第8話 プレゼント

 パパは抱きついた僕の頭をなでなでしてくれた。

 ママに撫でてもらうのも気持ちいいし嬉しいけど、パパに撫でてもらうのも凄く嬉しくなるなー。


「よし、今日はアランが洗礼の日ってことで、プレゼントを買ってきたんだ。どんなギフトが貰えるかわからなかったから二つあるぞ。今回は少し奮発したんだ。なにせアランにとって一生に一度の大事な日だからな」


 そう口にしたパパは、僕から離れていって部屋の端に置いてあった自分用のカバンをゴソゴソとしている。

 何をくれるのかな? また絵本かなー? それとも、何か美味しい物?

 その様子をじっと見ていると、パパが「あった、あった。これだ」と言いながらカバンから何かを取り出した。

 僕がじーっと見てみると、それは絵本だった。

 やったー、絵本だ。嬉しいなぁ。


「ほら、今回は二冊だ。こっちは『初めての魔法の世界』で、こっちが『初めてのトレーニング』だ」


 んー、物語の絵本かと思ってたんだけど、名前からして違うのかな?


「あらあら、今回は二冊も買って来てくれたのね。アランちゃんも喜ぶわ。それに今回は物語じゃなくて、ギフトを貰ってから鍛えるための物かしら?」


「ああ、そうだ。アランがどんなギフトを貰えるかわからなかったからなぁ。一応、魔法と身体のことについて書いてある絵本を買ってきたんだ」


 確か、人族なら誰でも魔法は使えるんだったかなー。魔法の威力はギフトで凄く差がつくみたいだけど。


「俺もママも一応簡単な魔法なら使えるから、少しなら教えることができるかもしれないな」


「パパもママも凄いー!」


 そう言って僕は二人に拍手した。うーん、でも、パパの魔法は見たことがないなぁ。

 ママの魔法は見たことがあるけど!


 お料理するときにママは指先から火を出して、それでお料理するんだよなー。

 あとは、飲み水もママが出してくれるけど、身体を拭くときとかお掃除するときの水は沢山使うから、量が多すぎてママだと出せないみたいで井戸水を使ってるんだけど……パパなら出せるのかな?


「あなた……私もあなたもアランちゃんに教えるほど使えないじゃない……本当の基礎の基礎くらいなら確かに教えることはできるけど、あなたは私よりも魔法を使えないでしょ?」


 パパはママよりも魔法が使えないのかぁ。

 そう言われたパパは頭を掻いて笑っていた。


「まぁ、それはいいとして……ほら、アラン受け取れ。お前は好奇心旺盛だし、すぐ読み終わってしまうと思うけどな。その本を読んで勉強するんだぞ?」


 そう言ってパパは僕に絵本を二冊手渡してくれた。


「はーい!」


「あー、その絵本はいいよな? 俺も小さい頃に読んだぜ?」


 へぇー、ヒュージさんも小さいときには、この絵本を読んだんだ。ところで、ヒュージさんは今何歳なんだろう?

 確か、ママは24歳でパパが26歳だから……三人を見比べてみても、わからないなぁ。


「ヒュージさんって何歳なのー?」


 わからないことは聞けばいいー。


「ああ、俺の歳か? 俺は36歳だ」


 へぇー、ママとパパより結構上なんだー。


「アラン、さっきからギフトの『努力』について考えていたんだが……これは俺の考えなんだが、ギフトには何種類かあると思うんだ。例えば、『聖騎士』や『賢者』など、ある意味では職業的なものを表すタイプ。そして、タリオさんの『正直者』や『短気』など、性格的なものを表すタイプ。あとは、『家事』や『火魔法』などのように得意になることを表すタイプ」


 確かにヒュージさんの言う通りかな? 今まで機会がなくて僕はあんまりギフトの種類は知らなかったけど、パパもママもそこまで詳しくなかったからなー。


「そして、俺は冒険者をやっていて『天才』というギフトを持っている奴を見たことがある。そいつはどんなことでもやり始めると、ほとんどのことがすぐにこなせるようになっていた。ただ、すぐにできるからこそ、その後の鍛錬を疎かにする奴だったが。当然そうすると成長も行き詰まる。今言った『天才』は職業的でも、性格を表すタイプでもない。ましてや、得意なものを表すタイプでもない。まぁ、ある意味においては全て得意になるから……得意なものを表しているとも取れるが――」


「あぁ、そう言われると『天才』と『努力』って、どこか似ている気がするわね」


 珍しく真剣な顔をしたママが、ヒュージさんにそう言っていた。いつもにこにこ顔なんだけどなー、パパを怒ってるとき以外はね。


「そう、そうなんだよな。例えば、このギフトは稀だが『魔法』や『身体能力』というギフトもある。これらは幅広く魔法全てが得意になったり、さまざまな身体能力が優れていったりするが、それよりもさらに抽象的な『天才』と『努力』はどこか似ている気がするんだ。そう――まるで、得意になることの数に上限がないのでは? と思わせるほどに。まぁ、実際にはギフトの解明はできていないし、この世にはさまざまなギフトがある。そして『努力』の効果もわからないが、ただ、一考する価値はあるんじゃないかってな」


「アランちゃん! もしそうなら凄いわよ! 『天才』なんてほとんどいないって言われているくらいに珍しいし!」


「そうだな! アランがどんなギフトでも良かったけど、それでもいいに越したことはないからな! パパは『正直者』で何かを得意になることはないからなぁ」


 そう言ってパパは少し寂しそうな顔をしていたけど


「あなた! なんてことを言うの! 私はそんなあなたを好きになったのよ! そのあなたが、自分で自分のギフトを受け入れなくてどうするの!? 寂しいこと言わないでよ」


――それに対してママが怒った。


「ご、ごめん」


 そうしてパパはママを抱き寄せて頭を撫でていた。

 二人のことは心配ないから僕は意識を再びヒュージさんに向ける。僕の視線を感じたのか、ヒュージさんはパパとママを気にしながらも話の続きをしてくれるようで、口を開いた


「あー、ちょっと微妙な空気にしちまって悪かった。それでな? 俺はタリオさんに恩があるし、なにより今は金にも困ってないから、特に急いで何かをしなきゃってことはない。だから――俺にアランを少し鍛えさせてくれないか?」


 ヒュージさんは真剣な顔をしてパパとママを見つめている。

 そして、そんな二人も真剣にヒュージさんの目を見ていた。


「俺はAランク冒険者だが、正直今のままじゃSランク冒険者には届かない。だからSランクになるのは諦めていたんだ。『努力』の効果がどんなものかわからないし、アランが冒険者になるって決まったわけでも、なりたいのかどうかすらもわからない。だが、いずれもしかしたらってな。もし、そうなったら――俺は何かを残せる気がするんだ。そう、俺の人生に……」


 そう言葉を締めたヒュージさんは、どこか影を差しているような表情をしていた。

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