第46話 さまざまな想いと邂逅
少しの間、ぼんやりとしていたが……
敗戦した彼らの様子を見ていると、心がざわめいていくのを感じた。
彼らは手と手を取り合って、悔し涙を流している。その光景を見ていると、徐々に……僕が本当に望んでいたことがわかってきた。
そうだ、そうなんだ……僕は――彼らに傷付けられた仕返しをしたかったんじゃない。
5歳まで一緒に仲良く遊んでいた彼らと……本当は仲直りしたかったし、あの後も一緒に遊んでいたかったんだ。
それを理解すると同時に、僕の頬を一滴の水滴が伝って零れ落ちた。
でも、これを理解するのはもう遅すぎたのだろう。手を取り合っている彼らは、悔し涙を流しながらも憎々し気な目で僕を睨んできている。
そもそも理解していたとしても、彼らが取り合ってくれたか、僕を受け入れてくれたのかは……また別の話だ。
「はぁ」
「試合終了だ! 優勝は1年のSクラスだ! これで全クラス対抗戦を終了とする!」
知らず知らずのうちに漏れた僕のため息は、グラント先生の声にかき消された。
ゼベクト、フローラ、キャサリンはどこか心配そうな目で僕を見つめてきていた。
そうだ、あの四人とはもう決別してしまっているが、僕にもこうやって新しい友達が……仲間が出来たじゃないか。
そんな彼らに僕は精一杯の微笑みを向ける。
すると、なぜか顔を赤くして女の子二人が下を向いた。そして、ゼベクトに至っては舌打ちした。
あれ? 僕たち友達だよね? 仲間だよね? 僕の扱い酷くない!? そんな風に内心思ったけど、せっかく優勝したんだし、今これを言ってもしょうがないよなと思い、口には出さない。
「まぁ、なんにしても勝てて良かったよね。皆のお陰だよ。僕とパーティーを組んでくれてありがとう」
そう言って僕は三人に頭を下げた。
「な、なによ! それは私たちのセリフよ! そうよね? 二人とも」
「そうよ。キャサリンの言う通りよ。アラン君がいたからこそ、こうやって優勝できたんだわ」
「まぁ、そうだな。半分は俺のお陰とはいえ、アランも結構役に立ってたぜ? いてっ」
ゼベクトがそう言ったと同時に、二人が彼の頭にゲンコツしていた。
相変わらず面白いね、この三人は。はぁ、僕もあんまり暗く考えないようにしよう。
「よし。それじゃあここらで今日の特別ゲストを紹介するぞ! なんとなんとSランク冒険者のユリアさんと、その息子のユーリオ君だ! 彼は王都ジュメールにある冒険者学校に通っている。ユーリオ君は現在三年生だが、一年生の時に――なんと冒険者学校専用ダンジョンをソロで踏破している! これは今まで誰も為しえなかった快挙だ!」
今のグラント先生のセリフを聞いて僕は頭が混乱した。
え? ユーリオ君? ユリアさん? 彼らがここに来ている? なぜ? そんな僕の考えはまるで関係ないとばかりに、さらに先生の言葉が聞こえてくる。
「二人ともここ、第一闘技台に来てくれ。ちなみにユーリオ君は今年卒業するとすぐにCランク冒険者になり、その後すぐにでも、Sランク冒険者への道を駆け上っていくと言われている逸材だ」
僕が混乱していると、視界には僕以上に混乱している人物が目に入った。
その人物は――キャサリンだった。
彼女は明らかに狼狽しており、さらに隠れるはずがないのに、フローラの後ろに身を隠そうとしていた。
そんな様子の彼女を、フローラもゼベクトも訝しげに見ていたが――その時、僕の視界に二人の人物が入ってきた。
一人は僕より背が高く、肉付も少しいいだろう。綺麗なブロンドヘアをしていて、そこら辺の女の子が放っておかないような顔をしている。
その横に連れ添って歩いているのは、男の子と同じ髪の色をした女性だった。あれは……綺麗な人だな。
ただ、少し怖そうなイメージがある。
あの二人が……ヒュージさんを追い出したのか。あの男の子がユーリオ君で、あっちの女の人がユリアさん……
そして、その二人はそのままグラント先生の側まで歩いていった。
「二人とも見学していてどうだった?」
「んー、そうねぇ。正直に――忌憚のない意見を言っていいのかしら?」
「ああ。そうしてくれ。その方が生徒のためになる」
グラント先生とユリアさんの間で、そんなやり取りが行われていた。
「それじゃあ、言うわね。全くダメダメね。決勝戦なんてあれで決勝戦なの? まぁ、それもこれも私がユーリオを見て、知ってしまっているからだとは思うけど……それでも、もっと強い子がいて欲しかったわねぇ」
そんな意見を言ったユリアさんに続いて、ユーリオ君が口を開く。
「本当だ! 全くさぁ、せっかく俺がパーティーメンバー候補を探しに来てやったっていうのにねぇ。もっと頑張ってくれよ、君たちはさ。これならジュメールの学校の方がまだまだマシなのが沢山いるぜ」
「ははは、これはこれは手厳しい意見だ。だが、それも致し方ないか。ユーリオ君ほどの実力者ならな。それはそうと、やはり優勝したパーティーもダメだったかな?」
「はぁ、今のを聞いて察して欲しかったわね。でも、あの魔族の子は気になるわね。あまり本気をだしていなかったようだけど……」
魔族……フローラのことか。
「魔族ねぇ。俺はいずれ……っと、これはまだ言えないか。とにかく魔族のことを俺は大っ嫌いなんだよねぇ。なんと言っても、『魔王』ギフト所持者は絶対に魔族から現れるからな。今まで犠牲になった人のことを考えるとね」
ユーリオ君がそう言うと、彼はにやりとこちらを見て笑った。
――その時、彼は何かに気が付いたようで驚きの表情を浮かべていた。そして、彼はユリアさんに何かを耳打ちしている。
「あらあら、そこにいるのはキャサリンじゃない。正直言うと試合はある程度は見ていたけど、私たちの眼鏡に適う実力者がいなかったから、顔までは良く見ていなかったのよ。気が付くのが遅れてごめんね? そういえば試合に出るって聞いてたわ」
ユリアさんの言葉を聞いたキャサリンは、明らかに嫌な顔をしていた。
「キャサリンはまだまだだな。もっともっと鍛錬しないダメだぞ! そうしないと、せっかく決まっている俺とのパーティーもなくなるかもしれないぜ? なんてな。君は可愛いからそんなことにはしないさ。せいぜい学校を卒業するまでには――強くなって欲しいものだ」
「おお、キャサリンはすでにユーリオ君のパーティーに決まっていたのか!」
その言葉を聞いた僕は焦ってキャサリンの方に視線をやると、彼女は唇をかんで手を握りしめていた。
さらに僕の視界に映ったのは、憤りの目でユーリオ君を睨んでいるフローラだった。
僕とゼベクトは状況に全くついていけずに、ただただ混乱していた。
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