第3話 洗礼の儀

 うーん、洗礼の儀っていうのが早く終わったらその後、遊べるのかなー?


 僕とママが村の教会にたどり着くと、神父のおじいちゃんが迎えてくれた。

 このおじいちゃんは僕がたまに教会に遊びに行ったときには、優しくしてくれるいいおじいちゃんだから、僕は好きだなー。

 神父のおじいちゃんの白いお髭を、たまに引っ張ってイタズラすると怒られるけど。


「おお、ララよ、来たか。今日はアランの洗礼の日じゃな。この村も今は人口が減ってきているからのぉ。大都市だと毎日のように洗礼の日を迎える子供がいるのじゃが……この村だとそうはいかないからの」


「ええ、やっとアランちゃんが5歳になったのよ。他の街は他の街、この村はこの村よ。私は旦那のタリオと、可愛いアランちゃんがいれば、この村で幸せよ」


「うむうむ、そうじゃろうな。やはり、身近に愛する者がいる環境が一番だ。そして、自分の子どもが無事に5歳まで育つと嬉しいものじゃろう。儂も遠い昔に自分の子どもが5歳まで育ったときは、そりゃあ喜んだものじゃわ。どれどれ、すぐに洗礼をするから洗礼の部屋まで着いて来てくれるかの?」


 僕とママは神父のおじちゃんの案内にしたがって洗礼の部屋という場所に向かった。


「ララはアランに、ギフトカードのことも教えているかの?」


 神父のおじいちゃんが、ママに何か聞いていた。

 ギフトカードってなんだろう?


「いえ、ギフトっていうものがあるってことくらいしか、まだ教えていないわ」


「そうか、ならばギフトカードの説明もしようかの」


 ママから聞いてるのは『ヨアトルの始まりとギフト』の絵本の内容くらいだからなぁ。ギフトカードってものは知らないなぁ。


「アランは部屋の中心の円のところに行って、手と手を合わせて目を瞑ってくれ。そうすると、女神ヨアトル様からギフトが贈られる。そのとき一緒にギフトカードという物も贈られることになるのじゃ。ギフトカードという物は、ギフトを得た者が『ギフトカード・オープン』と言葉にすることで、自身のギフトを表示するカードのことじゃ。これがあるから、皆は自分のギフトがなんなのかを知ることができるのじゃ。そして、人に自分のギフトを教えることもできるのじゃ」


 中心の円っていうのはあれかなー。部屋の真ん中に、白くうっすらと光ってる円がある。


 ギフトを貰った後に、『ギフトカード・オープン』って言えば、自分のギフトがなんなのかわかるってことなのかー。


「また、ギフトカードは宙に表示されるが、誰にも触ることはできない。そして、表示されたギフトカードは『ギフトカード・クローズ』と言えば、消すことができるのじゃ。再び表示したいときは、再度『ギフトカード・オープン』で大丈夫じゃ。あとは、今は関係ないじゃろうが、ギフトカードには自分の位階も表示されるのじゃ」


 ギフトカードっていう物はただ見るだけしかできないってことなのかな?

 でも、触らなくてもいいなら持ち運びも便利だし、いいかなぁ?


「説明はこれくらいでいいじゃろう。では、アランよ。中心の円にいくのじゃ。これより洗礼の儀を始めるのじゃ。途中で絶対に目を開けてはならんぞ? 途中で目を開けると、ギフトの付与が中途半端になってしまうと言われておる」


「はーい」


 僕は神父のおじいちゃんに返事をしてから、中心の円に向かって歩きだす。

 そして、中心の円に到着して手と手を合わせて目を瞑ると――


――目を瞑っているから、何が起きたのかわからないけど、何かがピカッと光っている。

 眩しい光が僕を優しく包み込んでくれているような、そんなどこか温かみを感じるような感覚に、僕は内心戸惑っていた。


 だけど、神父のおじいちゃんは目を瞑っていて絶対に目を開けるなと言っていたので、僕は目を開けたいのを我慢する。

 そして、そのまま手を合わせたままで、じっとしていた。

 それから長いような、短いような時間が経過した後に光が段々と弱くなってきた。


 もう、眩しくないかなぁ。目を瞑っていてもあれだけ眩しかったなら、目を開けていると凄く眩しかったんだろうな。

 今のがヨアトル様からギフトを貰うときの光なのかなー? なにか温かみを感じたのは、もしかしてヨアトル様の温かさ?

 んー、よくわからないや。僕は内心でごちゃごちゃ考えていた。


「これで洗礼の儀は終了じゃ、アランよ眩しかったじゃろうが、よく目を開けないで我慢したのぉ。偉いぞ。ギフトが中途半端に付与されるとギフトのランクが下がる可能性がある、と言われておるからの」


 神父のおじいちゃんの声が聞こえてきた。それってギフトの能力? か何かが下がるかもしれないってことなのかなー?

 眩しくても目を開けなくて良かったー。


「本来は……ギフトにはランクなどないのじゃが、人というのはなんにでもランクを付けたがるからの。例えば、聖騎士や賢者はSランクとか大魔法使いはA等級とかのぉ」


 聖騎士とか賢者とかは、絵本で出てきたから聞いたことがある! 大魔法使いも出てくる絵本があるから知ってるなー。

 絵本に出てくるのはどれも格好いいんだよなぁ。


 僕のギフトはなんだろうなー? なんか、ワクワクドキドキしてきたかなぁ。

 心なしかママと神父のおじいちゃんもそわそわしている気がするなー。でも、ママと、そして、今はここにいないけどパパにがっかりされないといいなぁ。

 二人とも優しいから、そんなことはないと思うけどー。

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