第22話 ヒュージによるギフト『努力』の考察

 確か昨日言われたことは――


◇◇◇


「とうとう入学試験の日が明日に迫ったな。アランなら絶対に受かる! ただ、前に言ったことをちゃんと覚えてるか?」


 前にってどれだろう? この人には沢山の事を教えてもらってたから、どれかわからないなぁ。

 そんな気持ちで僕が首を傾げていると、ヒュージさんは呆れたような顔をした。


「まったく、スキルのことだよ。スキル。その考察だ」


「ああ、スキルのことね。覚えてるよ」


 最初からスキルのことって言ってよ! 『前に言ったこと』だけでわかるわけないでしょ!

 内心プンプンしている僕は、それを顔に出さないように平静を装う。

 あれ? こうやってると、いつか『ポーカーフェイス』ってスキル覚えられるかも? そういうスキルがあるって聞いたことがある。

 今の話題と関係ないことを考えていると、そんなの知らないとばかりに彼は口を開いた。


「ならいいんだ。一応復習のために言ってみろ。冒険者学校に入ったらそこが重要だからな」


「はい。ギフト『努力』に対しての考察結果として、まず覚えられるスキルの数に上限がない」


「よし、次だ」


「ええと、『努力』は身体能力や魔法関係の適性上限がなく、鍛えることによってどこまでも強くなれる」


「うんうん。その調子だ。次だ」


 首を縦に振っているヒュージさんは、得意気な顔をしている。

 確かに、今までの手ごたえでは彼の考察は当たってるからなぁ。


「『努力』は取得しようと意識しているスキルしか取得できない。無意識下では取得できない。これは僕が<魔力操作>のスキルを覚えたときに、ヒュージさんが確信したことだったよね」


「ああ、そうだ。あのときにわかったことだ。アランは昔から瞑想をしてた。だから無意識のうちに取得できると仮定した場合は、今までの練習時間を考えると<ウェポンブレイク>より先に<魔力操作>を覚えていないと変だったというわけだ。そんな経緯もあって俺は閃いたのさ! <魔力操作>を取得するという意思を持って瞑想してみろと伝えたら正にビンゴだった」


 この人はどんどん調子に乗ってきている。でもそんな彼に構わずに、僕は言葉を続ける。


「次は、『努力』の効果で取得したスキルは成長していく。<三段斬り>の斬る回数を増やそうとしていると<四段斬り>や<五段斬り>になったり、<魔力操作>なども成長する。<魔力操作>などの適性上限はまだわからないけど。DとかCとかのね」


「うんうん。それらの下限はわかったんだけどな。お前が最初に覚えたときはEだったからな。ただ――噂では過去の『大魔導士』ギフト所持者が<魔法威力アップ>というスキルを持っていたらしく、その人物のスキルに<魔法威力アップS>ってのがあったみたいだから、少なくともSはあると思う」


「『努力』は成長上限がないだろうから、Sの後どうなるか……だったよね。そこで止まるのかどうか」


「そうだな。よし、次だ」


 ん? まだあったっけ? もうないと思うんだけど。

 僕が「うーん、うーん」って唸っていると、ヒュージさんが言葉を重ねてくる。


「ったくしょうがねーな。アクティブスキルを見る機会が少なくて困ってるから、なんとかそれを新しく覚えていくためにも、これからは冒険者学校でとにかく他の生徒のアクティブスキルを見て、そのスキルの動きと効果を予想して習得していかないと、だろ? まぁ、動きや効果がわからないスキルもあるけどな」


「ああ。そうだった! 観察が大事ってやつだったね」


「そうだ。そして、そのときには<コンセントレーション>が役に立つだろう。そのスキルは<精神集中>というスキルが持つ効果の集中力を高める効果だけではなく、アランが何かスキルを取得しようとしたときには、スキル習得時間が短くなるってのが、その後の経過でわかってきた。<精神集中>を習得しようとした結果として、おそらくそれの上位スキルと思われる<コンセントレーション>を得ることができたのは僥倖だった。まぁ、『努力』にはもしかしたら、他にも何かあるかもしれないが、今のところわかっているのはこれくらいだな」


◇◇◇


 昨日言われたことを思いだした僕は、再度頭の片隅に置いておく。

 それにしても……うーん、本当に人がいっぱいいるなぁ。

 もし村から直接ここに来ていたら、びっくりし過ぎてひっくり返っていたかもしれない。

 おっ、あそこに『試験会場はこちらへ→』って書いてある。

 僕は案内板にしたがって試験会場を目指す。

 それにしたがって歩いて行くと、少しも迷うことなく試験会場に到着した。

 冒険者学校が凄く大きくて、試験会場に来るまでの間に迷子にならないか心配になってたけど杞憂だったかな。

 それにしても、校内はわからないけど、校外にそこまで珍しい物はなかった。

 これだけ大きい建物だと校外にも何か珍しい物があるかな? って思ってた分期待ハズレだった。

 そんな考えを頭から追い出した僕は、試験会場の様子を窺う。


 試験会場は四角くて低めの広い台が所々にあったり、何か的のような物が置いてあったりして、特に何もない広場だ。

 あの四角くて広い台は模擬戦をする場所で、闘技台って呼ぶってヒュージさんに教えてもらっている。

 高さは30センチくらいか。あっ、あっちに一箇所だけ闘技台より少し高い台があるね。

 あれは高さ1メートルはあるかな? 広さ的には狭いからあそこに乗って誰かが話すとかなのかもね。


 施設関係の観察を終えた僕は、次にここに来ている人たちに視線を移る。

 ぱっと見ただけでも、300人はいるかもしれない。

 これ……受験生の数だけでも、僕が住んでいた村の人口より多いんじゃないか?

 僕がきょろきょろと周りを見渡していると、茶色い髪で茶色の髭を生やした人相があまり良くないおじさんが、一箇所だけあった高い台の上に上がっていくのが見えた。

 あのおじさんは顔に傷もあるし、身体もなかなかごつい。だからなのかどこか怖そうなイメージだ。

 

「おらー! 静かにしろよ!」


 そのおじさんの怒声で、試験会場は一気に静寂が広がっていく。


「よーし。静かになったな。俺の名前はグラントだ。今日の試験の試験官長を務めることになる。よろしくな! では、これからピューピル冒険者学校の試験を始める! 全員知ってるとは思うが、この中から合格するのは100人だ! 今日集まっているのは320人とかなりの数だ。ここにいる中から220人が落ちることになる! だが、落ちても諦めるのは早いぞ! 今は4月だが、これから毎月1回は追加の募集がある。まぁ、その時の定員は10人前後と少ないがな。これは冒険者学校に入ってから辞める奴がいたり、先生の言うことを聞かないでダンジョンで暴走して死ぬ奴が毎年一定人数いるためだ」


 先生の言うことを聞かないで、ダンジョンで無理をして死ぬ子もいるのか。僕はそんなことがないようにしないとね!

 仮に僕が死んだら、ママやパパだけでなくヒュージさんも悲しむ。

 そんな風に考えている僕は、突如脇腹に鈍い痛みを感じる。

 なんだろう? と思って横を向くと――そこにはこの学校に来るときに見かけた可愛い子がいた。

 そして、先ほど感じた痛みは、その女の子が僕の脇腹をつねっていたから感じたものだった。


「ちょっと、あんた! よくもさっきは置いていったわね? あなたもここに来るのなら一緒に連れて来てくれても良かったでしょ?」


「えー、そんなこと言われたって、君がここに来ることなんて知らなかったし。僕は僕でこうやって試験に来る用事があったから忙しかったんだよ?」


 女の子にそう言い返していると、僕の声が思ったよりも大きかったようで静かな試験会場に僕の声が響き渡る。


「おらー! そこの赤い髪した坊主! 俺が今話してるってのに、いい度胸してるじゃねーか! よし! お前から試験をしてやるか」


 グラントさんは僕を指差して怒鳴ってきた。その声は大きなものであり、彼の怒声が試験会場に響き渡った。

 僕が頬を引き攣せながら女の子を睨んだ。そうしてる間にもグラントさんの言葉はまだ続くようで、彼の声が聞こえてきたので、再び彼の方に視線をやる。


「大雑把に試験内容を説明すると、その辺に何個かある闘技台の上で模擬戦をするのと、的がある場所に行って、そこで的に向かって魔法を撃ち込んでもらう。それらを試験官が見て合否を決めることになる! これは先に受けた方が合格率が高いとかはねーぞ。一応定員は100人って言っているが、100人に満たない年もあれば、100人を超える年もあるからな。あと言い残したことは、と……ああ、3日後に学校で合格発表してあるから、自分たちで見に来いよ!」


 そこまで言うと、彼は台を降りて僕の側に足早に寄ってきた。

 僕はため息をつき、視線を横に向けた。しかし、そこに女の子はすでにいなくなっていた。

 そして、僕の視界の端に映ったのは――自分は関係ないとばかりにこっそり逃げていく女の子の後ろ姿だった。

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