第35話 スキルの習得
「はっ!」
地面を蹴った僕は、超加速をしてヒュージさんの腹部に蹴りを見舞う。
「ぐっ!」
それを受けた彼は数歩後ずさる。
その機を逃すことなく、さらに連続でスキルを発動した。
そうすることで瞬時にヒュージさんの裏へ回り込んだ。
相手の首を目掛けて蹴りを放った僕は、当たる寸前でその勢いを止める。
「はぁ、もう完璧じゃねーか? ここ数日、ずっと練習していた甲斐があったな」
彼の首に当てていた足を下ろした僕は、彼に畏敬の念を込めて言葉を発する。
「うん。なんとかね。思ったより早く習得できて良かった。一人だと発動までの練習くらいしかできないからね。戦いに組み込むとなると、やっぱり相手がいないといまいち感覚がつかめないから、ヒュージさんには感謝してもし足りないよ!」
「よせよせ。もともとは俺が好きでアランの相手を始めたんだ。まっ、感謝してくれるのは嬉しいし、悪い気分じゃないけどな」
頭をぼりぼり掻いて照れ臭そうにしている彼は、そう言って笑みを浮かべた。
「他にも何か試したいスキルはあるのか? 最近俺は冒険者稼業の方に時間を取られていて、あまりお前を見れてないからな」
「うーん。一応あることはあるかなぁ。ただ、もう少し形になってから見せるよ。次はスキルを使用しないで、模擬戦の相手をしてもらってもいいかな? あ、ヒュージさんは使っても大丈夫だから。僕は体術の練習をしたいんだ」
「おう! いいぜ! 俺がスキルなしだとアランの練習にもならないしな! そんなお前の才能が羨ましくもあるが、それ以上に嬉しいぜ? こうやってどんどん強くなっていくのを間近で見られるっていうのはな」
そう言って僕を見つめてきた彼の目は、どこまでも優しいものだった。
「それじゃあ、いくね?」
「おう! いつでもこい!」
◇◇◇
「はぁ、はぁ、はぁ、アランは体力も相当上がってきてるな。すっかり俺よりあるじゃねーか」
疲れて切って地面に倒れ伏しているヒュージさんは、そう声をかけてきた。
それに対して僕は少し疲れた程度なので、地面に座りながら彼に返事をする。
「まだまだだよ」
「今戦った様子だと、もう体術スキルもありそうだな」
「うん。この前新しく増えたかなぁ。あとは、今戦ってて途中から連打が少しスムーズにいくようになったから……おそらく、アクティブスキルも増えたんじゃないかな? 確認してみるね。『ギフトカード・オープン』」
ギフトカード
名前:アラン
位階:3
ギフト:努力
アクティブスキル
<ウェポンブレイク><五連斬り><五連突き><五連打><五連蹴撃><縮地>
パッシブスキル
<コンセントレーション><身体能力アップB><体術E><剣術B><槍術C><火魔法C><水魔法B><風魔法C><土魔法C><魔力操作C><魔法威力アップC>
「うん、増えてる。『ギフトカード・クローズ』。アクティブスキルもどれくらい熟練してるかわかるように、表記があればいいのにね」
「あぁ、それなー。誰しもが思うことだ。アクティブスキルの熟練度は自分で確認して、体感で感じるしかない」
「うんうん。そういえばさ、前にヒュージさんは人のスキルを見て覚えたものは、冒険者学校では気軽に使わないほうがいいって言ってたけど、やっぱり今もそう思う?」
疲れが取れたのか、彼は上半身を起こして地面に座ってから口を開く。。
「まぁ、そりゃそうだな。いくら冒険者がギフトの詮索を禁止しているとはいえ……あれ? これ俺言ってたっけ? アランに言った記憶があるような、ないような……」
「それは聞いてなかったよ。オリガン先生っていう担任の先生に教えてもらった。あまりに酷く詮索したりすると処分もあるとか?」
手を額に当てて申しわけなさそうな表情をしているヒュージさんは、一つため息をついてから口を開いた。
「あちゃー、言い忘れてたか。すまない。もう先生から聞いてるなら詳細は言わなくてもいいな。お前の言う通り最悪は退学だ。俺が冒険者学校に通ってたときは、そういう奴らもいたぜ? 無理にパーティー勧誘しようとしたみたいでなぁ。相手の子がめちゃくちゃ可愛かったのもあるんだけど」
「へぇ、そうなんだ。そんなことをして冒険者学校を退学になるなんて、深く考えなさ過ぎだよね」
「ああ、そうだ。冒険者学校は冒険者ギルドの下部組織なので、当然ギルドは学校の情報を持っている。だからそうやって退学になった奴らが15歳になってギルドに登録しに行くと、ほぼ受付で撥ねられる。門前払いってやつだ。まぁ、よっぽど更生して、何か偉業でも打ち立てたらそんなこともないだろうが、15歳でそんなことをする奴なんていないしな」
学校はギルドの下部組織だから、普段の行いがあまりに悪かったらその評価がそのままギルドに伝わるってことか。
「じゃあ、その退学になった人たちは冒険者になれなかったの?」
「んー、そこまでは知らんな。俺も仲良かったわけじゃない。ただ、俺が冒険者になってからは見かけてないから、おそらくなれなかったんじゃないかと思うぞ」
「そろそろご飯よ! 戻って来てー」
家の裏で雑談していた僕たちを呼びにママが来た。
「よっこらせっと。話はここまでにして、家に戻るかー」
「うん」
◇◇◇
「アラン、手を洗いたいからタライに水を入れてくれるか?」
「はーい。――『水よ』」
彼に返事をした僕は、即座に魔力操作を行い、水を出すだけの言葉を呟いた。
その言葉とともに虚空に水が現れ、それがタライ目掛けて落下していく。
ヒュージさんが手を洗ったあとに、僕も同じように手洗いをする。
「はいはい。手を洗ったならご飯を運んじゃってねー。ヒュージさんは休んでていいわよ」
「おう。そうさせてもらおうかな」
「はーい」
キッチンのほうへ行き、僕はせっせとご飯を運ぶ。
出来たてのそれを見ていると、今日のご飯も美味しそうで思わずつまみ食いしたくなった。
それをなんとか我慢した僕は、二人と一緒に席に座る。
そうして僕がご飯を食べ始めたところで、ママがこちらを向いて口を開いた。
「今日はアランちゃんが入学してから初めての休日ね。この一週間学校に行ってみてどうだった? 途中途中で話は聞いてるけど、改めて一週間を振り返って思ったこと、感じたことを教えてくれるかしら」
一週間かぁ、あっという間の六日間で凄く早く感じた。あっ、学校に行ったのは五日間だ。
うーん、毎日聞かれるからある程度のことは言ってるんだけど。
でも、振り返ってみてだから前と同じようなことでもいいのかな?
「うーん。『身体学』は色々な生徒と模擬戦ができるから楽しいし、凄く勉強になるよ。『冒険学』もヒュージさんから教えてもらって重複している部分はあるけど、それ以上にさまざまなことを知識として得られている。『魔法学』も同じような感じだね」
「あなたは日々成長していくのね」
優しい目で僕を見つめているママは、うんうんと頷いてそう言ってくれた。
「ところで……学校には可愛い子はいたの?」
ママの言葉で僕はすぐにフローラの顔を思いだし、次にキャサリンの顔が浮かんでくる。
んー、キャサリンのほうは可愛いとは思うけど、特に好きとか嫌いとかないんだよね。
でも、最初に会ったときと印象が変わってきてるかな? 変な口パクはするし、やたら顔を赤くするときがあるから、少し変な子ってイメージがついてきた。
フローラは……うーん、考えると僕の顔が赤くなるし、心臓がドキドキする。
「可愛い子はいたよ」
その言葉を聞いたママは、少しびっくりしたような表情をしてと思ったら、すぐにそれを変化させる。
彼女の口元には歪んだ笑みが浮かび、目は細められている。そして、ゆっくりと口を開いた。
「へぇー、そうなんだ? ママからアランちゃんを奪おうとする女がいるのね? うふふ……うふふ……どうしてくれましょう?」
いつもの明るくて高い声ではなく、お腹に響いてくるような低い声をママは出した。
どこからそんな声が出たのか……
昔、ママの笑顔が少し怖いかな? って感じたことがあったけど、今日の彼女はそんなのと比べものにならないほどだ。
その顔を見ていた僕は、なぜなのか良くわからないけど、背筋が凍りそうになる。
僕は生まれて初めてこの人に恐怖した。
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