第23話 試験開始
台を降りたグラントさんは一直線に僕の前までやって来た。
彼はすぐに僕の腕を無造作に掴み、ぐいぐいとそれを引っ張りながらそのまま歩きだす。
うーん、腕をそんな風に掴まれなくても歩けるんだけど! って言ったらまた怒られちゃうかな?
しょうがないので、彼に身を任せてそのまま連行される形で歩き続ける。
「よーし、そこの闘技台の上でやるぞ」
グラントさんがそう言って、一つの闘技台を指差した。
「対戦相手は、あそこにいる先生で、彼が試験官をする。オリガン先生頼みますよ」
「はい。わかりました」
オリガン先生と言われた人を見ると、ヒュージさんと同じくらいに屈強な身体をしている。
ここはごつい人しかいないのかな? グラントさんもごついし。
でも、グラントさんやヒュージさんは顔もごつめだけど、オリガン先生は顔は端正な顔立ちだと思う。
銀色の輝く髪も、その髪形も短くて格好いい。
ただ、あの怪しく光っている茶色の瞳は受け付けない。なんか獲物を狙う目みたいな印象を受ける。
例えるなら、獰猛な魔物や肉食動物みたいな感じか。
僕がそうやって先生を分析していると、グラントさんに小突かれた。
「おら! 早くいけよ」
さっきからこの人は横暴だなぁ。腕を掴んで連行したり、こうやって小突いてきたり。
少しばかりの反抗心を持った僕は、一瞬グラントさんを睨んでから闘技台へと上がった。
そこへ上がると、オリガン先生が柔らかな表情で僕に声をかけてくる。
「君の名前はなんていうんだ?」
「僕はアランですね」
「そうか。アラン、そこの脇にある武器箱から好きな武器を取ってこい。全部木製だから大怪我をすることはないだろう」
彼はそう口にすると、闘技台の端にある箱を指差した。指し示された箱の方に僕は近付いていく。
んー、剣か槍かなぁ。まぁ、この二つはメジャーな武器だからあると思う。
そして僕が箱を覗くと、さまざまな武器があった。これだけ色々あれば十分か。
そう判断した僕は、その中を漁り始める。
ええと、ハンマーに大小の斧に、あとは一応弓もあるのか。まぁ、弓は使わないけど。
これは拳にはめて使う? ヒュージさんがクロー系って言ってた物かな。
これはメイスだ。おっ、槍があった。
あとは……剣関係はこれだな。短い物は短剣だ。片手剣もあるし、こっちの剣は大きいな。両手で持つ大剣かな?
さてさて、どれにするかなぁ?
剣のスキルなら短剣、片手剣、大剣のどれでも使えるから……せっかくの機会だし大剣を使ってみよう!
そう決断した僕は、大剣を選んでオリガン先生に向き合った。
「よーし。俺が合図をしてやる。この模擬戦が終わったら、他の奴らも一気に他の闘技台も使ってやるぞー。では、始め!」
グラントさんの開始の合図とともに、オリガン先生は持っていた大斧を両手で構えた。
「ふぅー」
僕は一度深呼吸をした。ヒュージさん以外と模擬戦をするのは初めてだから、少し緊張しているかもしれない。
自分の手足の感触を確かめながら、僕は剣を握る力を少し緩める。
緊張で強く握り過ぎていたな。よし、これくらいだ。
大剣を両手で構えた僕は、試験官に向かっていく。彼は軽々と大斧を振り上げて、僕へ斬りかかってきた。
それを大剣で上手くいなして、オリガン先生の死角へと入り込もうと足を動かす。
しかし、僕が移動したときにはもう試験官は僕に向き直っており、死角になっていなかった。
こう言っちゃなんだけど、この人はヒュージさんよりも強いな。
死角からの攻撃にはならなかったが、僕は思いっきり大剣で殴るように斬りつける。
その攻撃を辛うじて斧で防御したオリガン先生は、その威力に負けて2メートルほど後退りした。
「ふむ。今の年齢でその強さか。なかなかいいじゃないか。さてさて膂力は見せてもらった。次は速さか」
彼はそう口に出すと、先ほどより素早い動きで僕に迫ってきた。
大斧での攻撃を僕は軽く大剣で凌ぎながら、オリガン先生に隙ができるのを待っていた。
しばらくその攻撃を防いでいると、彼の態勢が一瞬崩れた。
この機を逃すことなく、僕はオリガン先生の背後へと回り込む。
そして、背後から脳天目掛けて大剣を一閃したが――二人の武器が砕け散る。
「ふむ。アラン、相当やるな。これまでに相当良い鍛錬を積んできているのが見てとれる。正直驚きだ。今の攻防は俺がわざと隙を見せてからカウンターをしようとしたのだが、それに気が付いたか?」
彼はそう僕に言葉を投げかけてきた。
「いえ」
あれは完全な隙だと思った。
「その辺の洞察力はまだまだか。あの時、お前のスピードが想定以上だったために、カウンターのタイミングがずれて失敗したというわけだ。その結果がこれだな」
オリガン先生はそう言うと、ぽっきりと折れてしまって根元だけになっている大斧を見せてきた。
それと同じようになってしまった大剣の根元が僕の手にも残っている。
うーん、彼がアクティブスキルを使っていなさそうだったから、僕も使わなかったけど、武器が壊れちゃうとはなぁ。
「よーし! そこまでだ! アラン! 次は魔法の方へ行ってこい」
グラントさんに指示された僕は、的がある方へと移動し始める。そしていざ闘技台を降りようとして気が付いた。
さっきまで集中してて周りをあまり気にしてなかったけど、試験を受けに来ているほとんどの人が口を開けて、ぽかーん、としているということに。
一瞬なんでこうなってるんだろう? と思ったが、次の瞬間には「わー! すげー!」「めちゃ強くねーか。あいつ!」「先生も強い!」などなど、さまざまな声が聞こえてきた。
5歳からずっとヒュージさんと鍛錬してきた僕は、同年代の中に入るとどの程度の強さなのか今までわからなかった。
でもこの反応をみると、きっと同年代なら強い方なんだろう。
僕はBランク冒険者のあの人より強くなっている。とはいっても、それは総合的な強さだ。
でも慢心はダメだってヒュージさんに口を酸っぱくするほど言われてるから、絶対に慢心はしない!
それはそれとして、いつになったらこの騒ぎは収まるんだろう?
「おら! お前らうるせーぞ! いい加減に静かにしろ! 失格にするぞ!」
毎年試験があるし、グラントさんはこういうことに慣れているのだろう。彼はあっという間にこの場を静かにしてみせた。
よし、次は魔法だ。僕が的の方に移動すると、そこにも先生ぽい人がいた。
「魔法試験第一号が君だね。私はカローラっ名前よ。この学校で先生をしているわ。受かったらよろしくね」
そう言ったカローラ先生を見てみると、とても綺麗な人で腰まである長くて綺麗な青髪に、少し鋭い目つきをした赤い目。
そして……残念ながらおっぱい攻撃ができなさそうな胸をしていた。
そんな僕の視線に気が付いたのか、カローラ先生の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「あ、あ、あなた! どこを見てるの! そんな目をしないでちょうだい! 私は今に大きくなってみせるんだから!」
彼女はいきなり怒鳴ってきた。そんなこと僕に言われても……それにあの攻撃ができなさそうって思っただけじゃん!
あっ、ヒュージさんと同じように痛くはできるのかな? でもなぁ、あれはおっぱい攻撃っていうより胸板攻撃だ。
それはいいとして、とりあえずここは軽く流した方がいいよね。
「あ、はい。頑張ってくださいね。先生」
僕がそう言うと、なぜか先生は項垂れた。
「うぅ……もういいわ……早く試験をしちゃってよ。あそこにある的に向かって魔法をぶつけるだけでいいわ。的に当たった後、魔法が消えるように魔法道具がセットされているから気にしないで。『大魔導士』とかが撃ったら別ですけど。君はそうじゃないわよね?」
「違います」
「そう、ならいいわ。的は1個に当てちょうだい。くれぐれも複数に当てないように。的が足りなくなると困るからね」
「はーい!」
よし、やるぞ! さすがに火魔法は危なさそうだから止めておく。水魔法もなぁ、水量が多いとそのあとが面倒そうだし、土魔法でいいか。
<魔力操作>を行って手の平に魔力を集めた僕は、一気に魔法を放つ。
「<アースアロー>!」
僕の目の前に5本の長さ50センチ程度の岩でできた矢が生成されて、それぞれが同じ的に向かって猛スピードで一気に飛んでいく。
それが的に着弾したと同時に、物凄い音が響き渡る。結構威力があったかな?
的が割れたか確認してみると、そこには5個あったはずの的が1個もなくなっていた。
あれ? なんでだろう?
「あなたね! ここは冒険者学校の試験場よ? なんであんな威力の魔法を撃つの!? それだけの威力が出せるならもう少し抑えなさいよ! 君の魔法が当たって砕け散った的が、他の的に当たってそっちも壊れちゃったじゃない! もう少し威力を考えて撃ちなさいよ!」
はぁ、そういうことは先に言って欲しかったなぁ。
その後、カローラ先生に10分ほどお説教をされた僕は、首を垂れながら家路に就いた。
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