第42話 二回戦開始
「おしゃべりはそこまでにしておけよ。気を引き締めろ、始めるぞ!」
グラント先生怒声が響き渡り、それを聞いて僕たちは武器を構える。
「試合開始!」
僕が前もって二人を相手にすると言ったからか、ブリューさんが顎をしゃくって右方向を指し示した。
「おう。あっちでやろうぜ?」
その言葉に頷き、警戒を怠らないように少しだけ移動する。その直前ゼベクトたちを見たが、彼らは僕と逆方向に向かっていった。
ブリューさんは油断無く槍を構えて、僕の一挙一動を観察している。視線をポリアンヌさんに移すと彼女の顔付きも真剣で、油断していないことを窺わせる。
「この辺でいいか。いくぜ?」
闘技台も凄く広いってわけでもないので、少し歩くと彼は僕にそう提案してきた。
「はい」
僕の返事を皮切りに三人での戦闘が始まる。
「いくぞ! <デッドリースルー>!」
試合が始まると同時に、ブリューさんがなんらかの槍スキルを使ってきた。
彼の攻撃は、一見変哲のないような突きに見えるが……それの動きを良く観察して、ギリギリで避けようと足を動かす。
その時――
「<アースウォール>!」
僕が足を動かそうとした方向に、突如として土の壁が出現した。
方向転換をしようとしたときにはすでに遅く、僕は槍での攻撃を食らってしまう。
「ぐああ」
なんだ? この痛みは……やっぱりスキルだけあって、ただの突きじゃない。
彼はさらに畳みかけてくるように槍を振るってくる。ダメージを肩代わりしてもらっても、やはり結構痛いな。
大剣で槍の攻撃を捌きながらどうしたものかと考える。さっきから上手い具合に、僕が進みたい方向に向かってポリアンヌさんが<アースウォール>を使ってくる。
完全に息が合ったような連携はこんなに厄介なのか。しかも、ブリューさんは結構槍の扱いが上手い。
流れるような攻撃をしてきて、なかなか隙を見出せない。一人ずつを二回戦うのと、二人を一度に戦うのはやっぱり違うな。
今までの敵とレベルが違う。個人の能力なら彼はヒュージさんに劣っているが……
「なかなか崩れないな! もういっちょいくぜ! <デッドリースルー>!>
再び放たれたスキルを観察しつつ、僕は魔法を唱える。
「ぐうう、<ハイヒール>!」
彼の槍スキルを食らうと同時に、水色の光が僕を包み込む。
よし、今の攻撃のダメージは即座に回復した。
スキルがヒットすると同時に回復されると思っていなかったのか、相手には少し隙ができていた。
そこを見逃すわけにはいかない! スキルも2回見せてもらったし、ここで決める!
ポリアンヌさんを少しだけ視界に入れつつ、僕は即座に動きだす。
彼女の様子から、魔力を練って手のひらに集めようとしているのを察する。
そのままにしておくと魔法が飛んでくると判断した僕は、ブリューさんにも気を配りつつ魔法を使う。
「<ウォーターウォール>」
ポリアンヌさんのすぐ目の前に水の壁が現れて、彼女から放たれた<ファイアアロー>はそれに飲み込まれていく。
すぐに意識を目の前の男に向けてスキルを使う。
「<五連斬り>!」
その攻撃がヒットして、ブリューさんは膝をついた。だが、まだ余力があるようなので、すぐに彼の後ろへと回り込み、再び<五連斬り>を使う。
「ぐああああ」
そんな悲鳴とともに、ブリューさんは地面に顔面を強打して倒れ込む。
それを確認した僕は、視線をすぐにポリアンヌさんさんへと向ける。
そこにはすでに水の壁はなくなっていて、彼女はブリューさんが倒されたのを見て焦っていた。
ここがチャンスだと思い、すぐに移動して彼女のみぞおちを力任せに突く。すると、ポリアンヌさんは場外へと吹っ飛んでいった。
そして、僕が振り返るとブリューさんがなんとか起き上がろうとしていたので、完全な止めを刺すべく近寄る。
「これで終わりだ!」
そんな台詞とともに、僕は強打を彼の首筋に打ち込む。そうしてブリューさんの悲鳴が響き渡った。
「ぐう、くっそいってええ、降参だ!」
これで二人下したかな。次は――僕がゼベクトたちに視線を向けると、すでにヘイルさんは場外に落ちており、ノワールさんだけが残っていた。
それを確認してから、僕は仲間の元へ近づいた。
「こっちは終わったよ。あとはノワールさんだけかな?」
「おう! さすがアランだ。こっちもあと一人だ」
「もう終わったのね。こっちもそろそろ終わるわよ。でも、さすがにAクラスだけあって強いわ」
「そうね……Aクラスでこれだと、3年のSクラスはどうなんだろう……」
フローラがそんなことを口にして、少しだけ不安気な表情を浮かべた。
「3年のSクラスは――僕がコテンパンにしてやるさ! それより、あとはノワールさんだけなんだから一気にいくよ!」
全員の同意を得て、これからノワールさんを倒そうと、僕たちは彼女の元へと向かおうとしたが……僕たちが数歩進んだところで、彼女が口を開いた。
「もう降参よぉ。さすがに1対4で勝てる気はしないの。はぁ、1年でもさすがにSクラスだけあるのねぇ」
降参してくれたなら楽でいいかな? ノワールさんのスキルも見てみたかった気持ちも少しあるんだけど。
「そこまで! 勝者は1年Sクラスだ」
グラント先生の声が聞こえたので、僕たちは武器を下ろした。
「はぁ、こっちは結構いいところまでいってたんだけどねぇ。2対2ならいけてたかも?」
そんなことを口にしたノワールさんに向かって、キャサリンが一歩進んで口を開く。
「まっ、私たちの勝利なんだから、負け惜しみを言わないことね!」
「そうねぇ、負けたのは事実だしね。これ以上は言わないわー」
キャサリンの生意気な態度に怒ることなく、ノワールさんはそう言ってから、肩にハンマーを乗せて闘技台を降りていった。
「アランたちも降りろよ? 次の試合が詰まってるんだからな」
「「「「はい」」」」
先生の言葉に従って闘技台を降りている時、隣の第二闘技台に視線をやると、そこではすでに3年Bクラスと3年Sクラスの戦いが始まっていた。
あの四人は余裕そうな表情をしていて、本気を出していなそうだ。それでもその後は何事もなく相手を圧倒していた。
確実にヒュージさんよりは弱いけど、さすがに小さい頃からずっと一緒だっただけあって、連携が凄いな……阿吽の呼吸でどんどん相手を攻めていた。
うーん、一人ずつと戦えたらいいんだけどなぁ。まぁ、それは無理な相談か。
正直言うと、ゼベクトたちが奥の手らしきものも使って完全な本気を出してくれないと、苦戦しそうな予感がする。
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