第47話 圧倒的能力
僕が混乱している最中、ユリアさんがさらに口を開いた。
「前にも言ったけど、キャサリンにはジュメールの冒険者学校に転入して来て欲しいのよ? あなたは未だにそれを断っているけど……そろそろ考え直す気はないのかしら? そうしたら、私たちは一緒にいられる機会が断然増えると思わない?」
キャサリンが転校? 冒険者学校では稀に転校する生徒がいると聞いてるけど……
彼女は転校するの? その瞬間、先ほど感じた感情が引き裂かれる気がした。
僕は……僕はこれからもキャサリンと一緒にパーティーを組んでいたい! フローラやゼベクトとも一緒にいたいんだ!
とにかくこの話を一度中断させないとダメだ。
それからキャサリンには色々と聞かないと……でも、そこまで突っ込んだことを聞いていいのかな?
そこまで考えて僕は頭を振る。聞いていいのかなじゃなくて、聞くんだ!
僕は仲間を大事にしたいし、キャサリンのことを仲間と思っている! それなら……彼女の手を離さないためにも聞く必要がある。
僕はそう決意して、一歩前へと足を進める。そして、ユリアさんに視線を向けて口を開く。
「すみませんが、ここでそういう話をするのはどうかと思います。ユリアさんでしたか? いくらユーリオ君のパーティーメンバー候補を探しに来たとはいえ――そして、王都の学校からの特別ゲストとして来たとはいえ――この場でそんな個人的な話をするのは間違ってませんか?」
僕がそう言うと、ユリアさんはきつめの目をさらに吊り上げて僕を睨んできた。
「はぁ、なーに? あなたは。全くこんなレベルの低い対抗戦で優勝したからって、随分と調子に乗ってるじゃない? あなた如きが私に意見するなんて100年早いわよ。雑魚は私の半径1メートル以内に近付かないで」
「調子に乗ってるわけではないですよ? グラント先生、こういうのは学校的にどうなんですか?」
そう先生に問いかけると、彼は少し困ったような表情をしながら口を開いた。
「うーん。そう言われてもなぁ。知っての通り、もともと冒険者学校は冒険者ギルドの下部組織だ。そして、学校で有望な者には特別措置を与えることもある。まぁ、その基準は相当高いけどな。その点、ユーリオ君は今まで誰も為しえなかった快挙を達成している。特別措置とは将来有望な者に対する支援だ。そして今回のことはその一環だ。いいパーティーメンバーがいるかどうか、各地の学校を見学できるという権利だな」
確か……1年生で冒険者学校専用ダンジョンを踏破したって言ってたか。
そもそもの話、そのダンジョンは十月にならないと1年生には入ることも許されないはず。ということは、彼はそれから半年以内にそこを踏破したってことになる。
当然まだそこには行ったことがないけど、そこは結構強い魔物がいると聞く。さらに3年Sクラスの1パーティーが、数年に1回辛うじてクリアできるかできない程度の難易度と先生が言っていた。
そこをソロでクリアか……
「おいおい! お前は雑魚のくせにママに意見してんじゃねーよ!」
「まぁまぁ、ユーリオ君も落ち着いて。アラン、良く聞け。さっき言った通りに、どうしても彼のことは特別扱いせざるを得ないんだ。これは冒険者ギルド上層部の意向でもあるからな。どうせもう対抗戦は終わってるんだから、この場で多少個人的な話をしようと、そこまで気にしないというのが俺の――いや、この学校の見解だ」
「ほらよ、聞いたか? 雑魚のくせに粋がってるからダメなんだよ。冒険者なんて最終的には力が全てだ。力のない者は――どこかの誰かさんみたいに追い出されるのさ」
「ユーリオ!」
「おっと、口が滑った。ごめんよ、ママ」
それは……もしかして……ヒュージさんのことを言っているのか?
そう考えただけで――僕の感情はマグマのように熱く熱く燃え上がっていく。
はらわたが煮えくりかえるというのは、このことをいうのだろう。しかし、ここで僕が何かをするわけにもいかない。
ただただ、ユーリオを睨みつけるだけだ。こいつのように特別扱いされるような力も実績も――僕にはないから。
「はっ、雑魚がいっちょ前に睨んできてるぜ。おー、怖い怖い。はははは」
「グラント先生、ユーリオも確かに少し口が悪いかもしれないけど、それでもこうやって睨んでくるなんて、随分と躾がなっていないわね」
「まぁ、こいつもこの学校では強い方だからなぁ。調子に乗ってるところがあるんだろう。上には上がいると知らずにな。こいつの非礼は俺が詫びるから、許してやってくれないか?」
グラント先生はそう言って、二人に軽く頭を下げた。
確かに睨んでいるけど、もともとお前らが……
こっちは最初に礼儀正しく話したじゃないか。礼儀を弁えていなかったのはお前らだろ! そんな風に言えたらどれだけ楽か。
でも、とりあえず話は逸らせたからこれでいいかな? ヒュージさんにした仕打ちは許せないけど、今の僕がどうこうできる問題でもない。
「うーん、そうねぇ。まぁ、あんまり弱者をイジメてもしょうがないわね。ただ――あんまり調子に乗らないようにユーリオ、わからせてあげなさい」
「おいおい、手荒な真似は止めてくれよ? さすがにそれはマズいし、学校としても看過できんぞ」
「大丈夫だよー。痛い思いはさせないから。ただ実力の差を、身の程をわからせてあげるだけさ。そう――」
そこまでユーリオが言ったと思ったら――
「俺がな」
次に聞こえてきたのはそんな言葉だった。しかも僕の耳元で……
全く見えなかった……動く予兆さえ感じられなかったし、スキルを使ったのか、使わなかったのかさえわからない。いったい今何が起きたんだ?
「おーおー、固まっちまったぜ? どうせ、今の俺の動きが見えなかったんだろ? あとは、そうだなぁ。見当違いのことを考えていると困るから教えてやるが、今の動きはスキルなんて使ってねーぞ。ただ純粋にほんの少し速く動いただけだ」
奴はそう言い終わると同時に僕の耳に触れてきた。すぐさま僕は首を横に振ったが――僕の視界に入ったのは、観客席で驚きに満ちた顔をしている生徒たちだった。
「ぷっ、今度はあっち向いてる。ははは、お前は本当に面白いなぁ。何一人でやってるんだ?」
その声に反応して僕が再び正面を向くと、ユーリオが気だるそうに元の位置に立っていた。
これが『勇者』ギフト保持者の実力の一端? あれで少し速く動いただけ?
「はは」
そんな感情のこもっていない乾いた笑いが、僕の口から漏れ出す。
速さだけが全てじゃないのはわかる。それでもユーリオは……
こいつは全く上限が見えないし、自分との差が全くわからない。こんなのを相手に僕は、僕は……お仕置きしてやるなんて、軽々しくヒュージさんに言ったのか?
「ははは」
すでに僕は乾いた笑いしか出なくなっていた。
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