第25話 初授業『冒険学』

 生徒全員がカードを受け取って席に着く。


「よし。これで配布も終わった。この学校は総合学校みたいに入学式も卒業式もない。そういうわけで今日からすぐに授業が始まる。あぁ、先に科目の説明しておこう。さっきも言ったが、冒険者学校は冒険者ギルドの下部組織としての一面がある。そのためギルドに関係する知識や、長年に渡って蓄積してきたさまざまな情報も教える。この科目は『冒険学』だ。ギルドのルールから始まって、薬草の種類の見分け方、ダンジョンのトラップの解除方法、魔物の特徴や弱点と相当幅広く勉強することになる。その他にも色々とあってかなり大事な科目と言えるだろう」


 うわー、幅広いなぁ。冒険者ギルド、薬草、魔物についての知識はヒュージさんから聞いて、ある程度は知っているけどおそらく授業の方が詳しいんだろうね。


「次の科目は『魔法学』だ。これは好きな奴が多いだろう。この科目は魔法に関連することや魔法道具に関することを学ぶ。今の二つは基本的に座学だ。そして、最後に紹介する科目が『身体学』だ。これは主に身体を動かして鍛錬したり、模擬戦をしたりすることになる」


 強い人と沢山模擬戦をしたいな。そうしたらさまざまなスキルを取得できそう。

 高ランク冒険者になってお金を稼ぎ、パパの商店を作るというのが僕の今の目標だ。

 これは目標とは言えないけど、ヒュージさんに新しいお嫁さんを作ってあげたいけど、これは正直僕にどうこうできる問題でもないし、なにより彼が望んでいるのか良くわからない。

 さすがに前のお嫁さんは性格が悪いからね。性格が直れば前の人でもいいんだけど、直るのかな?

 あ、まだ先生の話の最中だ。こんなことを考えてちゃいけないね。オリガン先生の話を良く聞いておかないと。


「施設についても伝えておこう。昼になったら皆ご飯を食べるだろう? そのまま机で食べる者、または外で食べる者もいると思うが、一応この学校には食堂があるからそれを利用してもいい。ちなみに食堂は1食当たり銅貨3枚だ。ここでお金の話になったが、皆お金の計算はできるか? できないとギルドで依頼を受けるときや、達成したときに困るぞ。そうだなぁ、そこのお前――アランだったか。お金の種類と何枚でどの硬貨になるか言ってみろ」


 先生は僕を指差してそう言った。

 えー、僕? さっき考え事をしていたのがバレたのかな? まぁ、これくらいわかるからいいんだけど。


「ええと、お金の種類は小さい方から銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、ミスリル金貨、白金貨とあります。全部10枚ずつで次の硬貨になります。ただし、白金貨だけはこれ以上のお金がないので10枚で次の硬貨になりません」


「よしよし。わかってるじゃないか。わからない奴がいたら今のを覚えておけよ? このまま『冒険学』の授業を始めるぞ。計算については今日ではないが、近いうちに教えてやる。次は冒険者ギルドの成り立ちについてだ。冒険者ギルドはどうして作られたのか、わかる者は手を挙げろ」


 これはヒュージさんに聞いているから知っている。僕は手を挙げたついでに周りを見渡しす。

 すると、手を挙げているのは全体の8割くらいだった。さすがにSクラスだけあるのかな?


「よーし。ゼベクト。答えてみろ」


「はい。冒険者ギルドは、ヨアトルの世界で同盟を結んでいる国々が設立したものです。それらの国々は、この世界の約7割と言われています。世の中には戦闘の素人ができないさまざまな仕事があり、それらを全て兵士や騎士がこなすにはどしても手が足りません。そしてそれを解決しようと常時大量に兵士や騎士を雇用すると、国家の財源の圧迫になります。これらの解決する手段として冒険者ギルドが作られました。彼らはさまざまな仕事を依頼という形で解決していきます。また、場所によっては国境が曖昧な地域もあり、そういう地域の仕事は誰がするか? という面から見ても、冒険者ギルドの存在は非常に有用なものとなっています」


「よし。皆、今のを覚えておけよ? あとは追加として、仮にどこかの国と戦争が始まっても冒険者に参加義務はない。その代わり傭兵としての依頼が出るときはあるが、それは自由参加だ。魔物が溢れかえったときに発生するスタンピードも同様だな。それらに強制参加の義務があるのは兵士や騎士だけだ。あと、冒険者ギルドはあくまでも国が設立しているから、冒険者同士や兵士や騎士との喧嘩はご法度となっている。どうしてもっていう時は、殺生なしの決闘だな。それは冒険者ギルドの闘技台で行える」


 んー、冒険者は荒くれ者もいるって聞くからなぁ。

 でも、それよりも悪い貴族に気を付けろってヒュージさんは言ってた。その話はしないのかな? と考えていると、先生の口が引き続き開いた。


「そして、一番気を付けないといけないのは貴族を相手にしたときだ。これは滅多にないが、性根が腐ってる貴族に目を付けられるとなかなか厳しいものがある。これは兵士や騎士に期待するしかないが、どこの組織も腐っている部分は腐っているもんだ。まぁ、大事なのは自衛だな。いかに上手く目撃者を作っているかなどにもよる。状況によって冒険者ギルドも後ろ盾にはなれるが、基本的には冒険者ギルドも国の機関だ。あとはSランクになるって手もある。そのランクになると身分が子爵と同じになるため、Sランク冒険者は相当な発言力と地位を持つことになる。まぁ、領地を貰えるわけでもないし、国に縛られるわけでもないけどな」


 早い話が、貴族相手には上手く立ち回るか、なれるならSランクになっておけってことだね。

 でも、Sランクとか遠いんだろうなぁ。

 まぁ、ひとまずの目標は優秀な成績で卒業してCランクスタートだ。


「あっ、ちなみに貴族の身分のまま冒険者ギルドに所属することはできない。そのため冒険者には貴族はいない。それは冒険者学校も同様だ。元貴族ならいる可能性はある」


 その後もさまざまな知識をオリガン先生によって教えてもらい、午前中の授業は『冒険学』だけで終わってしまった。

 授業が終わるとすぐにオリガン先生が教室から出て行った。

 ふー、ずっと座っているとさすがに疲れてくる。それにしてもやっとご飯だ。もうお腹がペコペコだよ。


「アランは弁当か? それとも食堂か?」


 後ろの席からゼベクトが僕に話しかけてきた。

 机の中からママ特製のお弁当を取り出し中だった僕は、それに答える。


「僕はお弁当だよ。君は?」


「俺は食堂だな。なら、俺は食いに行ってくるわ。また後でな」


 彼はそう言い残し、すぐさま教室から出て行った。

 食堂って美味しいのかな? 今度食べてみたいかも? あっ、そんなことよりも早くご飯を食べなきゃ!


 僕がお弁当を食べようとすると、人が近付いて来る気配を感じた。

 ふと、顔を上げるとそこには目が笑ってないのに、笑顔を作っているキャサリンがいた。

――当然僕は見なかった振りをしてご飯を食べ始める。


「ちょっとおお! 今あなたは絶対こっち見たよ? 見たよね? なんで何事もなかったかのようにご飯を食べ始めてるの? ねぇ? なんで?」


「なんか幻聴が聞こえるなぁ。授業で疲れたのかもしれない」


 あっ! また心の声が漏れた。なんでだろ? キャサリンには心の声が漏れちゃう。

 この子は危険だ。もしかしてそういうスキルあるの!? ってそんなわけないよね。

 それはそれとして、今のはちょっとまずいかな? と思って顔を上げると、キャサリンは笑顔のまま顔を引き攣らせて変な顔をしていた。

 んー、可愛い顔が台無しだね!


「今僕はお腹空いてるんだ。何か用?」


「え、ええ。そうね。あなたって私に随分と辛らつじゃない? 私こんな扱いされたの初めてよ?」


「そうなの? それが嬉しいの?」


「はー!? 嬉しいわけないじゃない!!」


 彼女の怒声が教室内に響き渡り、喧噪としていた教室内は静まり返る。


「おほほほ、嫌だわ。私ったら。皆さんごめんなさいね? んー、ごほっ、ごほっ、あー、あー、ちょっと喉の調子が悪くて、大きな声を出せば治るかなって……」


 そんな苦しい言いわけを信じる人がいるわけがないじゃん? 教室内のすべての視線がキャサリンに突き刺さる。


「はぁ、もういいわ。私もここでお弁当を食べさせてもらうわね」


 あらら、開き直った? まぁ、そんなのはどうでもいいか。

 それよりも、キャサリンは弁当持ってなくない? お弁当はどこにあるのかなと僕が観察していると、キャサリンが自分の指に触れる。

 そしてその瞬間、驚いたことに虚空からお弁当箱が現れる。

 あれは……もしかして指輪タイプのアイテムボックスって物?

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