第13話 スキル

「いきます! はっ!」


「よし、こい!」


 僕は木剣を握りしめて、ヒュージさんに斬りかかる。

 彼は僕が振るった木剣をうまく受け流して、返す力で斬りかかってくる。

 それを僕は相手と同じように受け流してから、前屈みになりながら前方へと突進する。

 死角に向けて突進した僕は、相手の脇腹に向かって木剣を払う。

 さらに避けられてもその後すぐ対応できるように、払うと同時にしっかりとヒュージさんを見ていた。


 一瞬、ヒュージさんと視線が合った後に、彼はバックステップでギリギリ僕の攻撃を避けた。

 しかし、僕はそれを良く見ていたので、そのバックステップの速さに負けない速度でさらに突進する。

 突進の勢いを利用して、そのまま突きの構えに入る。

 もう少しでヒュージさんに一撃を入れられると思った瞬間に――それは起きた。


 さっきまで僕が握っていたはずの木剣が、地面に落ちていた。


 今、何があったんだろう?

 確かに僕がヒュージさんに突きをしていたのに……気が付いたら木剣が地面に落ちて……いた?

 さらに地面に転がっている木剣を良く見てみると――折れてる? それに近づいて手に持ったところ、根元からぽっきりと折れていた。

 いったいなぜ折れたんだ? 手には折れるほどの衝撃もなかったのに……

 今起きたことを僕が考えていると、ヒュージさんが構えを解いてこちらへ近づいて来た。


「ふー。それにしても、大分強くなったな。アラン」


 彼はそう言いつつ、凄くにこにこしながら僕を褒めてくれた。


「ありがとう。ところで……今、何が起きたの?」


「今のはな……俺のギフトの力の一端で、<ウェポンブレイク>っていうスキルだ。効果は相手の武器を破壊することができる。使用する相手との力量差に成功率は左右されるけどな」


 スキルかぁ。確かそれは、特定のギフトを持っていると使えるようになるものだったかな。

 それはギフトの一部だからギフトカードにも表示されるらしいけど、僕のギフトカードには何も載っていない。

 ママは『家事』のギフトでスキルにも<家事>があるって言ってたなぁ。パパは僕と同じでスキルはないって言ってたし。

 ヒュージさんのギフトは『剣士』って言ってたから、『剣士』のギフトに含まれるスキルってことだよね。

 僕がそうやってスキルについて考えていると、ヒュージさんの言葉はまだ続くようで彼の口が開いた。


「しかしなぁ……まさか、今の段階で俺がスキルを使ってしまうとは。アランは2位階でまだ8歳だっていうのに、俺がスキルを使って防がないと攻撃を当てられそうになるとは思わなかったぜ」


 うーん? 今までずっとスキルを……あえて使ってなかったってことかな?

 確かにそう言われたら、今までヒュージさんはスキルを使ってなかったような気がする。とはいっても、どれがスキルなのかわからないから明確には言えないけど。

 スキルのことは教えてもらってないから知らなかったし、前に買ってもらった絵本にも書いてなかったしなぁ。

 それよりも日々の訓練で僕はいっぱいいっぱいだったしなー。


「今までスキルのことについて聞いたことがなかったけど、ヒュージさんはスキルをいくつ使えるの?」


「俺か? 俺は三つ、いや、正確に違うな。使えるのは二つだな。お前には今までスキルのことを教えてなかったからな。その理由は、まずはスキルどうこうよりも地力を付けてもらうためだ。それに、アランは自分以外のギフトカードを見たことがなかったろう?」


 そう言われたらそうだった。ママにもパパにも聞いただけだし、もちろんヒュージさんもそうだ。

 いや、あれ? 今は交流がなくなったライアル、ゼリオン、オリーブ、キャメリーには見せてもらったことがあったかなぁ。


「今は遊ばなくなった人たちに、一度見せてもらったことがあるかな」


「なんだ。そうだったのか。そいつらのギフトはなんだった?」


「ええと、確か……『戦士』と『魔法使い』と『シーフ』と『僧侶』だったかなー」


「ふむ、それなら……多分、その四人にもスキルはあるはずだ」


 そうなの? 昔見た四人のギフトカードにはスキルなんて何も見えなかったはずだけど。


「ああ、不思議に思っているか? そのとき見たのにスキルが表示されてなかったって」


 僕はヒュージさんに頷いた。


「そのはな、なぜかスキルについては自身にしか見えないんだ。あと、スキルは非常に親しい者にしか教えない。スキルの力はギフトの力の一端だといってもその力はかなり強い。まぁ、程度の差はあるけどな? 戦闘系や支援系や技術系など多岐に渡るから、一概に全員が全員親しい者にしか教えないわけじゃないし、その人が就いている職業によっても違う。特定のスキルが必須の職業だと教えないといけないしな? そこで虚偽の申請をしていても仕事をしていたらバレるしな」


「あれ? 『努力』のギフトにはスキルがなかったけど、なんで皆聞かなかったんだろう? もしかしたらあるかもって思わなかったのかな? 僕は自分で見たからないのはわかってたけど」


「それには理由があってな? まずは前提として、多少の例外はあるが――基本的にスキルがあるかどうかはギフトの名前である程度は予測できるんだ」


「ギフトの名前で予測できるんだ? 例えば?」


「例えばギフトの名前が職業系の『戦士』や『剣士』、得意になることを表す技術系の『剣術』やララさんの『家事』、身体的特徴系の『頑丈』や『怪力』など、それらにはスキルがある可能性が高い。あとは性格系や特徴系だと、タリオさんの『正直者』や『嘘つき』や『大食い』などがあるが、これはスキルがあるかないかは半々くらいか? その辺は俺も詳しくわからないが。なにせスキルは基本的に秘密にしている人が多い。これらはの情報はなんらかの職業に就いて公にしないとダメな者たちから集めたものがほとんどだと思う。あとは一部の高ランク冒険者か」


 うーん、なかなか難しいんだなー。それで、どうして僕に聞かなかったんだろう?


「前提で多少の例外があると言っただろう? そして、俺は前に『天才』の奴を見たことがあるとも言ったろ?」


 確かに、ヒュージさんと初めて会ったときにそう言ってたよね。


「うん」


「そいつとは昔結構仲がよかったんだが――っとそれはいいか。そいつに聞いた話では、最初はスキルを所持していなかったみたいなんだ。ギフトを貰った後は、何かを繰り返しする度にスキルが増えていったらしい。覚えれたスキルの数に上限はあったみたいだけどな?」


 スキルを新しく覚えられるギフトがあるってことなんだね。そして、『天才』のギフトは覚えられる数に上限があるんだ。


「俺はアランもスキルを覚えていけると思う。さらに『努力』は、その数に限りがなくいくらでも覚えられる気がする。まぁ、それはなんとなく思うって程度だが。上限の有り無しはスキルをひとつ覚えたらきっとわかる。それでも念のために、ある程度は優先度を決めてスキルを覚えていった方がいいだろう。あまり役に立たないスキルを習得するのに時間をかけるのは無駄だからな」


 ヒュージさんはこういってるけど、実際のところはどうなんだろう? それに優先度かぁ、その辺のことは僕はあまり詳しくないから任せよう!


「『天才』にどことなく似ている『努力』もきっと覚えられるんじゃないかと思って、俺が初めてタリオの家に行った日のお前が寝たあと、彼とララさんにアランにはスキルのことを聞かないでおいてくれって言い含めておいたんだ」


「そうだったんだね」


「俺が言い含める前にララさんが聞かなかったのは、『努力』が抽象的な名前のギフトだったから、もしそれを聞いてスキルがなかったとしたら、その行動がアランを傷付けるかもしれないって思ったんじゃないのか? 憶測でしかないけどな」


 んー、そう言われたらどうだったんだろう? ママに聞かれてスキルがなかったとしたら……僕は落ち込んだのかな? 昔のことだから実際にはわからない。

 でも、結局スキルっていうのがあるってわかったときに、僕から『努力』にスキルはなかったって伝えたんだよね。あのときママは特に何も言ってなくて僕を抱きしめてくれただけだったかな。

 僕が昔のことを思い出していると、ヒュージさんはこちらを見て再び口を開いた。


「ということで、スキルなしでここまでできるようになったんだ。ここからはアランがスキルを覚えるためにも、スキル有りでやるからな? 多分お前のギフトならスキルを取得していけるはずだ。本来スキルとはギフトの一端だから、それを付与された時にスキルも覚える。だから基本的にはあとから覚えられないんだけどな? まぁ、なにはともあれ木剣をまた作ってからだ。あー、あと同じギフトでも、スキルは個人個人で変わってくる。個人差があるってやつだな」


 僕もスキルっていうのを使えるようになるのかなぁ? もしそうなればもっと強くなるのかな?

 強くなっていっぱい稼いで、早くママとパパがずっと一緒にいられるようにしてあげたい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る