第7話 パパの帰宅

 物音が気になった僕は、パパの太ももの横からひょこっと顔をだしてみる。

 すると、そこには知らない人がいた。

 その人はなんか強そうな感じがして、身体も大きい男の人で……ちょっと怖いかも?


 少し怖くなった僕は、そのままパパにしがみつく。そんな僕の頭を、パパは撫でてくれた。

 そうこうしていると、後ろにいる男の人がこちらに近づいて来た。


「あちゃー、怖がらせちまったか? まぁ、俺はこんな見てくれだしなー」


 そう言って、少し怖い感じの人は自分の顔を指差した。


「あらあら、アランちゃん怖かったの? 大丈夫よ。さっき私もパパから紹介を受けたんだけど、そちらの人は冒険者の方よ。なんでも、Aランク冒険者っていう凄い人みたいよ?」


「ああ、こちらの人は――Aランク冒険者の、ヒュージさんっていうんだ。アランも挨拶をしてくれよ?」


 ヒュージさんっていう冒険者なんだね。ところで、Aランク冒険者ってなんだろう?

 いまいちわからなかったけど、ママもパパも普通に接しているんだし、怖い人じゃないってことは……多分、わかったと思う……

 うー、怖くない、怖くない!


 パパにしがみついていた手を離して、僕はヒュージさんの前に移動する。

 そして、じっとヒュージさんを見てみた。

 さっき感じた通り、凄く大きい身体をしている。腕や脚なんて凄く太いし、あれだけ腕が太かったら薪割りも楽なんだろうなー。いいなぁ。

 髪の色は茶色くて、短いね。僕とどっちが短いだろう? あとは、少しお髭が生えてて目の色は黒いかな。

 なんていうか……格好いいと思うけど、ちょっとごついかなー?

 あっ、それよりも挨拶しないとダメだった。


「こんにちは! 僕はアランっていいます!」


 そう挨拶をすると――


「おー、よろしくなー。アランの坊や。タリオさんから名前は聞いていたんだぜー。凄くいい子らしいじゃねーか! いいことだ!」


――ヒュージさんはニカっと笑って僕に話しかけて来てくれた。

 なぜかわからないけど褒めてくれたー。僕はそれが嬉しくて、ついつい顔がにこにこになってしまう。

 でも、この人は本当に誰なんだろう? 今まで一回も見たことがないなぁ。


「よーし、アランの挨拶も終わったことだし、次はヒュージさんの紹介をしよう。もしかしたら、パパの前々からの友達なのかな? とか思っているかもしれないが、実はな――」


 パパの言葉にかぶせてヒュージさんが口を開いた。


「あー、タリオさん。続きは俺が話そう。ちょっと情けないけどなー。実はな……この村から結構離れている場所で、俺が荷物を失くしちまってなぁ。いやー、あれには本当に参った、参った。こんなことなら指輪タイプのアイテムボックスを買っておけばよかったぜ。でも、あれは高くてなぁ。っと、関係ない話は今はしなくていいな。まぁ、その失くしちまったってのも……ちょっと疲れが溜まってるときにうたた寝をしていたら……だったからな。そのときに、野生の猿か何かに荷物を持っていかれちまったんだ」


 あれ? Aランク冒険者って凄いって、ママがさっき言ってたような気がするんだけど。

 荷物を失くしちゃうの? 僕でさえ荷物は失くさないよー? 僕の荷物は絵本二冊しかないけどね。

 本当に凄い人なのかなって僕が怪しんでいると、ヒュージさんは頭を掻きながらさらに口を動かした。


「いやー、あれは一生の不覚だったぜ。しかも、気が付いたのに腹が減ってていまいち動けなくてな? まぁ、それで途方に暮れてどうしようかとしてるときに、タリオさんが運良く俺の側を通りかかって、食料を分けてくれたってわけさ。そして、俺はお礼も兼ねて護衛をしてきたのさ。その後はタリオさんの心遣いで家にもこうやってご招待されたってところだ。まぁ、幸いにして金貨とかは懐に入れてたからな」


 パパがこの人を助けてあげたのかぁ、やっぱり僕のパパは凄いね!

 格好いいなー! 僕がキラッキラの目で見ていると、パパと目が合ってパパは照れて頭を掻いていた。


「あなた、ヒュージさん、お話はそれくらいにしてご飯にしましょう? 今日は少し奮発しておいたから、ヒュージさんの分もあるわ。お口に合うかどうかはわからないけど。ささ、アランちゃんも椅子に座ってね。あなた、アランちゃんの洗礼の儀のことはご飯の後に報告するわね」


「いやー、奥さん! そんなに気にしないで下さいよ! 俺は結構なんでも食べますから!」


「わかった。ヒュージさん、遠慮なく食べてくれ」


「はーい」


 僕はママに返事をして、椅子に座った。


 その後は、ママの美味しい料理を皆でいっぱい食べた。うーん、やっぱりこうやってパパもいるのが一番嬉しいなー。

 凄く楽しい! 今日の昼にあったことなんてどうでもよくなってくるみたいだ。

 ご飯を食べ終わってリビングの椅子に皆で座っていると、ママがパパに「あなた」と話し掛けた。


「今日はアランちゃんの洗礼の日だったんだけど、ヨアトル様から貰ったのは、『努力』っていうギフトだったの。神父さんも今までに見たことも聞いたこともないギフトだったらしくて、今のところはどんなギフトなのかわかっていないのよ」


 少しだけ不安になりながら、僕はパパの反応を見ていた。多分、大丈夫だと思うけど、がっかりされないといいなぁ。

 少しだけ何かを考えているのか、パパは顎に手を当てていた。あれは考え事をするときに、いつもしてる仕草なんだよね。


「『努力』か……うーん、俺も聞いたことがないな。ヒュージさんは聞いたことがあるかい?」


 うーん、やっぱりパパも聞いたことがないのかー。

 パパはヒュージさんに聞いているけど、Aランク冒険者って凄いって言ってたから、もしかしたら知ってるかなー?

 少しワクワクしながら僕はヒュージさんの顔を見ていた。


「うーん、俺はこれでもAランク冒険者だ。だから、今まで結構なギフトを見てきたし、知識として蓄えてきたけど、それでも今までに聞いたことがない。力になれなくて悪いな。しかし……『努力』ね……」


 ヒュージさんはそれだけ言うと、虚空を見つめて何かを考えだしていた。

 うーん、ヒュージさんもわからないのかぁ。これはママが言う通りに僕が新しく色々知っていけばいいのかなー。


「『努力』の効果はわからないが、アランが無事に5歳になってくれてパパは嬉しいよ。おめでとう」


 その言葉は凄く凄く嬉しかった。やっぱりパパはわからないギフトだからって僕を見捨てたりしないんだー!

 僕は即座に椅子から立ってパパの方に移動して抱きついた。

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