第26話 キャサリンの様子

 僕は今の光景に見とれてしまった。

 おそらくあれは、ヒュージさんが高価なため買えなかったと言ってた指輪タイプのアイテムボックスだと思う。

 買えなかったといっても、彼の元お嫁さんであるユリアさんは持っていて、ヒュージさんは買ってもらえなかったと聞いている。

 それにしても……うわー、あれ、すごくいいなー!

 あれがあれば色々な物を収納できて、凄く冒険の役に立つと聞いた。今のを見ているだけでもその凄さが伝わってくる。


 キラキラとした目でアイテムボックスを見ている僕は、とにかく興奮していた。

 するとそんな僕の様子に気が付いたのかわからないが、キャサリンは胸を張り、得意げな顔で口を開いた。


「ふふん! いいでしょ? これはねぇ、パパが私の入学祝いに買ってくれたのよ。私のパパはSランク冒険者で凄いんだからね! それともアイテムボックスじゃなくて私に見惚れていたとか?」


 彼女の後半の言葉は聞こえなかった振りをして口を開く。


「君のパパに会ったことがないから詳しくは知らないけど、それでもSランク冒険者なんて凄いね。それにそのアイテムボックスも素敵だよ。当然僕もいつかは欲しいけど、今はまだまだ自分には過ぎた物だね」


「あら、素直に凄いって褒めることもできるんじゃないの。最初からそういう態度でいたらよかったのに。ただ……私の後半の言葉に反応がなかったのは納得いかないけど……」


「んー? 凄いのはキャサリンのパパであって、別に君は凄くないよね?」


「なっ! そ、そうだけど……」


 彼女の言葉は尻すぼみになり、顔を俯かせてしまう。何か変なこと言ったかな?

 はぁ、それにしても、ついついアイテムボックスに目を奪われたけど、今の僕には分不相応だ。

 あれは気にしないでことにしてご飯を食べよう! せっかくママが作ってくれたんだ。

 僕がお弁当を食べ始めてもキャサリンは下を向いたままだった。

 お弁当を食べないのかな? 彼女のお弁当は見た感じお肉も入ってるし、結構美味しそうなんだけど。


「キャサリンはお弁当食べないの?」


「た、食べるわよ……あなたはいいわね。なんの悩みもなさそうで……」


 彼女は眉間に皺を寄せてそう言った後、ご飯を食べ始めた。


「んー? どうかな? まぁ、今は目標に向かって一直線ではあるね」


「そうなの? どんな目標か聞いてもいい?」


 なんだろ? この子はさっきまで――というより、出会ってこのかたずっと強気だった気がするんだけど。

 今のキャサリンは、どこか不安気な表情を浮かべているように見える。


「僕のパパは行商人なんだ。君のお父さんみたいにSランク冒険者じゃないけど、それでも凄いんだよ! もちろんママもね! まぁ、これはキャサリンに言っても、すぐにその凄さは伝わらないと思う。それはいいとして、パパとママがずっと一緒にいられるように、僕が稼いでお店を作ってあげたいんだ。それが僕の目標さ。そのためにも凄く強くなってお金を稼ぐんだ。あっ、もう一つあるけど、そっちは僕の大事な師匠みたいな人の個人的なことだから内緒。勝手に言うのはダメだと思うからね」


「そっか……パパとママ……か。素敵ね」


 うーん、調子狂うなぁ。今までとは別人みたいだ。

 何かあるのかな? こういう時に友達とか仲間だったら悩みを聞いてあげたりするんだろうね。

 一応聞いてみるかな? と僕が決断しそうになった時――


「よー、二人で一緒にご飯食べてたのか? 俺は早食いだからもう食い終わったぜ! 食堂はなかなか美味かった」


 いつの間にか近くに来ていたゼベクトはそう口にした。そして彼は、僕たちの側へと寄って来る。

 キャサリンが座ってる席はゼベクトの席だし、当然近寄って来るよね。


「んっ? お前は確かキャサリンだったな。入学試験のときの模擬戦が俺の前だったから覚えてるぜ」


「試験の時そうだったの? ってそれはどうでもいいわね。その通り私の名前はキャサリンよ。そういうあなたは誰?」


「俺か? 俺はお前が座ってる席の持ち主のゼベクトだ! よろしくな!」


 ゼベクトは彼女にそう言うと、サムズアップする。

 その言葉で自分が座っている席の持ち主が現れたのだと悟ったのだろう、キャサリンはそのまま座っているのはまずいとでも思ったのか明らかに慌てている。

 そして彼の方を向いて口を開いた。


「よ、よろしく。あ、もう少しで席を退けるわ。ごめんなさい」


「いやいや、飯を食ってるならいいぜ」


 ゼベクトはそう言うと、ニコっと笑った。

 こいつはなかなか話すのが上手いなぁと思いつつ、僕は黙って二人を見ている。

 彼女に悩みか何かあるのかわからない。それでも、もし何かあるなら聞こうとは思ったけど……

 話が一度途切れたし……まぁ、いいかな? それよりご飯を全部食べちゃおう。

 結局キャサリンはご飯を食べ終わるまで無言になり、ゼベクトは食堂の店員なんじゃないかと思うほどに、僕たちにそこがいかに良い所だったかを延々力説していた。

 そんな彼の言葉を左耳から右耳に通過させて、僕は弁当を完食した。

 彼女はご飯を食べ終わるとすぐに、ゼベクトにお礼を言ってから自分の席へ戻った。

 ご飯を食べ終わっても彼の食堂セールス話が続いており、僕は少しうんざりしていたが……そんな時に教室のドアが開き、四人の男女が入って来たのが視界に入る。


 あれは――どこかで見たことがあるような……ないような……


 その四人を良く観察してみると、先頭の男子は髪を刈り上げていて茶色い髪に茶色い瞳、身長は僕より高くて165センチはある。身体も結構鍛えているようで屈強に見える。顔立ちはまぁまぁかな?

 もう一人の男子は先ほどの男子よりも背が少し低くて、筋肉もそんなになさそうだ。

 髪は色はさっきの男子と同じで青い瞳をしている。こちらの男子も顔は普通だ。

 まぁ、僕は男子が好きってことはないからどうでもいいんだけど。

 その後ろから入ってきたのは女子で、赤い瞳に肩まである長く青い髪、顔は結構可愛くて体形は普通、身長は150センチくらい? キャサリンよりおっぱいは小さいと思う。

 さらにその後から入ってきた女子は……特定の部位がカローラ先生といい勝負をしている。

 まさかあの先生の子ども!? ――なんてことはあるはずがないから、ここの生徒なのだろう。

 その子は小さいおっぱいを筆頭に、引き締まって見える細い身体に低い身長と全体的にこじんまりしている。

 顔はそこそこ可愛くて、肩より短く茶色い髪、そして赤い瞳をしていた。


 その四人をそうやって観察していると、僕の頭の中から何かの記憶が――


「おー! これが今年のSクラスの奴らか! よろしくな! 俺はゼリオンって名前で3年のSクラスにいる!」


――とその時、先頭の男子が大きな声を出した。


「俺はライアルだ! よろしくな! 1年坊主ども!」


「私はキャメリーよ。よろしくね? 可愛い子か格好いい子はいるかなー?」


「私はオリーブ」


 僕は思いだした。こいつらはあの時空き地で……僕を嘲笑って小馬鹿にしたあの四人だと。

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