第24話 初登校

 一昨日に試験発表があって無事に受かったから、今日から僕は冒険者学校に通うことになる。


「おはよう、アラン! とうとう今日から冒険者学校が始まるな。お前には言うまでもないと思うが、怠慢はダメだぞ? あとは信頼できる友達……いや、仲間ができるといいな」


「はーい!」


 うんうん、サボったりするのはダメだよね! 仲間はどうだろう? まだわからない。


「アランちゃん。忘れ物はない?」


 ママにそう聞かれた僕は、忘れ物がないか確認をする。

 学校には防具着用していかないとダメだから、まずはそれの確認だ。

 胸にはヒュージさんが買ってくれた革の胸当てを着用している。

 視線を胸から手足に移す。そこにはパパに買ってもらった手足の革の防具がある。

 これらはさっき着用したばかりだから忘れようがないんだけど、一応確認はしないと。

 そして、この防具は二人の気持ちがこもってるし、なにより軽いから使いやすいんだよね。

 色も僕が好きな薄い青色に染められているし。

 あとの用意は……筆記用具は学校にあるみたいだし、ママお手製のお弁当も持った。

 よし、大丈夫だ。それらの確認が終わり、ママに向かって口を開く。


「ないよ!」


「その防具の出来上がりがギリギリとはいえ、入学前までに間に合って良かった。アランはそれを気に入っているようだし。これも全部ヒュージのお陰だ。俺の今の稼ぎは金貨2枚がいいとこだ。四人が1か月生活するだけでそれくらいのお金は飛んでいくっていうのに。早くもっと稼げるようにしないとダメだな!」


 パパは話ながら暗くなったかと思えば、最後はやる気に満ちた顔をしていた。


「皆には世話になってるから気にするな。今まで通り俺からも金を受け取ってくれよ? 大した金額じゃないけど」


「本当に助かっているわ。この家もなかなかいい家だしね。なにより冒険者学校のお金を出してもらえるからこの子が通えるのだし。これで少しでもアランちゃんに友達が出来てくれたらいいんだけど……」


「いってきまーす!」


 三人で話し始めると止まらないことがあるので、僕はさっさと挨拶してから学校へ向かった。

 この街も少しずつだけど歩きなれてきたかな? 遠い所はまだ全然わからないけど。

 まぁ、学校まで歩いて30分だし、迷子になる心配はない。

 歩きながら視線をこまめに動かしている僕は、活気がある街並みや人々を観察する。

 本当にこの街には色々な人がいるよね。人種もそうだし、職業もそう。

 冒険者っぽい人もいれば、商人みたいな人もいる。貴族らしき人物もいる。

 そのように周りを見渡しながら、しばらく学校までの道を歩いていた。

 すると、前方にあいつが歩いているのを発見した。


「あーっ!」


 無意識のうちに大きな声を出してしまった僕は、周囲の人々の視線を独り占めしてしまう。

 特に何か事件が起きたわけではないと彼らは理解してくれたみたいで、それらの視線はすぐに飛散した。

 気恥ずかしい気持ちをひた隠しにした僕は、その人物の元へと歩み寄る。

 そいつはさっきの声に気が付いていたようで、こちらをじっと見て立ち止まっていた。


「この前はよくもやってくれたね? まぁ、実質的な被害はなかったけどさ。いきなりつねるなんて酷くない?」


「あら、そう? ごめんね。でもね? 元はといえば、あなたが私を置いていくのが悪いのよ? こんなに可愛い子を放っておくなんて、あなたは見る目がないのね。強さだけは凄かったけど」


 と、こいつは悪びれもせずに僕に反論してきた。

 んー、めちゃくちゃ自信過剰だなぁ。確かに可愛いけどさぁ。少し悔しいけど、それは認めるよ!

 それでも、そんなことを自ら口にするのってどうなんだろう。

 僕が訝しげにそいつを見ていると、そいつはさらに口を開く。


「そういえば……私はまだ名乗っていなかったわね。私はキャサリンっていうのよ。あなたの名前はなんていうの? あと、学校では何クラスになった? どうせ受かっているんでしょ。もちろん私は受かったわ」


 こいつはキャサリンって名前か。

 それにこいつも冒険者学校に受かってたんだな。

 それなら僕と同じ学校だし、名乗ってもいいかな? って僕の名前にそんな価値はないけどね。


「僕はアランだ。クラスはSだよ。君は?」


「私もSクラスでアランと同じね。まぁ、あなたの模擬戦を観戦していたけど、確実にSクラスになるとは思ってたわ。当然私も自分の実力ならSクラスってわかりきっていたけど」


「うーん、同じクラスかぁ。あんまり嬉しくないかも」


 あっ、また心の声が漏れてしまった。この子は可愛いんだけど、なんか面倒くさそうなんだよなぁ。

 よし、今度は漏れなかった!

 キャサリンが静かだなと思って彼女に視線をやると、キャサリンの肩がプルプルと震えていた。


「トイレに行きたいなら行ってくればいいよ」


 こうやってさり気なくトイレを勧めるあたり、僕は優しいよね。うんうん。

 とはいっても、トイレがこの近くにあるのかは知らないんだけど。

 もしかしたら彼女と一緒に学校に行くことになるかと思ったけど、キャサリンはトイレに行くのだろうし、大丈夫だよね。

 それに付き合わされるのも嫌だから、、僕は走っていこう!

 そう決めた僕は、一目散に走りだす。


◇◇◇


 冒険者学校へと到着した僕は、門番に挨拶をしてから門をくぐる。

 それから案内板にしたがって1年のSクラスへと移動する。

 Sクラスの教室に入ると、視線が一気に僕に突き刺さってきた。

 別に僕は珍しい格好をしているわけでもないのに、なんで注目されてるんだろう? そんな疑問を抱いたが、わかるわけがないので、その思考を放棄する。

 まぁ、今はそんなことよりも、自分の席を探さないとね。確か、机に名前が書いてあるとか聞いた。

 次々と視線を空席の机に向けていると、『アラン』と記載された紙が乗ってる机を発見する。

 んー、あそこか。

 一直線に見つけた席に移動した僕は席に座る。

 ひとまず落ち着いたので改めて周囲を見渡すと、先ほどまで僕に集まっていた視線はもうなくなっていた。

 さらに他の生徒を観察すると、彼らは近くの人と話している者、じっと黙って前を見つめている者、瞑想をしている者などさまざまだった。

 そうしていると、後ろから声が聞こえてきたので振り向く。


「よー。俺はゼベクトっていうんだ。よろしくな。試験日にお前の模擬戦を見てたけど、強かったな。あれなら俺ともいい勝負ができそうだぜ。ところで、お前の名前も教えてくれないか?」


 僕に話しかけてきたその男子を見ると、凄い格好いいわけじゃないけど、自信がありそうな顔つきをしている。

 茶髪の短髪に瞳の色も茶色か。座ってるからよくわからないけど、おそらく背丈は僕と同じくらい?

 眼前にいる男の子の観察を終えた僕は、返事をするべく口を動かす。


「僕はアランだ。その言い方だと君は強いんだね。機会があればゼベクトと模擬戦がしたいな」


 模擬戦中に相手がアクティブスキルを使い、それを観察するのが新たなスキル取得の近道になる。

 一応、普通に観戦してても問題ないといえばないけど……それでもやっぱり目の前で使われてこそ、わかること確かにある。

 そのまましばらく彼と雑談していると、後ろのドアからキャサリンが入って来るのが見えた。

 視線を動かして僕を見つけた彼女は、その目を鋭いものに変化させて僕を睨み付けた。そして、ふん! とでも言いたげに顔を横に逸らしてから自分の席を探していた。

 

 キャサリンは無事に自分の席を探し当てたようで着席した。そして、それとほぼ同時に先生が教室にやって来た。

 その人を見ると、それは試験日に僕と戦ったオリガン先生だった。あの人が僕たちの担任かぁ。

 教壇に立った彼は、生徒の数を数え始める。

 しばらく生徒全員静かに待っていると、「うんうん」と小さな声が聞こえた。きっと数に問題がなかったのだろう。

 空席が1個もないしそれも当然だよね。


「よーし。1年のSクラスは20人全員揃っているな。俺の名前はオリガンという。よろしく」


 オリガン先生はそう言うと、ニカっと笑った。


「知っている者は知っているかもしれないが、本校にはS、A、B、C、Dのクラスがある。Sクラスは成績上位20名の生徒が入るクラスとなっている。途中からでも成績が上がり次第、上位クラスの最下位成績者との入れ替えが検討される。君たちはSクラスだからこれ以上クラスは上がらないけど、成績が悪くなれば下位のクラスへと落とされる。そのため日々の努力を怠るらないように」


 これ以上クラスが上がらないのは残念だけど、冒険者になるなら仲間を集めた方がいいと聞いている。

 その場合は周りに強い者がいる利点から、Sクラスが優位みたいだ。でも、僕に仲間なんてできるのかな?

 5歳の頃はあんなことがあったし……あれからずっとママ、パパ、ヒュージさんと一緒で、それ以外の人との交流はほぼなかった。そのため僕の交友範囲は凄く狭い。

 特にヒュージさんと毎日毎日鍛錬で一緒だったから、同じ年頃の子との付き合い方がいまいちわからない。

 甘えるのもなんか違うし、結局あの三人が心配してるのはそういう部分なんだろうな。


「あと、これは入学前に聞いていたと思うが、大事なことなので念を押して言っておくぞ! ピューピル冒険者学校では、他の生徒にギフトを聞くのを許していない。これは絶対禁止となっている。もちろん、スキルについても同様だ。ただし、これから交流を深めていったり、パーティーを組むなどの理由で自分から教えたいという考えならそれは許可する。しかし無理に聞き出そうとしたり、自分が知り得た他人のギフトやスキルを他の人に教えた場合には、その生徒を容赦なく処分する。処分内容としては軽いものは謹慎で、重いものだと退学だ。それに関連して、自分が誰かにギフトを教えたなどの場合は、その旨の報告は必須だ。その際にこちらがギフトやスキルの内容を聞くことはない」


 冒険者にとっては、自分のギフトやスキルの情報は凄く大事ってヒュージさんが口を酸っぱくして言ってた。

 それにしても無理に聞き出したり、漏らしたりしたら最悪の場合は退学か。これはかなり厳しいな。


「次は生徒カードの説明をする。生徒カードは別名Hランクカードともいう。冒険者ランクは本来SからGまでしかないが、冒険者学校は冒険者ギルドの下部組織としての立場から、生徒カードを制限付きのギルドカードとして扱っている。このカードは本校を卒業時に正規のギルドカードに変更される。当然、卒業時の成績によって与えられるランクは変わってくる。その際の最高ランクはCだ。それは滅多に出るものではないが、各自それを目標に励んでくれ」


 冒険者になった時のスタートランクは重要だよね。ランクで依頼料も結構変わってくるみたいだし、当然依頼内容も。ここは当然卒業時にCランクを目指す!


「よーし、生徒カードを配るから各自取りに来い。これは冒険者学校専用ダンジョンに入るのに必要だから、無くすなよ!」


 オリガン先生の言葉とともに全員が立ち上がり、彼の元へ生徒カードを受け取りに行く。

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