第21話 入学試験当日

 今日はとうとうピューピル冒険者学校の試験日だ。

 間違いなく僕は受かるって、ヒュージさんが言ってたから大丈夫だと思う。


「アランちゃん! 今日は試験日ね! 試験は実技しかないみたいだから、あなたの実力を見せつけてあげるのよ!」


 ママは最近僕を甘やかすのを少しは自重してきている。それはおっぱい攻撃がかなり減ったことから明らかだ。

 まぁ、その分のしわ寄せがパパに行ってるみたいだけど。


「お、アラン。今日は頑張るんだぞ?」


 そう声をかけてきたのはパパだった。今のパパは週に3回は家に戻って来られるようになったから、今日もこうやって僕を見送ってくれる。

 そんなパパの方を見ると……その表情は今日もやつれているものだった。

 それを見て僕は考えてしまう。パパの体調を考えると実は村にいた方がよかったのかな? って。


「あなた! 朝なんだから、もっとしゃきっとしてよねぇ。アランちゃんの試験日なのに、そんなにフラフラとしてー」


「すまん、すまん。ちょっと腰がな?」


「まぁまぁ、タリオもララさんもそこまでにして。アランを見送ろうじゃないか!」


「お、おう。そうだな」


「そうね。アランちゃん! お家から応援してるからね?」


「はーい! じゃあ、行ってくるね!」


 ようやく慣れてきた新しい家から軽い足取りで外に出た僕は、ピューピル冒険者学校へと向かう。


◇◇◇


 新しい家には慣れてきたけど、ピューピルの街は広くてまだまだ慣れない。

 学校までの道はもう覚えてるから大丈夫だけど、前にいた村と違ってここには本当になんでも有るよね。

 品揃えが豊富な武器屋に防具屋、それに魔法道具が売っている魔法道具店、薬草やポーションが売ってる錬金店、さまざまな雑貨が売ってる雑貨屋。

 その他にも食料品が売ってるさまざまなお店がある。

 それになんといっても人が多い! こうやって歩いてるだけですれ違う人が沢山いる。

 前に住んでいた村ならすれ違う人は少なかったし、人々の活気が全然違う。

 村ですれ違う人はほぼ全員が顔見知りだったけど、当然ここですれ違う人に顔見知りはいない。


 僕がそうやって歩いていると、20メートルほど先に地図とにらめっこをしている女の子がいた。

 僕と同じ歳くらいかな? んー、何か困ってる? 暇なら声をかけても良かったんだけど……今はちょっとなぁ。

 白いローブを着ているけど、あれは普段着かな?

 冒険者もああいうローブを着てるからもしかすると小さく見えて冒険者?


 そう思いながら僕はその女の子の横を通り過ぎようとした。

 そして僕とその女の子がすれ違う瞬間に、その女の子と目が合ってしまう。

 さっきまで後ろ姿しか見えてなかったけど、この女の子――なんか凄く可愛いな……

 くりくりの目に意志の強そうな赤い瞳、肩まで伸びた綺麗な青い髪。

 身長は僕より少し低いかな? 僕の身長が今は150センチだから、145センチくらい?

 しかもこの子は僕より小さいのに、ママみたいにおっぱいが大きいなぁ。

 さすがにママより少し小さいけど、もしかしたらこの子もおっぱい攻撃が得意なのかな?

 そんな馬鹿なことを考えた後、僕はささっと目を逸らした。

 そしてそのまま通り過ぎて行こうとしたら、女の子の声がすぐ横から聞こえてくる。


「ねぇ、あなた暇なの?」


 えっ? 僕? 全然暇じゃないし! これから冒険者学校の試験だし!

 僕って歩いてるだけで暇に見えるのかな?


「暇じゃないよ。凄く忙しいかな」


「そ、そう。あーあぁ、パパとはぐれてさえいなかったらなぁ。困ってる女の子を助けてくれる誰か暇で優しい人がどこかにいないかなー?」


 その子はそう言うと、わざとらしく僕にチラチラと視線を送ってきた。

 だけど僕は忙しいから、そんな視線に気が付かなかった振りをしてそのまま歩きだす。


「ちょっとー! 今の聞こえてたんでしょ!? こんなに可愛い子が困ってるっていうのに! その耳は飾りなの!?」


「はぁ、僕は忙しいっていうのに面倒くさいなぁ」


 あっ、やば! 思ったことが口に出ちゃった。

 ママを相手にしてるときなら、内心の考えと本当に口に出す言葉は使い分けできてるのに!

 僕が恐る恐る後ろを見ると、その女の子は「め、面倒くさいですって……」と言って身体を震わせていた。

 あれ? 何か言われると思ったらトイレに行きたくなったのかな?

 うーん、僕は時間がないし、得体の知れない子に構っていられないからさっさと学校に向かおう。

 できるだけ早くこの場を離れた方がいいよね。それならここからは走ろう。

 そう結論付けた僕は、そこからはできる限りの速さを維持して冒険者学校が見える所まで走った。



 僕が学校にたどり着いてその建物が視界に入ると同時に、ピューピル冒険者学校を初めて見たときのことを思いだす。

 確か、あのときはあまりの大きさに驚きすぎて声も出なくて……その後に騒ぎだしたらパパとママに怒られたんだよなぁ。

 この街中にある建物の中でも、有数の大きさを誇るピューピル冒険者学校……

 本当に何回見ても大きいなぁ。おっと、こうしちゃいられない。

 多分、あの人たちも入学試験を受けに来たんだよね。

 そう思ったのは、僕と同じくらいの歳の子たちが門番の人に話しかけてから、次々に門をくぐって中に入って行くのが見えていたからだ。

 少しの間観察し、そのあと僕も他の人のように門番がいる場所まで行き、彼に話しかける。


「おはようございます。今日入学試験を受けに来たんですが、入ってもいいですか?」


「おはよう。いいぜ。入学するなら知ってると思うが、ここに入る前にギフトカードの提示が必須だ」


 その話は前もって聞いていて知ってるので問題ない。


「はい。ギフトカードを提示しますね。『ギフトカード・オープン』」


ギフトカード

名前:アラン

位階:3

ギフト:努力


アクティブスキル

<ウェポンブレイク><五連斬り><五連突き>


パッシブスキル

<コンセントレーション><身体能力アップB><剣術B><槍術C><火魔法C><水魔法B><風魔法C><土魔法C><魔力操作C><魔法威力アップC>


「名前がアランで3位階、そしてギフトが『努力』か……これは聞いたことがないギフトだ。位階は並みだな。高い生徒だとすでに4とか5もいる。まぁ、そういう奴らは親が高名な冒険者とかだ。逆に1とか2もいるくらいだから、3位階は普通といえるだろ」


 門番の人は僕のギフトカードを見たと思ったら、一人でぶつぶつと言いだした。


「おっと、悪い悪い。見たことがないギフトだったから、つい、な? ここの門番には守秘義務があるから、俺から漏らすことはない。その辺は心配しなくてもいいぞ」


「はい。それは聞いていますので。では、門を通させてもらいますね」


 門番に軽く会釈をした僕は、そのまま門をくぐり抜けて冒険者学校敷地内へ入っていく。

 それにしてもスキルが他の人に見られないのはいいことだよなぁ。

 なんといっても、僕のスキルは結構増えて来てるから。

 僕は今見た自身のスキルのことで、昨日ヒュージさんに言われたことを思いだす。

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