第44話 決勝戦 前編
第一闘技台に上がった僕たちは、少し遅れてやって来たゼリオンたちと向き合う。
そんな僕たちの間に入って、グラント先生が口を開く。
「泣いても笑ってもこれが最後の試合、決勝戦だ! お互いに悔いのないように戦ってくれ。あと、言ってなかったが、今日は他校から特別ゲストも来ている。まぁ、何かしてもらうとか、何かするとかはない。ただ、皆の戦いを見ているだけだ」
他校からのゲスト? 誰だろう? まぁ、他校との交流試合みたいなのもないみたいだし、あんまり気にしなくてもいいかな。
「それでは始めるぞ! 試合開始!」
そう口にしてグラント先生が離れていくと同時に、ゼリオンが僕に向かって来た。
さらに彼の横から<縮地>を使ったゼベクトが迫る。それをゼリオンはギリギリ避けて距離を取った。
「ふーん、なかなかやるじゃねーか。お前は素早くなるいいスキルを持ってそうだ。だが、素早いだけじゃだめだぜ?」
ゼリオンはそう言うと、斧を振り回してゼベクトに向かっていく。
僕も人の戦いばかり見ているわけにはいかない!
「三人とも! ここは任せたよ!」
「「任せて!」」
「おう!」
皆の返事を受けた僕は、狙いをライアルとキャメリーに絞る。
あの二人は『魔法使い』と『僧侶』だから先に倒しておかないと、後々きつくなるだろう。
一気に駆けだそうと左足に力を入れた瞬間、左足に痛みが走る。視線を太ももにやると、そこには木のナイフのような物が浅く突き刺さっていた。
すぐにそれを引き抜き、痛みを我慢して魔法を使う。
「<ヒール>」
これをやったのは多分『シーフ』であるオリーブだろう。彼女はギフトの特性上、存在感が薄い気がする。
そう分析していると、さらに木のナイフが飛んでくる。それらを剣で叩き落としながら彼女の居場所を探る。
しかし、そんな暇はなかったようで僕の足元が赤く光り、爆発の兆しを見せる。これは<エクスプロージョン>か。すぐに足を動かして避けようとしたが、少しだけ爆発に当たってしまう。
「ぐっ!」
さらに追い打ちとして、唸りを上げて僕に<ウィンドアロー>が飛んで来た。
それを目視した僕は、一気に魔力を練り上げて――
「<ファイアウォール>! <ヒール>!」
先ほど魔法で受けた傷をなんとか治し、<ウィンドアロー>も防いだ。
「ふん、これくらいじゃ沈まないか。まぁ、いい。ここらで大技を使ってやる。オリーブ! アランをこっちに近付けるなよ!」
そんな彼の言葉にオリーブは返事を返さなかった。声を出してくれたらすぐに居場所を特定したというのに。
そう考えている間にも、多分これはキャメリーからだろう、彼女から途切れることなく<ウィンドアロー>が飛んで来る。
それにはさほど魔力を込めていないようで、威力としては大したことがないのだが……それでもこうやって絶え間なく撃ち続けられると、正直鬱陶しいという気持ちしかない。
ここに三人がいるってことは、ゼベクトたちはゼリオンとやってるのか。あいつは一人で三人を相手にしているんだな。
それなら僕も負けるわけにはいかない!
そんな気持ちと裏腹に、現実はなかなか上手くいかないようで、魔法と木のナイフを避けるので精一杯になっている。
オリーブはいったい何本ナイフを持っているんだ? そんな疑問を持った瞬間――もしかして? という考えが頭によぎる。
前にヒュージさんから聞いたスキルがある。それは武器の幻を作りだしてそれを幻として見せるものだ。
一応習得してみようとしてみたが、そのスキルが見たことがない以上、いまいち理解しきれなくて習得できなかったが……
そんな僕の考えを邪魔するべく、なおも<ウィンドアロー>やナイフが飛んで来る。
ナイフは数回当たらないと幻かどうか判断できないな。あれは精巧になっていけば影も映るっていうし、実際にオリーブが投げているナイフは、さっきから見ていても全てに影がある。
「よーし! いくぜええ! <クリムゾンノート>!」
あれはマズい! 咄嗟に魔力を多めに消費して魔法を使う。
「<ウォーターウォール>!」
そう言ったと同時に、僕の四方八方には高さ二メートルほどの水の壁が出現した。
まさかライアルが<クリムゾンノート>を使ってくるなんて。あれは上から四番目に強い魔法のはず……
さすが『魔法使い』保持者だけはあるってことか。
「ふぅ、今この間なら全ての攻撃は防げるな。ただ、これは持っても30秒がいいところか……」
どうする? このままじゃ正直ジリ貧だ。ここまで見事な連携で三人に攻められると、こっちから攻めるのは正直きつい。
個々の能力は明らかにヒュージさんより劣っているといっても、同時に三人を相手にするのはやはり厳しいものがあるな。
「まぁ、それもこれもスキルを使わなきゃって話だけど……」
僕はそう呟くと同時にスキルを使う決意をする。どうせこのままじゃ守りで手一杯になってしまうんだ。
ゼベクトたちの方も気になるけど、今はそれどころじゃないし、なんとかこっちを片付けてから応援に行きたい。
「そろそろ30秒経つかな」
その言葉とともに僕は落ち着いて深呼吸をする。
そして剣を握り直し、水の壁が消えて視界が晴れたと同時に――すぐに相手を補足するべく視線を細かく動かす。
「見つけた! いくぞ!」
即座に<縮地>を発動し、僕は一瞬でライアルの背中に回り込んだ。こいつは今の動きを目で追えていない。
急に消えた僕を探すのに必死になっている。
振り上げた剣をライアルの脳天目がけて振り下ろす。しかし――鈍い音とともに、僕の手に鈍い痛みが走る。
ピンポイントに投げナイフで僕の手を攻撃してきたか。
「ちっ、いったいいつの間に来たんだ? オリーブ」
「はぁ、危ないねぇ。アラン強くなったじゃん?」
「オリーブ! ありがとよ! アラン! 背中から狙うとは卑怯者め!」
「はぁ? それなら三対一は卑怯者にならないの?」
別に背中から攻撃しても三対一で戦っても、どっちも卑怯者とは思わないが、無意識に僕の口が動いてそんな疑問をライアルに投げかけていた。
すると、僕の言葉を聞いた彼は嘲笑しながら口を動かした。
「あーはっはっは。アランはおかしなことを言うな? 面白いぜお前は。こっちは調子に乗ってるお前を成敗してやるんだ。俺たちが正義な以上、こっちがどんな手を使っても卑怯者になることはない!」
そんなトンデモ理論を大真面目に言ってるんだと思うと、僕は彼のことが逆に可哀相になってきた。
「ライアルは……頭が残念な子だったんだね! 大丈夫だよ! 僕がその頭を強打して、少しはまともな思考ができるようにしてあげる!」
とは言ったものの、どうするかなぁ? ライアルとキャメリーから倒そうとすると、またオリーブが邪魔してきそうだし、しょうがないからおっぱいがない彼女を先に倒すとしますか。
うーん、ついでに少しオリーブに冷静さを欠いてもらおう。これを言えばきっと彼女は冷静じゃいられなくなるはず。
「オリーブってさー!」
僕は大声で彼女に話しかけた。
「なによ?」
「そのおっぱいは板みたいに固そうだけど、君って本当に女の子なのー? あっ、本当は男の子?」
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