第39話 前哨戦?

 僕の顔をまじまじと見たキャメリーは、ため息をついて――少し間を空けてから口を開く。


「やっぱりアランは格好良くなってたわね。私の予想通りだったわ。それにしても、ここにいるってことは、あなたも冒険者になるってこと? アランとは5歳を最後に全然遊ばなくなったし、村の中で見かけることもなくなったから、少しは心配してたのよ?」


 彼女の言葉は明らかに嘘とわかる。もし本当に心配してたのなら僕の家に訪ねて来てたはずだ。

 まぁ、来られても嬉しくなかったと思うけど。もちろん謝罪をしに来てくれるなら別だ。

 キャメリーの次に口を開いたのは、混乱から立ち直ったと見られるゼリオンだ。


「お、お、お前は村にいたガキだったのかよ! アランのくせに俺たちに舐めた態度取りやがって! お前は俺たちの言うことを聞いてればいいんだよ! 小さい頃に遊んでもらった恩も忘れて俺に楯突くとは……。はっ! 随分と偉くなったな?」


「えー、遊んでくれてたの? なら、ありがとうって言ってれば良かったのかな? まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどね。それより、あんまり人を見下さない方がいいと思うよ?」


 その言葉にいち早く反応したのはライアルだ。彼は一歩前に出て来て口を開いた。


「は!? お前はアレじゃねーかよ! それを見下して何が悪い? 俺たちのギフトに絶対勝てないくせによ!」


「そうそう、お前のギフトは、ど――」


「バカ! 止めなさい!」


 ゼリオンの言葉を遮ったのはオリーブだった。

 おそらく僕のギフトを知っているため、今うっかり言おうとしたのだろう。

 それをしていたら下手をすると退学だっていうのに。いや、確実に退学と思う。

 なにせこいつらには前科がある。

 でも、こんなところで僕のギフトを叫ばれるのは嫌だったので、彼女が止めてくれたのは良かった。

 おそらく、ギフトの『努力』は聞いたことがないって人が多いだろう。

 そして処罰があるとはいえ、一度公表されてしまったギフトに対しては、やんわりとなら相手に聞いても問題ない。

 これらの点を考えると、バレていたとしたら今後の対応を考えないとダメだったので、それはさすがに面倒だ。


「あぶね……危うく言うところだったぜ。オリーブありがとな? ちっ、そうやって俺にギフトを言わせて、退学にでも持ち込もうとしたんだろう? 汚い手を使いやがるぜ!」


 ちょっと! こいつの被害妄想は酷くない!? というか、自分の行動を棚に上げて意味不明に僕を責めるなよ。こういうのが逆ギレっていうんだ。

 そんな風に内心は憤っていたけど、あくまでも冷静に相手に告げる。


「はぁ、ゼリオンってさ、実は前々から思ってたんだけど――」


 そこで一旦言葉を止めて、僕は彼の目を見る。


「前から何を思ってたんだ? 格好いいとかか? 今さらそんなことを言っても許してやらないぞ?」


「はぁ、許すとか許さないとかどうでもいいし。それよりも、僕は格好いいとか思ったわけじゃないよ? たださ……君って頭が悪いんじゃないかなって思ってただけだよ。確か、昔からそうだったよね? 何か考えるより先に行動してさ。あのときは子供だったからまだ良かったけど、今はもう大きくなってるんだから、もっと考えてから話すようにしたほうがいいと思う。これはアドバイスとして聞いてくれたらいい」


 これ、実は子供の頃から思ってたんだよね。言えてスッキリした!

 口は災いの元って謂うし、この辺でゼリオンも直しておいたほうがいいだろう。

 それというのも、彼ら自体はどうでもいいけど、それに巻き込まれる他人が可哀想だからだ。

 スッキリした僕とは逆に、彼の顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 あ、ちょっと言い過ぎたかな? そんな風に考えていると、僕に助け舟が入る。


「あなたは確か……前にフローラに絡んでた人よね? あの後、謹慎処分を受けたって聞いたけど、ここでまた騒ぎを起こしたら、さすがにマズいんじゃないの? まぁ、アランが少し言い過ぎた部分もあるかもしれないけど、それでも、あなたたちは前科がある分、不利になると思うわよ?」


 キャサリンの正論を聞いた彼は、落ち着きを取り戻していった。そしてそんなゼリオンにオリーブが声をかける。


「ちょっと、もういいから行くわよ? 私たちは全クラス対抗戦に出場するんだから、こんな所で油を売ってる暇はないわ。確かに、この子がいたのは驚きだったけどね。でも、どうせアランなんか私たちの眼中にもないんだから、放っておけばいいのよ」


 その言葉を聞いたこちらの女性陣二人は、こめかみをピクピクと動かし始めた。

 さらに二人はオリーブに詰め寄ろうとでもしたのか、足を前に動かしたが、その瞬間にゼベクトが口を開いた。


「おいおい。フローラもキャサリンも、もういいじゃねーかよ。どうせ試合になれば……な?」


「ふぅ、そうね。確かにゼベクトの言う通りよ。あんたたちなんて、アランにこてんぱんにやられちゃうに決まってる!」


「そうよ。アラン君は強いんだからね!」


 なぜかぷりぷりとしている二人は、声に怒気を混ぜながらそう言った。

 そんなキャサリンとフローラを見ていると、僕のために怒ってくれているのがわかって嬉しくなってくる。

 多分これが本当の友達っていうんだろう。なら、僕は友達の想いに応えるためにも、試合ではいつも以上に気合を入れて頑張らないといけない!

 ただ、この四人も今まで鍛錬してきたんだろうし、油断だけはしないほうがいいだろう。


 先ほどの言葉に何も言い返すことなく、また、イラついた表情を隠しもせずに四人はすぐにこの場を後にした。


「ふぅ、皆ごめんね? 実は言ってなかったけど、あの四人とはちょっとした因縁があるんだ。11歳の頃まで住んでいた村で、僕は5歳になるまであいつらと遊んでいた。洗礼の日以降は交流が途絶えたけどね」


「ふーん、そうなのか。たまに聞く話だよな? ギフトを貰って調子に乗ったり、逆に他人のギフトを見下したり、そうやって今まで人間関係が変わるって。俺の周辺ではそんな奴らはなかったけど、実際にそういう奴らがいるってのは聞いたことがあるぜ。おそらくお前のギフトが関係しているんだろ?」


 その問いかけに、僕は頷いて答える。


「私も聞いたことがあるわ。それにしても、こんなに強いアラン君のギフトを見下すってなんなのかしらね?」


「そうよ! 詮索するわけにいかないから、ギフトはわからないけど、それでもこんなに強いんだから。○○○のアランは!」


 ここで僕のギフトを言うわけにもいかない。

 でも、この四人にはいずれ言うことがあるかもしれないと感じる。

 まぁ、まだ僕は1年生だし、実際はわからない。

 そのあとも少しだけ雑談していると――


「全員注目!」


 運動場にグラント先生の声が響き渡った。


「お前ら準備は整ってるな! 観戦に来た生徒たちは地面に引いてある白線から出るなよ。そっちが観客席となっている。逆に選抜パーティーは白線の内側で待機だ。今回は各クラスから1パーティーずつ参加ってことで、15パーティーある。申しわけないが、抽選はこっちで勝手にさせてもらった。だから、すでに各パーティーの対戦相手は決まっている。俺の横にある看板を見てくれ」


 全校生徒にそう告げた彼は、看板から白い布をはぎ取った。

 白線の内側にいた参加選手たちは、僕たちを含めて全員がその看板に注目する。

 それを見ると、全部クラス別で書いてあるようだ。だけど、それも当然だろう。

 四人の名前全てを書くよりも楽だろうし、なによりもわかりやすい。

 僕たちは……1年のSクラスは1番と書いてあった。3年のSクラスはどこだ? と、視線を動かし探してみると、15番と書いているのを見つけた。

 僕たちとはまるっきり逆だ。でも、あそこは対戦相手がいないな。ということは、あの四人はシードになのだろう。


「全員見たか? 今回の団体戦は今年が初めてだ。そのためいくつか決めたことがある。まず15パーティーあると、1回戦では1パーティー余ってしまうことから、3年のSクラスにシード権を与えることになった。これは勝ち抜き方式の団体戦のときも同じルールになる」


――ということは、僕たちが3年になったときは、そのクラスがシードになるってことだ。まぁ、Sクラスから落ちなければだけど。


「看板に書いてある番号は、そのまま隣の番号との戦いになる。トーナメント表も一緒に書いてるからわかりやすいだろう。1番と2番、7番と8番が戦うといった具合だ。1番から8番までは第一闘技台の上で戦ってもらう。9番から15番までの試合は第二闘技台の上だ。そして、決勝戦は第一闘技台でやる。それでは、1番と2番は第一闘技台に、9番と10番は第二闘技台に移動してくれ。その他の番号のパーティーも、自分たちが戦う闘技台の方へ移動しておけ。ああ、武器はいつもの『身体学』みたいに木製の武器を入れた箱を置いてあるから、自由に手に取って使用してくれ」

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