第2話 洗礼の日

 とうとうこの日がきた。今日は僕がヨアトル様からギフトを貰える洗礼の日だ。

 どんなギフトが貰えるんだろう? 洗礼の儀ってどんなことをするんだろう?

 ギフトはなぁ、僕自身には、『これが欲しい!』っていうのがないんだよねー。


 それはそれとして、僕は他の子よりも好奇心旺盛ってやつみたい。『好奇心旺盛って何?』ってママに聞いたら『アランちゃんみたいな子のことよ』って言ってた。

 まー、いろんなことを知りたい、してみたいって子のことを指すみたいだから、それなら確かに僕は好奇心旺盛なんだろうと思うかなぁ。


 あとは、大人びてるつもりはないんだけど他の5歳の子よりも大人びてるって言われるんだよなー。

 大人びているっていうのも、子どもっぽくないっていうことみたいだし? 僕はどう見ても子どもなんだよね。

 それに、僕は僕なんだから……他の子と比べられてもよくわからないんだ。


 そんなことを考えながら今日も朝ご飯の黒パンを食べていると、ママが僕に向かって口を開く。

 今日のママはいつも以上にニコニコしてるかなー? 僕はニコニコしてるママが大好き!

 ママは相変わらず綺麗で赤い髪に少し垂れた青い目、肩まである髪はたまに後ろに縛ったりもしている。僕は縛ってない方が好きだけどなー。


「今日はとうとうアランちゃんの洗礼の日ね。アランちゃんがギフトと位階を貰える歳まで無事に育ってくれたことに感慨深いわ」


「そうなの?」


 僕はよくわからなかったので、ママに聞いてみた。


「ええ、そうよ? 無事に5歳の洗礼の日まで成長できない子も……この世の中には沢山いるのよ? アランちゃんはパパに感謝しないとダメよ?」


 5才まで成長できない子もいるのかー。そういえば、3歳頃から遊んでた近所の子は二人くらいいなくなってたかな? 

 あのときのママは確か、『お友達は遠いところに行ったのよ』って言ってた気がする。それが成長できなかったってこと? どうなんだろう?


「んー、よくわからないけど、パパにありがとうをするね!」


「うんうん、本当にアランちゃんはいい子ねぇ」


 わーい! ママにいい子って褒められると嬉しくなる!

 僕が笑顔でママを見ていると、ママはまた優しく僕に語りかけてくる。


「パパがママとアランちゃんのために一生懸命働いてくれてるから、私たちはご飯を毎日食べられるのよ?」


 うーん、ご飯が食べられなくなったら困る! ご飯を食べられないと、お腹が空くもんね。


「パパありがとー」


 ここにパパはいないけど、僕はパパにお礼を言った。そんな僕を見てママは優しく微笑んでくれている。


「それじゃあ、アランちゃんが食べ終わったら教会に行きましょう? そして、教会でヨアトル様の洗礼を受けてギフトを貰いましょうね」


「はーい」


 僕は力いっぱい返事をした!


 僕がご飯を食べ終わってから、ママが僕に服を持ってきてくれた。

 なんかこの服は今日の為に特別みたい。いつもは少しよれよれの服を着てたんだけど、この服は綺麗な気がするなー。

 あっ、いつもの服が嫌いな訳じゃないよ! 服もパパが一生懸命に働いてくれてるから、着ることができるってママが言ってたしなぁ。


 僕がそんなことを考えている間にも、ママが僕に服を着せてくれている。僕は自分で着たいんだけど……そうしちゃうと、ママが悲しい顔をするからダメなんだ。

 ママにはいつも笑顔でいて欲しいからー。


「はい、これで大丈夫ね。うんうん、似合ってる似合ってる! アランちゃん可愛いわ!」


 服を着た僕をママが力いっぱい抱きしめてきた。うー、これ苦しんだよなー、ママのおっぱいが大きいからいっつも息が苦しくなっちゃうー。

 これもあんまり拒否したらママが悲しい顔をするから我慢我慢……

 僕はいい子だからね! でも、そろそろ我慢の限界かなー?


「うーん、ママー、ちょっと苦しくなってきたー」


「あらあら、アランちゃんごめんね? でも、アランちゃんが可愛すぎるのがいけないのよ?」


 そう言ってママが放してくれたけど、僕がいけないってことなのかな? 僕は何もしてないのにー、と考えているとママは僕の手を引いて歩きだした。


「行くわよー!」


 そうして僕はママと一緒に外へ向かって歩きだした。


◇◇◇


 お外はお天気が良くてポカポカとしていた。うーん、気持ち良いなー。

 こんな日はお外で走り回って遊びたくなるんだけど、今日は大事な大事な洗礼の日だからなー。

 うーん、遊びたくてうずうずするけど……我慢我慢!


 ママと手を繋ぎながら一緒にお外を歩いていると、近所の顔見知りの人たちが僕たちに挨拶をしてくれる。ママは挨拶のついでに、僕が洗礼の日なんだよって言ってる。

 よっぽど嬉しいみたい! そんなママを見ていると、僕はなんだか胸がポカポカとしてくる。


 それにしても、今日も村の中は人が少ないなー。街や王都っていう所は、もっともっと大きくて人もいっぱいいるって聞いたけど、どれくらいいるんだろう?

 そんなことを考えながらしばらく歩いていたら、いきなりママに抱きかかえられた。

 うーん、もう僕は5歳なんだから少し恥ずかしいけど……でも、大好きなママの顔が近くに来るのは嬉しい気持ちもあるんだよなー。


「アランちゃん、もうすぐ着くわ。少し疲れたかもしれないから、ママが抱っこしてあげるからね。このまま行きしょう」


「はーい!」


「いいお返事ね。アランちゃん」

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