第27話 7年越しの対峙
教室内の全ての視線があの四人に集中する。
あいつらは3年のSクラスなのか。冒険者学校に行くって噂で聞いていたから現在3年生なのは知っていたけど、ここの学校にいるってことも、Sクラスだってことも知らなかった。
僕は無意識に鼓動が早くなるのを感じていた。あの時以来か……この四人を見るのは。
こうしていざ対峙してみると感じることが……わかることがある。結局僕はあの時のことを消化しきれていなかった。
ママに慰めてもらって、その後ヒュージさんとずっと鍛錬してて忘れた気になっていたけど……
こうやってこいつらを見ただけで鼓動が早くなり、少し息苦しく感じる。
この四人は遊びながら鍛錬もしていたみたいだし、この学校に僕より2年先に入っているけど、絶対にこちらの七年の方が成長は大きいはず……それだけの鍛錬をしてきた自負がある。
なんとか気持ちを落ち着かせるために、ゆっくりと深呼吸をして僕は息を整えた。
そして全員の視線が集まる中、ゼリオンが口が動く。
「実はな? この場でギフトが何かは当然言わないが、俺たち四人はバランスのいい組み合わせのギフトを持っている。そして俺たちは後1年で卒業となっていて、もちろん最初からCランクを目指して最中だ。それくらい俺たちはやる気も実力もある。――でだ、このパーティーは戦力的には一応完結してるんだが、それでも荷物運びなり緊急用のサポートなりで使える人材を募集中ってわけでこうやって宣伝に来たのさ」
彼の顔は自信に満ち溢れたものであり、よほど充実した学校生活を送っているのだろうと思わせる。
「ここに来る前2年のSクラスにも行って来たんだけどな。話は変わって、今は4月だろ? 8月になったらそれぞれのクラスで代表の生徒を決めるんだ。そして、全学年全クラスを交えての模擬戦があるのは知っているか? それを全クラス対抗戦という。もし知らなかったにしても今知ったからいいだろう。その際にいい成績を残した奴らは俺たちが目を掛けてやる。そうなればいずれ俺たちのパーティーに入れてやってもいいかなと思ってる。まぁ、それはもちろんギフト次第でもあるぞ。だからといって当然こちらからギフトを聞くことはない。処分対象になりたくないからな」
8月になったら全クラス対抗戦か……
その時はゼリオン、ライアル、キャメリー、オリーブに一泡吹かせられるかな?
それにしても落ち着いて見てみると、全員どこか子どもの頃の面影がある。
茶髪で筋肉質のゼリオン、同じく茶髪であまり筋肉がないライアル、青い髪のキャメリー、茶髪で赤い瞳のオリーブ……
徐々に息苦しさが消えてきた僕は、今度は逆にぐつぐつとした何かが湧き上がってくるのを感じた。
そんな僕のことなど構うことなく、次にキャメリーが口を開く。
「私は恋人も募集してるからね! 我こそはって思う子がいるなら頑張っていいところを見せてよ!」
「あっ、ずりー! 俺も俺も!」
いきなりわけがわからないことを言いだした彼女にライアルが便乗している。
さらに何を思ったか、教壇前にいたゼリオンが歩きだす。
彼は一人の女の子の前まで来ると、その子に向かって口を開く。
「おい、お前可愛いな。俺の彼女にならないか?」
急に声を掛けられた女の子は「えっ?」と口に出してから、みるみるうちに表情を変化させた。
それは困惑、驚愕、怯え、色々な表情が混ざっているように見える。
「なぁ? いいだろ? 俺は3年のSクラスの中でも成績いいんだぜ? ほら、こっち来いよ」
クラスの皆は相手が3年ということもあり、全員が全員委縮しているように感じる。
まぁ、今日が初登校だし、これはこれでしょうがない?
「はーあ、まーたゼリオンの病気が始まったぜ? あいつは可愛い子を見ると見境がないからなぁ」
「本当ねぇ。昔は私たちも苦労したもんだわ」
「本当にそうだよねー。今はこっちを諦めてくれたから楽だし、彼は友達としてならいいんだけどねぇ」
ライアル、キャメリー、オリーブはゼリオンの行動に対して好き勝手に感想を述べていた。
声をかけられている女の子は俯いて少し震えている。
僕はその女の子の知り合いでもないし、助けたいっていう思いが湧いたわけでもないけど、それでも……こいつを好き勝手にさせておくのは――なぜか許せなかった。
席を立った僕は、毅然とした態度で奴の方へ歩みを進める。
後方から「お、おい……止めとけって……」とゼベクトの声が聞こえるけどそんなのは無視だ。
少しずつゼリオンに近づいていくと、僕に生徒たちの視線が集中し始めた。
当然その視線の中には子どもの頃から知ってるあの四人の視線もある。もしかしたら彼らは僕があの時のアランだと気が付くかもしれない。
だが、こいつらは今の僕を見ても昔一緒に遊んだことがある人物だと認識できないのではないか? という考えがある。
僕だって最初はなんとなく見覚えがあると感じた程度だ。それに僕は傷付けられた方だったから記憶が甦ったのだし、名前を聞いたから完全に思いだせたというのもあった。
ここで僕の名前を誰かに呼ばれたら少しまずいかもしれないが、それもないと思う。
なぜなら今日が僕たちの初登校だ。そんな段階でそれぞれの名前を知っている人は少ないだろうし、今の緊迫したような状況で僕の名前を呼ぶ人はいないと思っている。
しっかりとした足取りで僕は一歩ずつ確実にゼリオンに近づく。
ある程度近づいたところで、キャメリーとオリーブのひそひそ声が聞こえてくる。
「ね、ねぇ、オリーブ、あの子格好良くない?」
「え、えぇ。そうね。でもさ、なんかどこかで見たことがあるような気もするんだけど……」
「えー、私たちが新入生の顔を見たことがあるわけないでしょ?」
「うーん、そうかな? うん。確かにそう言われたらそうね」
二人のそんな話が終わる頃に、僕はゼリオンの前へたどり着いた。
そして、僕は彼を視界に入れて声をかける。
「ねぇ、その子嫌がってるでしょ? 止めなよ」
「はぁー? お前誰に向かって口聞いてんの? 仮にも俺はお前の先輩だろ?」
ゼリオンは顔を赤くしながら僕に言ってきた。
「はー。そうなの? じゃあ先輩でいいや。その先輩がさー、新入生の女の子を怖がらせてさ、しかも相手にされてないのにしつこいってどうなの? これが先生にバレたらどうなる? 成績下がっちゃう? 一応ここは国が設立しているのだし、トラブルを起こす人はいらないんじゃないかなー?」
「てっ、てめえええ! そこまで言ったからには覚悟ができてるんだろうな?」
「えっ? 何の覚悟? 先輩は1年の教室に来ていきなり新入生を脅すの? 怖いよぉ! 怖いよー!」
なぜか口が勝手に動いた僕、ついついゼリオンに悪態をついていた。
うっぷんが溜まっていたのかなぁ。それはわからないけど、なんかちょっと楽しくなってきたかも?
徐々に楽しくなってきた僕は、「怖いよー」と言いつつ笑いが漏れる。
「てめぇ、人を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」
彼はそう言い放ち、腕を振り上げた。そんなの避けれると思ったところで、慌ててゼリオンの後ろにやって来ていたライアルが彼を羽交い締めにした。
「お、おい! 新入生相手にこの場で手を出すのはさすがにまずいって! ここにはこれだけの目撃者がいるんだ。絶対にバレるぞ? そんなことをしたら最悪処分もあり得るぞ? 」
「ちっ!」
彼は舌打ちしたあと、振り上げた手を下した。
「お前もあんまり生意気なことを言ってんじゃねーよ! ほら、さっさとこいつに謝っとけって」
ライアルが僕に見当違いのことを言ってきたので、もちろん僕は反論する。
「えっ? もともと悪いのはそこのゼリオンっていう先輩だよね?」
「まぁまぁ、もう昼休みも終わるし、ここにこれ以上いると先生がやって来てまずいことになるわよ? 本来は宣伝だけだったから問題なかったのに。今の雰囲気の中で先生が来ると本当にまずいわ」
「キャメリーの言う通りよ。早く退散しなきゃ! ほらほら! 早く!」
「ちっ! お前の顔は覚えたからな! 覚えておけよ!」
ゼリオンはそんな捨て台詞を残して他の三人と一緒に立ち去っていく。
んー、僕の顔覚えてなかったのはゼリオンじゃん! まぁ、僕も正確には覚えてなかったけどね。
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