第6話 ママの優しさ

 空き地からの帰り道をとぼとぼと歩いて帰った僕を、ママは温かく迎えてくれた。


「アランちゃん、おかえりなさい」


「ただいま……」


 僕は元気のない声でママにそう返した。そんな僕を見て、ママは心配そうな顔をしている。

 そして、いつも優しいママのその顔を見て、胸の奥の痛みがどんどん酷くなってきた気がした。

 大好きなママから……もいらない子って言われるのかな? 僕がいることで迷惑をかけてるのかな?

 結果をしるのが怖いけど、僕は勇気を出してママに聞いてみる。胸がどくんどくんって凄い音で鳴っている。


「ママー、僕のギフトはダメなギフトなの? 友達とか、皆に迷惑をかけるようなギフトなのかなー?」


 その言葉を聞いたママは何も言わずにいきなり僕に抱きついて、おっぱい攻撃をしてきた。

 うー、ただでさえ胸が痛いのにー。でも……なんか……温かいなぁ……

 ママは凄いや……少しずつだけど、僕の胸の痛さがなくなってきている気がする。

 でも、おっぱいで苦しいのは辛いけど。


 そろそろ限界だーって思っていると、ママが僕を放してくれて、すぐに僕の頭を撫でてくれた。

 こうやって頭を撫でられると凄く気持ちいい。


「アランちゃん、どうしてそういうことを言ったの? お外に行ってから、誰かに何かを言われたの?」


 皆のことを言おうかどうか迷ったけど……

 こんなに心配してくれているママに対して隠し事はしたくないので、僕は正直に話すことにした。


「空き地に行くといつも遊んでるライアル、ゼリオン、オリーブ、キャメリーがいたんだ。その時四人に僕のギフトを教えたんだけど、そうしたら――――」


◇◇◇


 僕は空き地で言われたこと、あったことを全部ママに伝えた。

 全部伝え終わってからママの顔を見てみると、その目からは大粒の涙がこぼれ始めていた。


「それでね? なんか知らないけど……胸の奥が痛くなってきて、ここなんだけど」


 そう言って、僕は自分の胸を指差した。


「そうなのね……アランちゃん、大丈夫よ? ママはずっとずっと――あなたの味方よ? パパも当然ずっとずっと――あなたの味方よ?」


 そう言って、ママは僕を優しく包み込むように抱きしめてくれた。

 いつものおっぱい攻撃じゃなくて良かったと内心思う。


「アランちゃん、ごめんね。私がもっともっと物知りだったら……『努力』のギフトのことがわかっていたら少しは違ったかもしれなわね。お家はそこまでの余裕があるわけじゃないから、色々なギフトについて書いてある本は買えないし……でも、神父さんも言ってたくらいだから……きっと今まで誰も見たことがないか……もしくは凄く珍しいギフトだとママは思うわ」


 んー、珍しいっていうのは、あんまりいないってことだよね。それっていいことなのかな? わからないや。

 あんまりいなくてというか、誰も知らないからこそ、あの四人にああやって言われた気もするしなー。

 心がいまいち晴れてない僕の様子から何かを感じ取ったのか、ママはさらに口を開いた。


「珍しいっていうことは、それだけ可能性が詰まっているとも言えるのよ? 確かに本に載るくらいに有名なギフトはそれだけ皆が知っていて、ギフトの効果も知れ渡っているわ。でも、あなたのギフトの効果は誰にもわからないかもしれないんだから、自分で見つけていく楽しみはあるのよ? いいじゃない、誰に何を言われたって。いつでも、いつまでも、アランちゃんにはママとパパがついているんだから」


 その言葉を聞いた僕は……なぜかわからないけど、涙が溢れてきた。そのまますぐママに思いっきりしがみついて、わんわんと泣きだした。



――しばらくの間ママに抱きついていたけど、泣き止んできたので僕はママから離れた。



「ありがとう。胸の奥の痛みが消えてきた気がする」


「そう、よかったわ」


 ママは僕を見つめながらいつも通りの微笑みを浮かべてくれる。

 そして、ママは僕の手を引きながら椅子まで移動して僕を膝の上に乗せた。


「アランちゃんのギフト『努力』は、努力をしていれば何かわかると思うんだけど……でも、何をどうするかは難しいかなぁ。家には知識を蓄えるような本もなければ、身体を鍛えるような物もないしね」


 その時、僕はひとついいことを思いついた。これをしたら努力になるし、なによりもママの手伝いにもなる!


「ママー、僕は明日から井戸からの水汲みをもっと頑張るのと薪割りもしてみたいー」


「うーん、水汲みはいいとしても……さすがに薪割りはダメよ? アランちゃんの身長と力だと、まだまだ斧は危ないし、持てないからね? 家にもっと小さい斧があれば違ったんだけど」


 うーん、まだまだ薪割りはダメかー。確かに、あの斧は大きいもんなぁ。

 その斧を軽く持てるママは……実は力持ちなのかな? それとも大人なら誰でも持てるのかなー、ママの腕より少し短いくらいだと思うし。


 そんなことを考えていると、ママが明るい声で僕にまた話しかけてきた。


「薪割りのことは、また今度考えるとして多分そろそろパパが帰って来るわよ? 予定では今日の夜には帰るって言ってたからね。なんとか行商を調整しながら頑張るって出発前に言ってくれていたし、正直者のパパのことだから、きっと予定通りに帰って来てくれるわよ」


「やったー! パパに会いたいなー」


 パパ早く帰って来てくれないかなー。ずっと会ってないから会えるときはやっぱり凄く嬉しい!


「それじゃあ、ママはパパが帰って来る前にご飯の支度をしちゃうから、アランちゃんは絵本でも読んでいてくれる? 絵本は読み飽きちゃってると思うけど」


「はーい!」


 ママが僕を膝から降ろしてキッチンの方へと向かって行った。

 僕は絵本を読むためにリビングから僕の部屋へと移動した。


 絵本は二冊あって、パパが僕のためにお土産として買ってくれた物だ。

 一冊は『ヨアトルの始まりとギフト』で、もう一冊が『勇者と魔王』っていう絵本で悪いことをする魔王を正義の味方である勇者がやっつけるお話だ。


 そういえば、ママが昔は本当に『魔王』と『勇者』ってギフトを持っている人がいたって言ってたなー。

 今はいないらしいんだけど。まぁ、僕には関係ないし、いいかー。

 そう思いつつ僕は絵本を読んでいく。


 しばらく絵本を読んでいると、僕を呼んでいるママの大きな声が聞こえた。

 僕がリビングへと移動すると、そこには一人の男の人がいた。

 短めに刈り上げた髪、格好いい顔。そして、僕とママと同じように赤い髪に青い瞳をした――僕の大好きなパパがいた!! 


 すぐに走りだして、僕は思いっきりパパに抱きついた。そのままパパの腰に頭をぐりぐり擦り付けていると、パパの後ろから何か物音がした。

 ん? 誰かいるのかな?

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