第40話 初戦

 それぞれ武器を選び取った僕たちは、第一闘技台へと上がって行く。

 その上には僕たちの他に、対戦相手である2年Cクラスのパーティーとグラント先生がいる。

 先生はいいとして、四人の観察を始める。

 線が細い男の子が弓を手に持ち、体格がいい男の子が片手剣と大きな盾を持っている。

 背が低い男の子が杖を握りしめ、少しぽっちゃりしてる女の子がナックルをその拳に装着していた。

 すぐに試合が始まるだろうから、作戦会議をする暇はない。そのため方針を手短に伝える。


「一回戦からもたついていられない。一気にやるよ! 弓と杖の相手は僕がするから、三人で盾とナックルの相手を頼む」


「おう!」


「「わかったわ」」


 僕たちと相手パーティーを見渡したグラント先生口を開いた。


「前もって聞いていると思うが、今日はダメージを肩代わりしてくれる結界を張っている。当然その分、身体の倦怠感が酷くなるから注意しろ。被弾し過ぎると立っていることさえ厳しくなるだろう。そうなった奴は速やかに降参を申し入れて退場したほうがいい。そうしなければ、無抵抗な状態で延々と攻撃を食らってしまう」


 いくら魔法道具がダメージを肩代わりしてくれるっていっても、結局はダメージを受けないでいる方が有利になるのは当然だ。それは『魔法学』で習ったから覚えてる。

 確か、最終的には気絶するはずだ。それにダメージを肩代わりしても痛みはあるらしいから、やはり被弾はできる限りしないほうがいいだろう。


「最終的に全員が降参か、もしくは場外に出されたチームが負けとなる。それでは、1年Sクラスと2年Cクラスの対戦を始める! 試合開始!」


 その合図とともに、僕は地面を蹴って一気に弓の子に近付く。

 大剣を振り上げていざ振り下ろそうとすると――横から<ファイアーボール>が飛んで来る。


「<ウォーターボール>!」


 魔法で火の玉を相殺している間に、弓の子は僕から距離を取っていた。

 それを見た僕は、先に杖のほうを倒しすのいいと判断する。

 そうやってこのあとの戦い方に思考を割いていると、連射された矢が5本飛んで来た。

 焦ることなくそれらを武器で叩き落とした僕は、さらなる攻撃の的にならないようにその場から離れる。

 そして少しフェイントを織り交ぜつつ、杖の子のほうへ向かっていく。

 一瞬視線を弓の彼に向け様子を窺うと、相手は的が絞れずにもたついていた。

 それを好機と捉えた僕は、杖のへ向かって一気に直進する。


 この二人は遠距離タイプだけあって、スピードは速くないから動きを捉えるのは難しくない。

 走りながらそんな風に分析を済ませていた僕に、<ウィンドボール>が飛んで来た。

 渦巻く空気の球を軽く横にステップをして避けて、さらに前進を続ける。

 その結果、数秒のうちに杖の子の近くへとたどり着く。

 彼の目の前で大剣を振り上げた僕は、相手の肩を狙って振り下ろす。

 すると、それが見事にヒットして、相手は悲鳴をあげる。


 もう数発入れて終わりかな? そう判断した僕は、杖を持っている腕のほうを狙う。

 先ほど振り下ろした剣を下から上に振り上げた結果、相手は武器を落として絶叫をあげた。

 さらに畳み掛けるべく、今度はみぞおちを狙って突く。

 防具の上からでも手ごたえを感じる会心の突きを入れると、そいつは場外へ向かって吹っ飛んだ。

 しかし、それを見届けることない。なぜなら、後方から突如として矢が飛んできたからだ。

 それを感知した僕は、飛来した矢をサイドステップで避ける。


 その際に、ゼベクトたちの様子をちらりと見る。

 すると、あちらはあちらで激しく戦っているのが見てとれた。しかし、三人のほうが優勢のようだ。

 その様子を見て、あいつらに負けていられない、あと一人をさっさと倒さないとダメだ。と内心でそう決意した僕は、強く地面を蹴り、その力を推進力に変えて弓の子へ一気に迫る。

 相手はよほど僕から距離を取りたいのだろう、顔には焦燥感がありありと浮かんでいる。

 そのためバックステップをしている足取りも、おぼつかないものになっていた。

 その隙を見逃す僕ではない。さらに移動速度を上げた僕は、彼に迫る。


「ここだ!」


 弓の子がバックステップで逃げている最中、膝目掛けて突きを入れると、相手は痛みで悶絶した。

 まだ降参していないのでここで油断するわけにいかないと判断した僕は、剣を横に払い、彼の脇腹を強打する。

 その衝撃で相手は吹っ飛んでいったが、ギリギリ場外に落ちずに済んでいる。それを見た僕は、は完全なる止めを刺すべく、標的に向かって今一度走りだす。

 それと同時に、先ほどよりも悲痛に聞こえる彼の叫びが第一闘技台にこだました。その声は痛みを我慢しきれなくなった相手が、苦悶の表情を浮かべながら発したものだった。

 それを見て相手が気の毒に感じたが、今は戦いの最中だと割り切る。そして相手の目の前まで到着した僕は、大剣を振り上げる。


「ぐぅぅ、いてぇぇ。こ、降参だ!」


 その声を聞き、振り下し始めていた大剣を止める。構えを解かないまま、ゼベクトたちの様子を窺ってみると、あっちもちょうど終わったようで対戦相手の二人が降参していた。


「試合終了! そこまで! 全員直ちに闘技台から降りろ! 1年Sクラスの奴らは次の試合に備えておけ。2年Cクラスの奴らは観客席に移動だ」


 グラント先生の試合終了の宣言とともに、僕は構えを解いて身体を楽にする。


「ふぅ、これで勝ちかな」


「ぐぅ、いてええ。お前強すぎるだろ! まぁ、いい。俺たちに勝ったんだから、次も頑張って絶対に勝てよ!」


「はい!」


 そうして彼は弓を肩に担ぎ、左手で脇腹をさすりながら、ゆっくりと歩いて行く。

 防具の上からさすってもあんまり意味なさそうだけど、気持ちの問題かな?

 それはそれとして、あの人の名前は知らないけど、こうして応援の言葉をくれたのは嬉しく感じる。

 僕と今の人は友達になってないけど、ゼベクトは殴り合ったから、あっちの二人とはもう友達なのだろう。


「んー、相手の連携がかなり良かったなぁ。個人個人はそうでもなかったんだけど。今ので2年Cクラスか……」


 自負心と驕りは違うから、ここで気を引き締めないといけない。


「おーい! こっちは終わったけど、お前のほうも終わってたみたいだな。今回は俺の本気を見せてやろうとしたけど、アランに二人倒されちまった」


「次の試合は二人相手にしてもいいよ?」


「それは嬉しいぜ! って言いたいところだけど、なによりも勝つのが最優先だ。次の対戦相手が決まってから考えるぜ」


「ゼベクトは相変わらずなのね? あんたみたいな人をなんて言うか知ってる?」


 キャサリンが僕たちにそう問いかけてくる。そして、その言葉にいち早く反応したのはフローラだった。

 彼女は人差し指を頬に添えつつ小首を傾げ、ゆっくりと口を開いた。


「肉壁?」


「ち、ちげーし!」


「まぁ、それでも合ってると言えば合ってるわ。正解は――こいつみたいなのをビックマウスって言うのよ! いつもいつも大口叩いて、結局アランに未だに勝ったことがないしねぇ」


 彼女は楽しんでいるようで、口元が緩んでいる。


「ほ、本当だって! 本当に俺が本気出したら強いんだって! ただ、今は……な?」


 そう言ってなぜか恥ずかしそうな顔をしてそっぽを向いたゼベクトを、全員が示し合わせたようにスルーする中、僕は早くこれを伝えないといけないと思い――とある人物を指差しながら口を開いた。


「早くこの闘技台から降りないと、あそこでこめかみをピクピクさせているグラント先生が――」


「おめーら! いつまで話してんだよ! お前らのためだけに試合があるんじゃねーぞ! あんまりとろとろしてると失格にするぞ!」


「「「「すみませんでした」」」」


 凄い勢いで先生に頭を下げた僕たちは、闘技台から降りていく。

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