第37話 選抜パーティー決定戦

 闘技台の上に上がっていき、対戦相手であるトム、ヴィッセルト、ウララ、ジェシカを観察する。

 いつもの模擬戦と同じく、トムが右手に片手剣、左手に盾を持つ。

 ヴィッセルトは大きな斧を両手で持っていて、ウララは弓の調子を確かめている。

 ジェシカは杖を持っている。彼女は主に魔法を使うから、それをまともに食らわないように注意しないとね。

 本番の全クラス対抗戦では、ダメージを肩代わりしてくれるっていう結界を張るらしいけど、この選抜決定戦ではないという。

 そんな風に考えていると――


「はぁ、結界がないのが辛いなぁ」


 ゼベクトも同じことを考えていたようだ。


「まぁ、あれは1日しか持たないし、なんといっても高いらしいからしょうがないんだけどなぁ。それよりも、皆いつもより本気を出してくるだろうから……気を付けないといけない。あまり手加減して相手をしていたら、怪我が増えるから一気にやっちまおうぜ!」


 確かに彼の言う通りだ。普段の模擬戦では、皆ある程度は抑えていると思う。

 一応治療師はいるけど、それでも大怪我をしたら大変だ。

 木製の武器なら、よほど当たりどころが悪くない限り大丈夫だけど、威力が高い魔法だとそうはいかない。


「ええ。そうね。一気にやるわよ! アラン任せたわよ!」


 片手剣を持ったキャサリンは、力強く宣言した。。

 それに続いて、手にしっかりと杖を握っているフローラも口を開く。


「アラン君。頼りにしてるね? ゼベクト君も一応頑張ってね」


「一応かよ! 最近まじで俺の扱いが酷くない!?」


 こいつはそう言いつつも顔が笑ってるから、嬉しいんじゃないかな? こうやって雑に扱われるのが好きなのかな? まぁ、今はそんなことはいいか。僕もしっかりやらないと。

 くだらないことを考えるのもここまでだと、気を取り直した僕は、両手で大剣をしっかりと握りしめて構える。


「よーし、準備が整ったようだな。では始めるぞ! 両パーティーともに、やり過ぎには注意してくれ。――それでは試合開始!」


「<ファイアアロー>!」


 開始の合図と同時に、ジェシカが魔法を唱えた。

 彼女から放たれた炎の矢が、キャサリン目掛けて飛んでいく。


「<ウォーターウォール>!」


 僕が魔法を唱えるとキャサリンの少し前方に高さ2メートルほどの水の壁が出現して、炎の矢はその壁に吸い込まれて消えていった。


「アラン! ありがと!」


「じゃあ、一気に行ってくるよ!」


 僕は彼女に声を掛けてから駆けだす。

 走りながらちらりと視界に入ったのはトムとヴィッセルトを相手に、上手く攻撃をいなしながら立ち回っているゼベクトだ。

 さらに、彼の後方からフローラが魔法を撃って援護している。


 僕の狙いは――ウララとジェシカだ。

 ここはやっぱり遠距離攻撃ができる人から潰さないとね!

 僕が徐々にジェシカに近付いていくと、斜め前方から弓矢が数本飛んで来る。

 それを構えた剣を振るって撃ち落とす。

 さらにスピードを上げて、一気にジェシカの懐へと潜り込む! その瞬間――彼女は至近距離から魔法を放とうとする。

 ジェシカの「<ウォーターボール>」という言葉とともに、突如僕の目の前に水の球が現れた。

 それにに当たらないように、姿勢を低くして彼女の脇を抜けてジェシカの後方へと移動する。


「これでまずは一人!」


 そのかけ声とともに<五連斬り>を相手に放つ。

 隙だらけの背中にそれを食らったジェシカは場外へと吹っ飛んでいく。

 大剣を振り終わった僕は、即座に周囲を警戒する。すると矢が数本飛んできたので、それを回避しつつ、今度はウララ目掛けて突き進む。

 彼女は弓を放ちながら、僕との距離を維持したいようだけど……残念ながら、ウララのバックステップとこちらの移動速度を比較すると、その違いは明かだ。

 彼女にその距離を維持させることなく、すぐに間合いを詰める。

 ウララの武器は近距離攻撃に向かない弓だ。それなら接近してしまえばもうこっちのものだろう。

 彼女の懐に潜り込んだ僕は、中段に大剣を振るってジェシカの腹部を強打する。

 すぐに相手のうめき声が聞こえてきたが、目がまだ死んでいない。

 それを見た僕は、油断することなくさらに追撃を加える。

 少しかがんだ状態になっているジェシカの脇腹に、もう一度大剣を叩きこむ。


「これで決まりだ!」


「きゃあああ」


 ある程度の力を込めてウララの脇腹を攻撃したため、彼女もジェシカ同様に場外へと吹っ飛んでいった。

 二人ともちゃんと防具を着用しているし大丈夫だろう。

 痣ができるかもしれないけど、それもすぐに治療師の<ヒール>で治ると思う。

 二人を倒した僕は、視線をゼベクトたちに向ける。

 すると、あっちも決着がついたようで、トム、ヴィッセルトは膝をついていた。

 あっちは、三人一緒になって戦っていたのかな? その戦い方は見ていなかったけど、彼らに怪我はないようだし、おそらく一気に倒したのだろう。


「よし! そこまで! アラン、ゼベクト、キャサリン、フローラのパーティーの勝ちとする! ってか長いな。何かパーティー名を考えさせるか? いや、本番ではどうせ学年とクラスで呼ぶんだからいらないな。アランたちは少しだけ休憩してていいぞ。休憩のあとに続きをするから、ちゃんと休んでおけよ」


 パーティー名とか僕は考えるのが苦手だったから、それを決めないでいいのは楽でいい。

 もし、決めないといけないんだったら三人に丸投げしてたところだ。


「お前の活躍は見てたぜ。さすがの活躍だった」


「ふ、ふん! か、格好よかったわよ? さすが○○○のアランね!」


「一気に二人を倒して凄かったわ! いつも通り格好いいね?」


 三人から褒められるためにやってるわけじゃないけど、こうやって素直に褒められると少し気恥ずかしくなってしまう。


「君たちのほうこそさすがだね。怪我することなく二人を倒しているじゃないか」


「まぁ、それくらいはしないとな?」


 指で鼻の下をこすっているゼベクトは、気恥ずかしそうに言った。


「あんたはいい感じに肉壁してたわよー! 次からもそれをお願いね!」


「これからは肉壁君って呼んだ方がいい?」


「お前ら止めろよ! おい! アランもなんとか言ってくれよ!」


 フローラとキャサリンはそう言いながら笑っていた。


「ははは、ははは」


 そんな光景を見ていると、僕もおかしくなってきて、ついつい笑ってしまった。


「おいおい! アランまで笑うんじゃねーよ!」


「あー、なんか楽しいかも。これが友達っていうのかな?」


 僕の言葉を聞いた三人は、全員が全員呆れた顔をしていた。そして、少しの間を置き彼らは口を開く。


「いまさらかよ!」


「いまさらなの!」


「えー! アラン君、遅いよー」


「休憩は済んだか? そろそろ始めるぞ!」


「「「「はい!」」」」


 ゼベクト先生の言葉に、僕たちは全員大きな声で返事をした。


◇◇◇


「ふぅ、疲れたなぁ」


「そうだね」


 闘技台の上に横になりながら言ったゼベクトの言葉に、僕は同意する。

 まぁ、僕は言うほど疲れてないんだけど。


「これで私たちが選抜パーティーね! わかってたけど!」


「本番も頑張ろうねー!」


 闘技台の上に座っているフローラとキャサリンは、そう言って談笑している。

 それにしても、この二人は可愛いから、こうやって並んでいると本当に絵になっていて見惚れてしまう。

 そうやって雑談していると、オリガン先生がこちらに近づいて来る。


「アラン、ゼベクト、キャサリン、フローラ。勝ち抜きおめでとう。俺の目に狂いはなかったようだ。選抜パーティーになると思ったからこそ、初戦を任せたんだぞ」


「えー! オリガン先生のせいで俺は疲れたよー!」


 いじられ役の彼は、先生に悪態をついていた。

 だけど、こうして団体戦で連続して戦ったのはかなり経験になったこともあり、僕は逆に嬉しかった。


――次は約一か月後の本番か。果たしてあの四人は出てくるのかな?

 あのときの因縁を――そこで清算できるといいんだけど……

 僕はよく晴れた青空を見上げながらそう考えた。

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