第36話 全クラス対抗戦の内容
今日も今日とて、通い慣れた道を歩く僕は、冒険者学校に足を運ぶ。
校門をくぐり抜けた僕は、学校の敷地内をしばらく歩く。周りはいつも通り朝特有の喧噪にまみれている。
それらの様子を見ながら校内に入った僕は、1年のSクラスを目指した。
教室前にたどり着いてドアを開き中に入った僕は、いつも通りに声を出す。
「おはよー」
挨拶をしてから自分の席へと歩いて行くと、その席の近くに集まっていた三人が揃って声を出してくる。
「おう! アラン! 来たか!」
「おはよー! 今日もいつも通りの時間ね!」
「アラン君、おはよう」
「とうとう今日だね。例のアレは」
三人にそう伝えると、ゼベクトはにやりと笑う。
「ああ、そうだな。腕が鳴るぜ。楽しみでしょうがないよな?」
「うーん、私は普通かな? アラン君とキャサリンはどう?」
「私も普通かなぁ。それよりもアランは一体いつになったら、私に○○って言ってくるのかしら。思わせぶりな態度ばっかりとって……これが噂に聞くテクニシャン!?」
最近の彼女はいつもこのように、口パクを混ぜて一人で何かを言っている。
最初は戸惑ったものの、今では皆慣れたようで華麗にスルー。
「僕は……そうだなぁ。本当は個人戦もしたかったんだけどね。まぁ、それは来年の楽しみにするよ」
「そうだなー。俺もいい加減、アランに雪辱を晴らしたいんだが……」
僕に雪辱か。彼とは結構模擬戦をしてるけど、今のところ一回も負けてない。
でも、ゼベクトの攻撃も<縮地>も段々と熟練されてきてると感じる。
それに彼は<縮地>以外にスキルを使っていない。
ゼベクトと戦っている時に感じる雰囲気では、まだ奥の手がありそうな気がする。
ただ、彼が現状のようにそれを隠し続ける限りこのまま負けることはなさそうだ。
僕が<縮地>を見切って避けられるようになった今となっては、違うスキルも使ってくれたほうが嬉しいけど。
そうはいっても、ゼベクトのスキルを見ていると、僕の<縮地>の熟練度もかなり上がってきているように感じる。
色々なスキルを覚えて熟練度を上げたい僕としては、それはかなり嬉しいことだ。
だけど、そのスキルは当然のことながら、皆には見せていない。
そんな風にいつも通り四人で雑談をしていると、教室にオリガン先生が入ってきた。
彼は教壇まで歩いていき、教室内を見渡した後、その大きな口を開いた。
「本日も欠席はいないようだ。じゃあ、今日は予定通りに全クラス対抗戦の選抜メンバーを決める! 開催まで、あと1か月を切った。これは先日も言ったが、今年は団体戦で選出されるのは四人だ。来年は個人戦になり、再来年はまた団体戦になる。まぁ、3年の時の団体戦は一対一の勝ち抜き戦方式だけどな。今年は4対4で戦うから誤解するんじゃねーぞ! 今年からこの三つのタイプで毎年順番に回していく」
そうなんだよな。去年まではずっと個人戦だったって聞いたけど、今年からそれが変更になったらしい。
前々から案は出ていて、今年ようやく決まったって言ってたっけ。
僕が1年時は団体戦、2年時は個人戦、3年時は一対一での勝ち抜き方式の団体戦だ。
「以前、お前たちにはパーティー表を提出してもらった。今からそれらパーティーの入れ替えなどはないから、そこは安心してくれ。では、これから運動場へ向かうぞ! そこで団体戦の勝ち抜き戦をして、勝ったパーティーが選抜メンバーだ!」
先生の話が終わったので、僕を含めた生徒たちが席を立ち、運動場へと向かって歩き始めた。
◇◇◇
運動場へたどり着いた僕は、一つ疑問に思う。
勝ち抜き戦って言ってたけど、総当たり戦なのかな?
そうじゃないなら、絶対に最初に戦い始めたパーティーが不利だ。
いくら考えても、それに対して答えを持っていない僕は、オリガン先生に聞くべきか迷った。
そんな中、闘技台の上に上がった先生が、皆に向かって口を開いた。
「よし! これから勝ち抜き戦だ! 俺はいつも『身体学』の授業で皆を見てる。そのためある程度はお前たちの実力を把握している。それらを考慮して順番を決める。文句は受け付けないぞ! 俺に呼ばれた者たちは、それぞれのはパーティーで作戦会議をしていいぞ。そしてそれが終わったら闘技台の上に上がってこい!」
その言葉を聞いた僕は、驚愕する。だって、それはあまりにも不公平だから……
でも、冒険者をしていると思わぬ連戦もあるっていうし、しょうがないことなのかと自分を納得させる。
「アラン、ゼベクト、キャサリン、フローラのパーティーとトム、ヴィッセルト、ウララ、ジェシカのパーティーは準備ができたら闘技台の上に来い! この二組のパーティーが戦ったあとにも、次々に呼んでいく。呼ばれた奴らは作戦会議が終わり次第、こちらに上がってこい。当然のことながら、負けたパーティーはそこで出番終了となる。そうなった者は、その後の戦いを見て勉強しておけ」
うーん、いきなり僕たちのパーティーか。
僕は問題ないとしても、他の皆はどうなんだろう?
そう思い、すぐ横にいる三人の顔を見渡すと、げんなりとしたような顔をしていた。
「はぁ、オリガン先生もひでーな、容赦ないってのはこのことだ」
「そうね。いくら私が優秀だからって……参加パーティーは五組。ということは、4連勝しないといけないわね」
「アラン君がいるから大丈夫でしょ?」
そう言ってフローラは、小首を傾げながら僕に微笑んできた。
この攻撃にもようやく慣れてきた。最初の頃は破壊力があり過ぎて困ったものだったけど……って今もそれは変わらないが、きっと僕に耐性が付いたんだろう。
そうはいっても、僕のギフトカードには魅力に抗う耐性は載ってない。
一応、耐性系のスキルとして<物理攻撃耐性>と<魔法攻撃耐性>はパッシブスキルにある。
これらのスキルを取得できたのは凄く嬉しかった。
それらの耐性が明らかに高いと思う人と『身体学』の授業中に戦えたからこそ当たったからこそ、もしかして? と思って取得できたんだし。
耐性系はよほどスキルレベルが高くないと目立たないのだろう、ヒュージさんでさえ知らなかったスキルだ。
そうやって考え事をしていると、再び彼女が口を開いた。
「アラン君?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」
「そうなの?」
うっ、上目遣い攻撃は止めて! それはまだ耐性が完全に付いてないんだ!
「おいおい! 俺もいること忘れるなよ! 二人でイチャイチャしてんじゃねーよ!」
「ア、アランがイチャイチャしたいのは○○○によ! でも、アランはサドだから、○○○をイジメたくなるんだっけ? でも、私はマゾじゃないし、でもでも……」
いつも通りに意味不明モードに突入したキャサリンを、僕たちは優しい目で見守る。
すると、彼女は正気を取り戻したようで、顔を赤くしたまま唇を動かす。
「こ、こほん! な、なんでもないわよ? ちょっと作戦を考えてただけよ! 作戦はこうね! ゼベクト肉壁大作戦! 私たちへの攻撃は全部あなたがカットすること! そして、私たちは全員攻撃よ! 以上!」
「おいおい! そりゃないだろ!」
「僕はどうでもいいよ。まぁ、そんなことしなくても、フローラとキャサリンには攻撃を通させないよ。ちゃんと僕が守るからさ」
そこまで言ってから僕は二人に微笑みかける。
パーティーメンバーなら守るのは当然だ。
それにこのクラスのほとんどの生徒とはすでに戦ったことがあるので、相当強いって感じるのは二人か三人程度しかいないというのもわかっている。
そうはいっても、スキルを全部使っているかどうかわからないから、もっといるかもしれないけど。
ん? なんか静かになってるな。どうしたんだろう?
そう思って皆を見てみると、なぜかフローラとキャサリンは、僕を見つめて頬を紅潮させて放心していた。
ゼベクトを見てみると、何か苦虫をかみ潰したような顔をしながら「ちっ、これだから自覚のない奴は困る。なぜ俺には春が来ない……」と呟いていた。
「皆どうしたの? 大丈夫?」
その声に気が付いたのか、二人は正気を取り戻したようで、少し慌て気味に口を開いた。
「ア、アラン君が素敵なことを言ってくれたから……びっくりしてね」
「アラン! やっぱり私のことが○○なんじゃない! そうよね! うんうん、知ってたわ!」
「けっ」
素敵なことを言ったつもりはなく、当り前のことを言っただけなのに、この反応はなんだろう?
それはそれとして、キャサリンは本当にその口パク上手いよね!
まさか口パクってスキル持っている? わけないよね……
そして、ゼベクトに至ってはなぜか悪態をついていた。
僕の言葉に対して、三者三様の反応を見せることに疑問を感じたけど、今はそれよりも勝ち抜き戦だ!
「そろそろ行こうか? オリガン先生も待ちくたびれてるよ」
「「そうね」」
「おう!」
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