を創りだす。
そのため、この世界には位階と呼ばれるものがある。
位階とは1から10までの段階がある。
それは知的生命体の身体と魔法の適性において、器の大きさを表すものだ。
5歳の誕生日に実施される『洗礼の儀』を終えるまでは知的生命体に位階は付与されていない。
しかし、それを終えると同時に、知的生命体には1位階が付与される。
この通り位階とは、この世界の誰もが5歳の誕生日に手に入れられるものである。
位階とは別にさらに違うものも彼女は創りだす。
それはギフトというものである。
知的生命体たちに個体差を付けたいと、彼女は考えたと伝えられている。
そのため5歳まで生きていた者には、女神ヨアトルが各個人に一つだけギフトをプレゼントしている。
そしてそれは才能とも呼ばれるものであった。
ギフトが『片手剣』であれば、片手剣の扱いが上手になり戦闘に役立つだろう。
さまざまな場面で役に立つと言われている『火魔法』のギフトを所持していれば、火魔法の扱いが上手になる。
色々と目利きが利くようになり、お金儲けが上手になると言われているギフトは『商人』だ。
過去に優れた統率を発揮したと言われているのは『指導者』のギフト保持者である。彼らは人々を目的へ導くのが上手だったという。
このように、ギフトはこの世界の誰もが5歳の誕生日に手に入れられるものである。
ただし皆が皆、自分が望むようなギフトを手に入れられるわけではない。
ギフトの研究は昔からされていたが、その付与に法則性があるのかどうかというのは未だに解明されていない。
君は――女神ヨアトル様から、どのようなギフトを与えられるのだろうか?
「はーい、今日はここまでね。といっても、この絵本は短いからここで終わりなんだけどね?」
僕はママの膝の上で、絵本を読んでもらっていた。とうとう、明日は僕の5歳の誕生日だなー。
5歳の誕生日を、洗礼の日っていうんだったかなぁ。そして、洗礼の日にするのが、洗礼の儀っていうんだね。
「何回読んでもらっても『ヨアトルの始まりとギフト』は面白いねー、僕も明日の誕生日には、ヨアトル様から、ギフトが貰えるんだよね?」
「ええ、そうよ? アランちゃんは、やっぱり楽しみなのかな?」
「うんー、凄い楽しみだなー、ママは僕がどんなギフトだと嬉しいの?」
「ママはどんなギフトでもいいと思っているわ。アランちゃんがこれからも無事に、そして優しく育ってくれるのが一番かな?」
ママとパパのギフトは、何なんだろう? 前に聞いたときは、僕もギフトをもらえるようになったら教えてくれるって言ってたから、今なら教えてくれるかな?
まだギフトを貰ってないけど、でも明日だしなー。
僕は首を傾げながら、ママに聞いてみる。
「ママー、ママとパパのギフトって何? もう教えてもらえるの?」
ママは少しだけ考える素振りを見せてから、僕に口を開く。
「そうね、明日が洗礼の日だから、もういいわね。ママは『家事』よー。これでパパと結婚することができたんだからー」
『家事』っていうギフトがあると、パパと結婚できるの?
僕も将来結婚するときがあれば、家事っていうギフトがある人がいいのかな?
なーんて、結婚とかよくわからないや。
「パパは『正直者』よ。あの人はねー、正直者過ぎて困っちゃうことも多いけど。でも、そこが魅力的なのよねぇ」
『正直者』っていうのは魅力的なんだねー。そして、ママはパパのことが、大好きなんだなぁ。
僕もママとパパのことは、大好きだけど!
ギフトかぁ、明日が楽しみだなー。
位階っていうのは魔物を倒さないと増えないみたいだから、とりあえず今はいいかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます