第16話 魔法の練習

 今日もヒュージさんから指導を受けるために、僕は村はずれに来ている。

 いつもの鍛錬内容はランニング、素振り、模擬戦とかだったけど、今日はその内容が違う。

 今日は……とうとう魔法の練習を始めるんだ!

 10歳になったら本格的な魔法の練習を始めようってヒュージさんに言われてからは、ずっとこの日をうずうずとしながら待っていた。


 これまでも基礎的な指導は受けていて、その内容は魔力を増やすのを目的として、魔力が続く限り水をタライに入れていたり、瞑想をして<魔力操作>を鍛えていたけどね!

 そうやってきたお陰で結構前にパッシブスキルに<魔力操作>が増えたしなー。

 そうやって今までのことを思い出しながら待っていると、後ろからヒュージさんの声が聞こえてくる。


「おう! アラン。随分と張り切ってるじゃねーか! 約束の10歳になったからか?」


 ヒュージさんは絶対わかってて聞いてきてるよね。だって、顔がニヤニヤとしているし? まぁ、僕の顔もニヤニヤとしてると思うけど。


「うん! ずっとこの日を待っていたからね!」


「そうだな。今は3位階だったか。なら、人族が使える魔法は……っと、多分アランは適性上限がないから、どんどん上位のも使えるようになっていくか。まぁ、そのためには位階も上がらないとダメだが。それなら……」


 ヒュージさんはそう言うとぶつぶつと考えだしてしまった。

 えー、ちゃんと前の日から考えておいてよね! うー、でも文句を言うわけにはいかない。

 彼には今までも相当お世話になってるからなぁ。

 それにいつも睡眠が足りてるのか少し心配になる。それというのも、リビングの他に寝る場所が僕の部屋とパパたちの部屋の二部屋しかないから、ヒュージさんはいつもリビングで寝てるんだよなぁ。

 そこにベッドはないし、いつも安物ソファーの上で寝ているのを見ているとね……

 ヒュージさんは夫婦の寝室には入れないって言って、パパがいないときでも空いてるその部屋で寝ないし、ママはママで僕と寝てるからなー。


「よし、まずは初歩の魔法から使用して、どんどん適性を伸ばしていこうと思う。アランにはこの方法がいいだろう。初歩の魔法は全部ボール系だ。<ファイアーボール><ウォーターボール><ウィンドボール><アースボール>だ。お前はいつも水を出していたから、水魔法の適性が一番上がってると思う。だが、ここからは平均的に上げていくぞ」


「はい!」


 僕はヒュージさんに向かって大きな声で返事をする!


「よし、あの木に向かって<ファイアーボール>以外の魔法を撃ちだしてみろ。<ファイアーボール>は木が燃えると危ないからあっちの岩が標的だ」


 彼はそう言って20メートルほど離れた位置にある太めの木と、そこから10メートル程度離れた位置にある岩を指差した。


 よーし! やるぞ! <魔力操作>はかなり上達してきてる。最初にそれをした時は手の平に魔力が集まるまで1分はかかっていたけど、今となってはそれが5秒まで短縮できている。

 ヒュージさんが言うには、『賢者』ギフト保持者などは1秒もあればそれをできるみたいだ。

 だから僕ももっともっと頑張らないといけない。

 ここからは集中してやるか。僕が手の平に魔力を集め始めると、いつも通り手の平に魔力の温かさを感じる。


 そして――


「<ウォーターボール>!」


 魔法を使うと同時に、僕の手の平から温かさが消える。そして、僕の目の前には20センチ程度の水球が浮かび上がっていた。

 あっ、そうだ! あの木に向かっていけと念じていないとダメだったんだ。

 僕が「あの木に向かっていけ!」と念じると同時に、水球は凄い勢いで飛んでいった。

 それが木に当たって大きな音が響く。どうなったかなと、着弾地点を見てみると、水球は消えていて残っていたのは――太い幹が途中から折れてしまい、倒れている木だった。


「おー! やるじゃねーか! やっぱり今のアランが使う魔法中では水属性が一番強いんだろう。あの大きさの<ウォーターボール>であの太さの木を倒すとは。予想以上の強さだ。よし、あとは<ウィンドボール><アースボール><ファイアーボール>も同じようにやってみるんだ。今の標的は倒れたから、次はその横の木を狙うんだ。あっ、ちょっと待っていろ」


 彼はそう言うと、倒れた木の方に駆け寄っていった。

 何をするのかな? と思っていると、それを担いで持ってきて邪魔にならない所に置いた。

 なんのためにその木を持ってきたのかと、じーっと見ているとヒュージさんが口を開く。


「ん? もうやっていいぞ。ああ、この木か? これは薪にするために持って帰るんだ。ちょうどいいだろう?」


 確かにこれを持って行けば薪に使えるね。ただ、湿ってしまったのを乾かす必要がありそうだけど。


「うん、なら帰ったら僕が薪割りもやるよ! じゃあ、魔法の続きをするね」


 そのあとは、魔力が尽きそうになるまで僕は魔法の練習を続けた。

 魔力が尽きると凄く具合が悪くなるから、ある程度は残しておいたけど。

 魔法の練習が終わった後、結構な量の木が倒れていた。そうなると帰宅する際には、当然二人で沢山の木を持ち運帰ることになった。

 それらは重たかったけど、何回か往復することでなんとか全部運び終える。今では結構重たい物も持てるようになったし、日頃の鍛錬の成果が出ているのだと実感する。

 でも、毎日こんなに木を持って帰ってもしょうがないよなぁ。明日からは岩に向けて撃つのを増やした方がいいか。

 そんなことを考えつつ、休憩も兼ねて一度家に入るとママが出迎えてくれた。


「あら、アランちゃん。おかえりなさい。ヒュージさんは?」


 ママはそう言うと同時に、僕におっぱい攻撃を仕掛けてきた。

 僕はかなり鍛えてるから、速さも上がってるはずなんだけど?

 なんでこの攻撃が避けられないんだろう? ママって実は強いんじゃないのかなぁ。


「アランちゃん? ママが聞いてるんだから答えないとダメよ?」


 うー、だって今は攻撃を受けてるから、口を開いても「ふがふが」しか言えないよー!


「ふがふがー」


「あらあら、ちゃんと話さないとダメでしょ?」


 むー、しょうがないから背中をトントンしよう。

 そうしたらやっと放してくれたので、質問に答える。


「はぁ、はぁ、ヒュージさんは木を家の横に並べているよ。はぁ、はぁ、僕と二人で持ってきたんだ。薪にするためにね」


 ふぅ、なんとか話しながらでも、息を整えれたかな?


「そうなのね。アランちゃんもすっかり力持ちになったわね。もしかして……今ならママをお姫様抱っこできるんじゃないかしら?」


 お姫様抱っこってなんだろう? 僕が首を傾げていると、ママは僕を抱き上げた。

 だから、なんでママはそんなに早いの!? 僕が内心で少しだけ文句を言っていると、ママの声が耳元で聞こえてきた。

 この体勢は凄く顔が近くなるんだなー。


「これがお姫様抱っこよー。次はアランちゃんが私にやってみてね?」


 ママはそう言うと、僕を床に降ろしてくれた。

 その言葉には逆らえないので、僕は自分がされたようにママを抱きかかえる。


「きゃー! いいわねこれ! アランちゃんにお姫様抱っこしてもらっちゃったわー! きゃー!」


 ママ! 耳が痛いよー! 声が大きいよー!!

 内心そんな風に思っても、僕が言えるのは……


「ママ、もう少し声を小さくしてくれたら嬉しいな?」


「あら、ごめんね? ついつい嬉しくなっちゃって。パパにもして欲しいんだけど、あの人は腰を痛めるかもしれないって言ってあんまりしてくれないのよねー。だから凄く嬉しいのわ! きゃー!」


 うー、これからはおっぱい攻撃の他に声での攻撃も増えるのかな……

 んー、なんでこの抱っこがお姫様抱っこっていうのかわからないなけど、ママが喜んでくれていたからいいかな?

 特に重たくないし、ただ……僕の耳が痛いだけだから……


 この後のママは、「やっぱりパパにももっと頑張ってもらわないとねー。最近はたまに帰って来ても、疲れたって言ってあっちの方もご無沙汰だしねぇ。うふふ、うふふふ」と言っていた。

 その言葉を発している時の顔は……いつもの安心する笑顔じゃなくて、どこか怖い感じがする笑顔だった。


 それを見た僕は、初めててママの笑顔が少し怖いかな? と感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る