第43話 決勝戦前

 僕は地面に伏した相手を見下ろす。そして、その相手が武器を手放し口を開く。


「こ、降参だ!」


「ふぅ。これで次は決勝戦かな。相手は……」


 僕たちが出場した準決勝は2年Aクラスで、3年Aクラスより楽に勝てた。

 第二闘技台の準決勝は3年Sクラスと3年Bクラスで、ゼリオンたちが楽に勝ち進んでいる。

 とうとうあの四人と戦う時がきた。


「よーし。決勝前に少し休憩を入れるぞ。決勝に進出した2チームは、30分経過したら第一闘技台に上がって来い」


 そうして両試合が終わると、グラント先生のそんな声が聞こえてきたので僕は身体から少し力を抜く。


「アラン、休みましょ」


「あっちで休もう?」


 キャサリンとフローラが僕に寄って来て、そう口にする。


「なんで俺には声がかからないんだろうな? まぁ、いいけど……」


 ゼベクトがいじけたような態度をしていたので、僕は彼に声をかける。


「ゼベクトもあっちで休もう?」


「お、おう! アラン、信じてたぜ? やっぱりお前は友達だよな!」


 ゼベクトはなぜか上機嫌になって僕に寄って来た。そして、キャサリンとフローラは、彼が近づいてきたら明らかに距離を取り始めた。

 うーん、あんまり近づかれると少し臭いけど……我慢だ。内心そんなことを思いつつ、ゼベクトに苦笑い気味に言う。


「僕はゼベクトと友達だから大丈夫だよ」


「嬉しいぜ! あ、俺はちょっと身体拭いてくるわ。せっかく誘ってくれたのに悪いな。すぐに戻るからお前たちは休んでてくれ」


 彼はそう言ってすぐに立ち去った。


「はぁ、身体を拭きに行ったってことは、やっぱり自分でも臭いって自覚があるのね。それがあるのはいいことなんだけど、一番いいのは臭いがないことよね」


「ね、あんまり言いたくないけど。どうしても鼻にきちゃうからしょうがないよね」


 彼女たちは二人でそう言って笑っていた。うーん、ゼベクトが可哀相だけど……僕としても、臭く感じてるから何も言えないな。

 とりあえず、ここは話を変えて移動しておくか。


「それより、早くあっちに行って休もう」


「「ええ」」


休憩用の椅子まで歩いて、そこに座って三人でくつろぐ。


「二人はやっぱり強力な奥の手を隠し持ってるの?」


 それが気になったので、僕はストレートに聞いてみた。すると、二人は少し申しわけなさそうな顔をして口を開いた。


「ええ。それを使うと私の場合はギフトを特定されかねないからねぇ。今の段階でそういうスキルはさすがに使いにくいわね。それに勝てたら嬉しいけど、この全クラス対抗戦は、優勝したからって成績が上がるわけじゃないみたいだし」


「ねぇ、それを聞いたときは、一瞬なんでって思ったけど、こういう風に戦ってみるとわかるよね。ギフトを特定できそうなスキルを隠すこともなく使っている人の方が、明らかに有利だし」


 確かにフローラの言う通りだよね。結局、皆冒険者を目指しているから、そのせいでギフトを他の人に言わないし、できる限り予想されないように振る舞っているんだよな。

 冒険者になってからも続くと思われるパーティーさえ組んでしまえば、それも緩和されているんだろうけど。

 あまりに強いスキルを見せると、学校の中で当事者を巡って争奪戦が始まるっていうし……

 さらに、ここは冒険者ギルドの下部組織だから、学校での成績や強さなどがギルドの方でもわかるようになっていて、噂になっている子は、卒業と同時に勧誘が殺到するとも聞いた。

 まぁ、冒険者自体が危険な仕事もあるから、強い人をパーティーに加えたいと思うのは、誰にとっても至極当然だと思う。

 ただ、そうやって先人があまりにも強い人に群がってきた歴史があるから、それを嫌った冒険者たちがギフトを隠すのが慣例になったともいうし。

 ランクが上がっていって本当に強くなると、隠さなくなる人が逆に増えていくみたいだけど。


 逆にあまり強いスキルを持っていない子は、ギフトもあんまり良くないと思われて、敬遠されたりもするみたいだからなぁ。バランスが難しいよね。


「結局、先生の言う通り学校にいる間に信頼できる仲間を見つけるのが一番だと思うわ。それにこの対抗戦のように、どこでどの程度まで力を見せるのか、使うのかっていう判断力を付けるのは、大事なことで必要だと思う。常に自分が十全の力を発揮できるとは限らないからって言ってたわよね」


「そうだね。いついかなる状態に陥っても、できることの引き出しを増やすために、こういう大会で対応力を付けた方がいいって言ってたね。僕もそれはわかるけど……なかなか難しいよね」


 僕だって完全な本気をだすつもりはないし、自分がそうなんだから他の三人に強要するわけにもいかない。


「卒業後の話だけど、ゼベクトに言われた時はまだわからないって言ったけど、本当は私――」


「おー、お待たせ! すっきりさっぱりしたぜ!」


 キャサリンが何かを言いかけていたが、ゼベクトが戻ってきたのでその言葉を止めてしまった。

 彼女はゼベクトを睨んでからため息をついた。ゼベクトはそんなキャサリンを見て首を傾げている。

 そして、決勝戦の作戦について話し合う。


 しばらくそうやって作戦会議をしていると、僕たちに近付いて来る者がいた。


「よぉ、アラン。決勝に残ったみたいだな。全く驚きだぜ」


 ゼリオンは馴れ馴れしくそう言ってきた。続いてキャメリーが口を開く。


「あーあ、あの時にアラン君も仲間に入れれば良かったわ。戦っているところを見たけど強いじゃない? あのギフトでどうしてなのかわからないけど」


「まぁ、それはどうでもいいじゃん? 僕は次の試合結果で語るだけだよ」


「きゃははー、何その言葉! かっこいいい! きゃはは。私たちに勝てると思ってるんだ?」


「おいおい、オリーブ。あんまり笑うとアランが可哀相だろ? アランだってカッコつけたいのさ。女の子の前ではな。こいつもいっちょ前に男だってことだろ。そんな風にカッコつけてるこいつを潰すのが楽しみだ」


 ライアルがそんなことを言ってきたが、僕は別にカッコつけてるつもりはないんだけど……


「まぁ、最後にどっちが潰されているのか。それはもうすぐ答えがでると思うよ」


「本当に言うようになったし、生意気になったなぁ。5歳の頃は可愛げがあったってのになぁ」


 んー、別に仲良くしたいとは思わないけど、なんでこんなに絡んでくるんだろうな。品性を疑われちゃうよ? そんなところに頭が働かないのかな。


「なんかあれだよね。君たち四人みたいなのが、将来ごろつきになりそう」


 僕の言葉を聞いた四人は顔を真っ赤に染め上げていく。

 素直に言っただけなんだけどなぁ。っていうか、そろそろ試合が始まるんじゃないかな。


「この四人は放っておいて、早く闘技台に行こう! グラント先生がこっちを睨んでる!」


 そうして僕たちは闘技台へ向かって走りだした。

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