第28話 ドキドキ

 教室から立ち去っていく四人をじっと見ていた僕は、ゼリオンが言っていた全クラス対抗戦のことを考える。

 そこでならあの四人とも戦えそうかな? さすがに全員と戦えるのかわからない。

 でも今はまだ4月だ。8月まではまだまだ時間があるし、今考えてもしょうがないかぁ。

 そう結論付けた僕は、席に戻ろうと身体を反転させて席に戻ろうとした。しかしその瞬間、目の前の女の子が口を動かす。


「あ、あの……ありがとう。いきなり上級生が来て怖かった」


 ゼリオンに声をかけられて先ほどまで俯いていた女の子は、顔を上げて僕にお礼を言ってきた。

 その子の顔を見た僕は、一瞬見惚れてしまう。

 艶があって肩まで伸びた黒髪。宝石のような赤い瞳には僕の顔が映っている。

 少しだけタレ目で、とても可愛いのにどこか儚い印象を受ける。だけどそれと同時に、この子はきっと優しいのだろうとなぜか確信が持てるような優しげな顔。

 背は僕と同じくらいで150センチくらい? おっぱいはキャサリンと同じくらいか。この女の子にあの攻撃をされたらどうなるんだろう?

 そこまで考えて僕は正気に戻った。なんて馬鹿なことを考えていたんだ!

 うー、自分で自分が恥ずかしい。そうして僕が内心で恥ずかしがっていると、この子はさらに魅力的な唇を動かす。


「あ、あのー? どうかした? なんかいきなりオロオロしてるけど……さっきまでのきりっとしていた顔じゃなく、色々な表情をし始めて面白いね?」


 彼女はそう言って、僕ににこっっと微笑みかけてきた。

 その微笑みはあまりに眩しくて……眩しくて……心臓が高鳴った気がする。

 な、なんだこれは……この子はなんか危険な気がする。退散するしかない! あ、でも話しかけられてるから返事はしないとダメだ。


「い、いやいいよ。君が無事で良かった。僕はアランっていうんだ。君の名前は?」


 あ、あれ? 少し返事して立ち去る予定だったのに、自分から名乗って相手にも名前を聞いてる?

 僕は一体どうしたっていうんだ……制御できない感情や自身の行動に驚いていると、彼女の口が開いた。


「私の名前はフローラよ。あなたはアラン君っていうのね。よろしく」


 そう言い終わった彼女は、首を少し傾げながら再び僕に微笑みかけてきた。

 その様子を見て――僕の心臓は今まで感じたことがないほどに鼓動が早くなる。それに顔も熱くなってきた気がしてきた。

 そんな時――


「よーし。昼休みは終わりだ。皆席につけよ」


 教室にオリガン先生が入ってきた。彼の言葉に従って、僕は逃げるように自分の席へと向かう。

 教室内を見渡して生徒が全員席に座ったのを確認したオリガン先生は、一つ頷いてから口を開いた。


「午後からは『魔法学』をやるぞ。さすがに魔法の属性が四つあるってことを知らない奴はいないな? まぁ、さすがにそれはいないだろう」


 その質問に僕は頷く。周りを見ると皆も頷いていたようだ。


「うんうん。そうだろう。入試試験で魔法の試験があったくらいだ。皆魔法の基礎は済んでいて魔法を撃てると思う。あぁ、獣人族で魔法系統のギフトやスキルがなく、魔法を撃てなかった者は気にしないでくれ。そういう者は模擬戦の結果だけを見て試験の合否を決めている。まぁ、その分合否の判定は厳しかったわけだが。それはそれでいいとして、魔法を撃てないといっても魔法の知識は役に立つ。将来のパーティーメンバーが使う可能性は高いし、魔法は冒険者に取って必須の知識だ。だからさぼることは許さんぞ」


 確かに教室内には少ないけど、犬耳や猫耳をした獣人族の子も目に入る。


「「「はーい」」」


 教室内にいた獣人族の子たちが先生に返事をしていた。


「うんうん。いい返事だ。では、続きを話そう。各魔法の種類が何種類かわかる者はいるか?」


「はい!」


「ヨンスか。よし、言ってみろ」


「各属性に八つの魔法があります」


 ヨンスと呼ばれた男の子は、自信満々の顔でオリガン先生に答えた。


「よし。合ってる。ついでに全部の魔法を知っているなら、難易度の低い方から言ってみろ」


「はい。火魔法が<ファイアーボール><ファイアアロー><ファイアウォール><エクスプロージョン><クリムゾンノート><スーパーノヴァ><バースト><フレア>で、水魔法が<ウォーターボール><ウォーターアロー><ウォーターウォール><ヒール><ハイヒール><エクストラヒール><パーフェクトヒール><ダイヤモンドダスト>です」


「そこで一旦ストップだ。そこまでは正解だが、続きは違う奴に言ってもらう。アラン言ってみろ」


 え? いきなり僕? そのままヨンスって子に言わせればいいのに。まぁ、いいか。


「はい。風魔法が<ウィンドボール><ウィンドアロー><ウィンドウォール><ウィンドインパクト><ジェットストーム><ウィールウィンド><ブラスト><サイクロン>で、土魔法が『アースボール><アースアロー><アースウォール><アースクリエイト><アースショット><ロックレイン><アースクエイク><メテオ>です」


「うんうん。今年の生徒は優秀だ。魔法の使い方には、ただそのものを出すという使い方もある。これは知っている者がほとんどだと思うが、火を使いたいときには火を、水を使いたいときには水を、といった感じだ。そのときには魔法名を言う必要はなく、<魔力操作>で魔力を操り、練り上げて頭の中でイメージを具現化させる。魔法を鍛える初期段階では、大多数の者がそうやって魔力や<魔力操作>を鍛えていく」


 それはママが家事をするときいつもやってる。僕も水汲みの代わりに魔法で水を出して<魔力操作>や魔力を鍛えていた。


「今ヨンスとアランにさまざまな魔法名を言ってもらったが、どこまで使えるかは個人個人の種族とギフト次第だ。色々な組み合わせがあるため正確なところは言えないが、鍛錬に鍛錬を重ねて自分の適性上限値に近付いて来ると、この魔法は使えるなとか、これは無理だろうというのが感覚的にわかってくる。実際の魔法を撃つ練習は『身体学』でやることになる。『魔法学』は基本的に全部座学だと思っていて構わない」


 んー、『魔法学』で魔法の練習をすると思ってたけど違うのかぁ。

 魔法を撃てる場所に移動するにも時間がかかるし、教室で撃つわけにいかないからだね。


「少し話を変えるぞ? 世の中にはさまざまなギフト保持者がいる。そして、その中には『付与師』や『魔法道具職人』などというギフト保持者者もいる。世の中の魔法道具を作っているのは、ほぼ全て彼らだ。皆の中にはそれらのギフト保持者はいないと思う。もしいたら冒険者じゃなくて、魔法道具職人になると思う。あの職業は安全で給料もいいし、安定していて大人気だからな。まぁ、中には冒険するのが好きだからって奴もいるかもしれないが、それは少数派だ」


『付与師』や『魔法道具職人』は給料がいいのかぁ。まぁ、魔法道具職人はそこまで多くないっていうし、それに魔法道具は高いっていうから当然なのかな?


「なぜ魔法道具の話をしたのかというと、『魔法学』ではどのような魔法道具があるのか? という勉強をしてその利用方法を教えていくからだ。それと先ほど魔法道具を作ってるのはほぼ全て彼らと言ったが、世の中にはダンジョンがあり、これはヨアトル様が作ったものだ。そして、そこから魔法道具が見つかることもある。これらは魔法道具職人が作った物よりも高性能な物も多い」


 その後もオリガン先生はさまざまなことを教えてくれて、今日の授業は終わりとなった。

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