第11話 初めての鍛錬

「よし、じゃあ家の外に出るぞ」


「はーい!」


 ヒュージさんに着いて行き、外に出ると、彼は僕に話し掛けてきた。


「そうだな、まずはなによりも体力が必要だ。まずは走って走って走りまくる! 明日からは俺との鍛錬が始まる前に、自分で走っておいてくれ。あとは……そうだなぁ、模擬戦もしていきたいんだが、まだまだ小さいアランに本物の剣を使わせるわけにもいかないな。狩りに行ったときに木を切ってきて木剣を作ってやるか」


 走るのは好きだから大丈夫かな? でも、走り過ぎると『ぜぇぜぇ』ってなって少し苦しんだよなー。


「まずはその2点で、魔法はまだ先だ。よし、じゃあ走るぞ! 村はずれまで行ってから、ここに戻ってこよう」


 そのかけ声に合わせて僕は走りだす。僕の足の速さに合わせてくれているみたいで、ヒュージさんは僕のすぐ横を走ってくれている。

 しばらく走っていると、やっぱり『ぜぇぜぇ』してくる。

 うー、苦しいよー。


「アラン! 苦しいのはなんとか我慢するんだ! もうすぐで村はずれに着くぞ! 頑張れ! いきなり村はずれまでの往復は無理だったな。あっちに着いたら、そうだな……少し休憩するぞ」


「は、は、はーい」


 うー、返事をするのも苦しいよー。

 その後も『ぜぇぜぇ』しながらなんとか走って、僕たちは村はずれへとたどり着く。


「よし、休憩だ」


 足がかくかくして、僕は地面に倒れこむ。はぁー、疲れたなー。

 うーん、さすがにAランク冒険者っていうやつなのかなー? ヒュージさんは全然疲れてるように見えないからなぁ。

 『ぜぇぜぇ』もしてないし……地面で横になりながらヒュージさんの顔を見ていると、ヒュージさんは「おっ、あんな所にいい木があるじゃねーか」と言って歩いて行った。


 その様子を見ていた僕は、もしかして、木剣を作ってくれるのかな? と期待する。

 ヒュージさんの腰には剣があるし。彼はすぐ戻って来て僕の近くに座った。


「よし、アラン。これからこの木を材料にして、お前の木剣を作ってやるからな。一応俺の分も後で作るか」


「はーい」


 彼の手を見ると少し太めの木の棒を2本持っていた。腰に下げている剣を抜いて、ヒュージさんは木の棒を削りだす。

 その様子を見ていると、それはどんどん形を整えていく、棒から剣へと。しばらくすると、彼の手には立派な木剣が出来上がって握られていた。

 ヒュージさんは無造作に立ち上がって、その木剣を軽く振る。


「よし、バランスはこれくらいでいいか? いや、あと少しだけ調整するか」


 ヒュージさんが調整っていうのを終えてから、僕に木剣を手渡してくれた。


「よし、アランそれを振ってみろ。予定と違うが、今からそれで素振りをしていてくれ。俺はもう1本作っておく。あっ、その前に握りを教えてやるか」


「はーい」


 そして、ヒュージさんから木剣の握り方を教えてもらった僕は、素振りを始めた。

 何回くらい振ればいいんだろう?


「ヒュージさん、何回振ればいいの?」


「んー、そうだな。『努力』のことを考えると……まずは1日5000回は振って欲しいところだな。1度に5000回は無理だから1回の素振りにつき250回だ。それを……ええと、250を何回やればいいんだ?」


 ヒュージさんはそう言うと、地面に何かを書きだした。


「1日20セットだな。よし! 1回の素振りが250回で、それを1日20セットだ。これは毎日するんだぞ? 慣れてきて物足りなくなったら言ってくれ。回数を上げていく」


「はーい」


 ヒュージさんは再び木剣作りに集中しだしたので、僕も一生懸命に素振りを繰り返す。

 うー、だんだんと腕が痛くなってくる。でも、ここで頑張らないと!

 せっかく僕を鍛えてくれているんだ。

 ママとパパのためにも、ここでくじけちゃいられない!


 250回の素振りを終える頃には、ヒュージさんは2本目の木剣を作り終えていた。

 素振りを終えた僕はまた地面に倒れこむ。

 そして、そのまま二人で少し休憩してから、また家に向かって走りだす。


 うーん? 来るときより少し楽になっている気がする? 一応ヒュージさんに言った方がいいのかなぁ?

 でも、走りながら話し続けるのは疲れるから戻ってからにしよう。

 そのまま走って家の前まで到着すると、ヒュージさんが僕に近寄ってきて口を開いた。


「普通はこんなすぐに成果は出ないんだが一応聞くぞ? アラン、身体の調子はどうだ? 行きと帰りで何か違いはあったか?」


「なんか、行くときよりも帰りの方が楽だったかな? って感じたかなー。絶対とは言えないけど……」


「ふむ、俺から見ても行きより帰りの方が少しだけだが良くなってると思う。なにせ帰りはこっそりと速度を上げていたからな? あははは」


 ヒュージさんはそんなことを笑いながら言ってきた。

 えー、そうだったの? 全然気が付かなかったなぁ。行きと同じ速さだと思ってた。


「やはり、『努力』は成長系ってことなのか?」


 ヒュージさんは一人でぶつぶつと言いだした。

 僕はこの後どうすればいいんだろう? って思っていると、家の中からママが出て来た。


「あらあら、戻って来てたのね。少し休憩にしましょう? 安物だけどお茶を入れてあるわ。ヒュージさんも来て下さい」


 お茶だ! 喉がカラカラだったんだよなー。ママはさすがだね。今までの疲れが吹っ飛んだかのように、僕はママに向かって走りだす。


「よーし。じゃあ、俺もお茶をいただくかな。あとは、そうだな……アラン!」


 ママの方に向かっている途中で呼ばれたので、ヒュージさんに振り向く。


「お茶を飲んでから、俺は森に行って狩りをしてくる。その間アランは素振りをしていてくれ」


「はーい」


 やったー! お肉が食べられるかもしれないのかな?

 家でお茶を飲んでからヒュージさんは狩りに出かけて行った。パパは村の人を相手に行商っていうのをしてるみたいだ。


「ママー、僕は素振りをしてくるね」


「ママも見ていようかしら」


「うんうん、見ててー。僕頑張ってるんだよ!」


 ママにいいところを見せるためにも、僕は素振りを開始した。

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