第34話 友達の作り方

 それからしばらくの間、他の生徒が模擬戦で戦っている様子を観察する。

 それを見ていると、気軽にスキルを使う人がいる一方で、なかなか使わない人もいた。そこから感じられたのはスキルの扱い方には個人差が結構あるということだ。

 気軽に使う人は簡単に見えるスキルを多用している気もする。

 それは主に、<二連斬り>や<三連突き>の連続攻撃系だ。これらは取得すでに取得しているのでそれらを見ていても特に収穫はない。

 また生徒たちはそれぞれがさまざまな武器を持って戦っているので、その独特な武器の使い方や足さばきなど学ぶべき点が多い。


 各個人のギフトはわからなくとも、それぞれの種族には基本的に得意なことがあるので興味深く観察する。

 人族は良くも悪くも基礎が平均的で、これが得意というのはないが、逆にいえばどのような方向にも伸びていける。その辺はギフトも関わってきてしまうけど。


 気になる生徒たちの模擬戦を一通り見終わった僕は、ゼベクトたちの様子が少し気になってきた。

 そのためすぐに彼らの様子を見ようと周囲を見渡し始めた僕は、とある闘技台の上にいるゼベクトを発見する。

 彼はそこで獣人族の男の子と戦っていた。


 さっき僕と戦っていた時に使用したスキルを駆使して戦闘しているゼベクトは、その戦いを優勢に進めていた。

 彼の動きを遠目に見て僕は考える。

 さっきの対戦では実際に対峙することで色々と得られるものがあった。あのスピード感やちょっとした仕草は模擬戦で戦っていたからこそ感じたものだ。

 だけど、こうやって少し離れた所から他人の動きや技を、色々な角度から大局的に見るのも大事だと思う。

 それによって総合的に判断できることも増えていくのだから。

 そう判断した僕は、すぐゼベクトが模擬戦をしている闘技台の側へと駆け寄る。


 僕が見に来たことに気が付いた様子の彼は、こちらに一瞬視線を向けてきてニヤリと笑った。

 そして、次の瞬間にはあのスキルを発動する。

 一気に相手の懐に潜り込んだゼベクトは、強烈な蹴りを相手の腹部へ放つ。

 その蹴りで相手が吹っ飛ぶと同時に、再びあのスキルを使用して獣人族に追いついた彼は、止めと言わんばかりに蹴りで連続で放った。

 相手の男の子がその攻撃を受けた結果、ゼベクトと逆方向へ吹っ飛んでいき、完全にダウンしてしまう。

 獣人族の子気を失っているのだろう。なぜなら白目をむいている。

 片手を掲げてガッツポーズをしている勝利者の彼は、こちらを向いてブイサインしてきた。


 そんなゼベクトのことはスルーをして、今の戦いについて考えていた。

 僕は基本的に剣系と槍を使っているけど、いつもいつもそれがあるとは限らないし、何かの危機に陥って武器を持っていない状態になるかもしれない。

 そうなると、やっぱり無手のときの戦い方ももう少しこなせるようにしておいたほうがいいだろう。

 あまり種類を増やし過ぎると器用貧乏になるからってことで、今までは扱う武器を二つに制限していたけど……

 器用貧乏になりすぎないように、引き出しを多く作っていくのはバランスが難しい。だけど他の武器はともかくとして、無手での戦闘方法を磨いておけばいずれ役に立ちそうだ。


「おいおい! アラン、スルーするなよー! 俺が一人でガッツポーズとブイサインしてるみたいで恥ずかしいだろ?」


「えっ? 実際に一人でしてるじゃん?」


「まぁ、そうだけどよ! そこはあれだ! 『おお! さすが俺の親友のゼベクトだ! 格好よかったぜ!』とか言ってくれないとよ!」


 親友って友達のさらに親しい間柄だったよね。いつの間にか僕らは友達になっていたらしい。


「僕と君はもう友達だったの?」


 その言葉を聞いたゼベクトは、心底驚きに満ちた顔をしている。

 そんな顔をしたままの彼は、僕に視線を向けてきた。

 それはまるで『何言ってるんだこいつは!』と目で語っているかのようだった。


「はぁ、なんかお前って強いのに抜けてるっていうか、ズレてるってえばいいのか。んー、マイペース過ぎるのかな? 良くわからないけど、そんなところがあるよな?」


「えぇ、そうかな? まぁ、でも僕はずっと友達がいなかったから、それがどういうものか良くわからないんだ。だからかもしれない」


「なに!? お前そういうことは早く言えよな! 寂しいぼっちだったのかよ! 可哀相に……」


 闘技台の上から急いで降りてきたゼベクトは、僕の横に来て肩を組んできた。


「よしよし、これからは俺が友達になってやるからな!」


 うーん、こいつは少し暑苦しい気がする。しかもなんか汗臭い!

 彼の手をやんわりと自身の肩から払いのけた僕は、少し距離を取る。


「おいおい! 恥ずかしがって逃げるなよ!」


 違う違う! ちょっと臭いだけだよ! さすがにそう伝えたら傷付けるかなと思って言わないけどね。

 そんな風にゼベクトとじゃれ合っていた僕は、視界にあの二人が入ってきたことに気が付く。


「ちょっとー、二人で何してるの? ――えっ!? ゼベクトがアランを襲おうとしてる?」


「ゼベクト君、止めてあげて? アラン君が嫌がってるでしょ?」


「おいおい! ひでぇな、おめーら! こいつは嫌がってなんていねーよ!」


「はぁ、あんた……かなり臭いわよ?」


 僕が言ってはいけないと思っていた言葉を、キャサリンいとも簡単に言い放った。

 その言葉を聞いたゼベクトは、今にも泣きそうな顔をしている。

 そして、「う、う、うっせー! ふん! 少し身体を拭いてくるから待ってろよ!」と言って走り去ってしまった。

 まぁ、今はあいつのことは放っておいてもいいかな。それよりも気になることがある。


「二人はさっきから一緒みたいだね? もう友達になったの?」


「ええ、そうよ。フローラはいい子だから。なによりも可愛いし」


「キャサリンこそ可愛いしいい子よ?」


 なぜか二人で意気投合していたのを見てびっくりした僕は、実は二人が前から知り合いなのかも? という疑問を抱く。


「二人は学校が始まってから初めて会ったの? それとも学校に入る前から知り合い?」


「学校に入ってからよ」


「うん」


「それなのにもうそんなに仲良しなんだ。あっ、二人に聞きたいんだけど、友達ってどうやって作るの?」


 この前キャサリンに聞きそびれたことを、ついでとばかりにフローラにも聞いてみる。


「私たちは特に何をすることもなく、なんて言うか波長が合ったっていうの?」


「ええ、そんな感じね」


 二人で波長が合うとか言ってるけど、それってどんな感じなんだろう?

 僕からしたらママやパパやヒュージさんみたいな感じなのかな? 考えてもまったくわからない。。 


「二人の波長が合ったっていうのはわかったけど、それ以外だと普段はどうやって友達を作ってるの?」


「うーん、普段かぁ。――そうね。私が気に入った子がいたら、『あなた、私の友達になりなさい!』って言って友達にするわね」


 キャサリンがそんな恐ろしいことを言った。

 それは明らかに脅しだと思うのは、僕だけじゃないと思う……

 僕が訝しげに見ていることに気付いた様子のキャサリンは、焦ったように口を開く。


「ア、アランにはそんなことを言わないわよ? それよりも、あなたは私のことを○○ならちゃんと言うべきよね。『キャサリン俺の○○○○になってくれ』とか……彼がそんなこと言っちゃったりして……きゃー! きゃー!」


 再び彼女の意味不明な言動が始まった。

 なんかこの子って特定の箇所だけ声を出さないで、口パクしてるから聞き取れない部分がある。

 さっきは特定の言葉だけ小声だったのかと思ってたけど、今見ていて確信した。

 なぜ口パクをするのか良くわからないけど、まさか普通に会話してる時にそんなことをするだなんて思ってもみなかったから、気が付かなかったよ……


「きゃー! きゃー!」 言ってるわけのわからない彼女は放っておいて、次はフローラが教えてくれるかな? と思った僕は、恥ずかしいのを我慢して彼女の目を見つめる。

 すると、フローラはほんのりと頬を赤くしつつ口を開いた。


「私は……そうね。正直にそのまま言葉に出すわ。『私の友達になってくれない?』って、こうやってね」


 そう言って彼女は僕に上目遣い攻撃をしてきた。

 くっ! な、なんて強力な技なんだ!

 こ、これは確かに……友達があっさりと出来てしまってもしょうがないかもしれない!

 それだけの威力を誇っている! でも、僕は負けないぞ!


 僕がフローラにタジタジにされていて、キャサリンが「きゃー! きゃー!」と言っている場にゼベクトが戻って来る。

 あ、ついでに彼にも聞いてみよう。

 決して上目遣い攻撃を避けるためじゃないからね! と自分で自分に言いわけをしつつ、ゼベクトに声をかける。


「おかえり。君は友達はどうやって作ってる?」


「おう! ただいまだ! 急にどうした? まぁ、答えてやるけどよ。俺はそうだなぁ。殴り合ったらもう友達だ! それよりどうよ!? 俺はもう臭くないか!?」


 こいつは殴り合ったら友達なのか。なんか違う気もするけどそこは個人個人の差ってやつかな。

 こうして聞いてみると友達の作り方も三者三様だ。

 一番まともに感じるのはフローラだと思う。まぁその分、威力も一番高いけど……

 それはそれとして、今僕は思っていることがある。それは口に出せないけど――


「あら、ゼベクト戻ってたのね。あんた……まだ臭いわよ?」


 言えない僕の言葉を、キャサリンが代弁してくれた。

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