第57話 冒険者学校専用ダンジョン

 三層に降りた僕は、周りを警戒しながら足を進める。

 ここは思ったより入り組んでいて、道を覚えるのが大変だ。

 そう思った僕は、もしかしたらという考えが浮かんだので足を止める。

 そして、頭の中に今まで通って来た道を思い浮かべる。

 数分そうしていたけど、特に変化が現れることはなかった。

 いつまでもそうしてはいられない僕は、再びダンジョンの中を歩き続ける。


 道中に出て来るのはゴブリンとスライムばかりで、正直相手にはならない。

 だが、やはり模擬戦とは違う緊張感があり、自分の命がかかっていると思えば、自然と動きや感覚が鋭敏になっていく気がする。

 そう考えながら僕は、冒険者学校専用ダンジョンの奥へ向かって歩き続ける。


 七層についた頃からは、敵の強さもワンランク上がっており、出て来るの魔物の中にはオークやゴブリンメイジ、ゴブリンファイターなどが現れだした。

 今現在僕の目の前には、オーク六匹、ゴブリンファイター四匹、ゴブリンメイジが二匹いる。


 まずは魔法を使う奴から仕留めようと判断した僕は、一気に距離を詰めて二匹をなで斬りにした。

 それと同時に、剣へと付着した血を払う。

 続けて、ゴブリンファイターが四方から迫ってきたので、それらを軽いステップワークで躱す。

 急に消えた僕の動きに対応しきれなかったファイターどもは、お互いに顔を見合わせている。

 そこをチャンスと見た僕は、地面を力強く蹴り、一気にその四匹に肉迫した。

 左右の片手剣を同時に扱うのに慣れてきた僕は、それぞれが意思を持っているかのように腕と剣を動かす。

 今目の前にいるゴブリンファイターは右に三体と左に一体だ。

 当然一体のほうから倒すとして、左手で剣を払う。その斬撃に首を切断された魔物は、身体を地に伏せる。

 それと同時に右側から三体のゴブリンファイターが迫って来る。


「<ウィンドインパクト>」


 虚空に薄い膜で覆われた直径5センチ程度の空気弾が発生し、それをゴブリンファイターの一匹にぶつけるために放つ。

 それは先ほどまで同じ存在だった風を切り裂く音を発生させながら突き進む。

 あっという間に魔物に迫った<ウィンドインパクト>は、額を貫通してゴブリンファイターを絶命させる。


「グギャグギャグギャ」


 先ほどまで声を出すことなく黙っていたこいつらは、急に奇声をあげた。

 仲間をやられて怒りがわいたのか? と一瞬疑問を浮かべるも、すぐにその考えを飛散させる。

 そして、そんな奇声に怯むことのない僕は、残り二匹となったゴブリンファイターも左右の剣で攻撃していく。

 初撃を手に持っている盾で防ごうとしたファイターは、僕が変化させた剣筋に追い付くことなく首を切断される。

 さらにもう一匹に向かって、地面を強く蹴ってから突きを入れた。

 その結果、ゴブリンファイターは全滅する。

 今の戦闘を少しだけ離れた位置から見ていたオークどもは、僕を難敵と判断したのか、少し逃げ腰になっている気がする。

 そんな魔物たちの様子を見た僕は、逃げられる前に始末すために動きだす。

 <縮地>を使って六匹の裏に回り込んだ僕は、無防備な背中を斬り裂いていく。

 次々に地に伏せるオークたちは、うめき声をあげながら絶命していった。


「ふぅ。戦闘中は余計なことを考えなくて済むから楽だなぁ」


 そんな独り言を呟きながら、僕は身体を伸ばす。

 血振りをした剣を腰の鞘へ戻した僕は、魔物たちが変化したアイテムなどをかき集める。


「もう少しだけ戦って今日のところは戻ろう」


 攻略しようとしてここに来た時には、野営の準備も必要だろう。

 とはいっても、結界の魔法道具は安い物ではない。

 ここで得たアイテムや魔石を売って、なんとかお金を作るしかないだろう。


「早く皆と会いたいなぁ……」


 そんな僕の呟きは、どこかじめじめとした空気を感じるダンジョンの中に消えていく。


◇◇◇


 木製の建物の中に階段があり、そこからダンジョンの中に入れる。

 その建物自体は学校の敷地内にあって、そこは厳重に管理されているのだ。

 そのため、生徒や先生が許可なく勝手に出入りすることはできない。

 また、同じ建物内に警備員の詰所があり、そこでダンジョンの入退場を管理している。

 冒険者学校専用ダンジョンの七層から何事もなく戻ってきた僕は、ここを使用する際に注意されていた内容をそうやって思いだしていた。

 そして階段を登り切った僕は、近くにいる警備員に話しかける。


「ただ今戻りました」


「了解。では退場の証明として、そこにサインをしてくれ」


「はい」


 彼の言葉にしたがい、指し示された机の上にある入退場リストに名前を書き込む。


「サインしました」


 それを聞いて、リストを確認した彼は口を開く。


「よし、問題ないな。言っていいぞ」


「はい」


 警備員に返事をした僕は、その足で自分のクラスへと戻る。

 教室内には、まだ数名の生徒が残っており雑談していた。

 さらに中を見渡してオリガン先生を探す。

 数秒もしないで発見できた僕は、彼に帰還の報告をするために話しかける。


「先生、今戻りました」


「おお。戻ったか。お前には言いたいことがあったんだ」


 その話に心当たりのない僕は、首を傾げて続きの言葉を待つ。


「しつこいようだが、もう一度だけ聞くぞ。アランは本当にこれからもソロでやっていくつもりか?」


「はい」


 それは当然のことなので、間髪入れずに返事をしたが……

 自分の頭を乱暴に掻きむしったオリガン先生は、軽くため息をついてから再び口を開く。


「お前と組みたいって生徒は相当数いるんだぞ? 本当に考えは変わらないのか? 正直ソロだと危険度が跳ねあがる」


「それは承知の上です。良く考えた上で決めたことですので。先生には心配をかけてすみませんが、これからもソロでいきます」


「はぁ。本当に頑固だな。お前は……いや、今はいないあいつらも含めて、全クラス対抗戦での出来事がなんらかの契機になったんだろう。あれほど仲が良かった四人だったのに……今となってはこの学校にアラン一人しかいないし」


「まぁ、そこは人それぞれですね。僕は自分で色々考えて、これからも行動していくだけです」


「そうか。あの時はすまなかった。いくら冒険者学校がギルドの下部組織とはいえ、あの二人の態度は決して良くなかった。グラント先生もなぁ。悪い人ではないんだが、どうにもギルドのほうに頭が上がらないらしくて。なんでも昔かなり世話になったとか……おっと、いけねぇ。話し過ぎちまったな。もう行っていいぞ」


「はい」


 先生に背を向けた僕は、教室を出て、そのまま家に向かって歩きだす。

 しかし、グラント先生にも事情があるとか……そんなのは初耳だったけど……まぁ、だからといって僕には関係ない。

 あの人を悪く思うことも、良く思うこともない。

 僕は自分ができることを精一杯やっていくんだ。あの三人と再会するため。

 ゼベクト、キャサリン、フローラとパーティーを組むために……

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